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じゃくまる

第37話 異世界魔王とチョコレートケーキ

 ちょっと別の話になるけど、ボクたちの住む妖精郷には異世界から来た元魔王がいる。ちょうど今から半年くらい前、今が冬の時期なので、春頃だっただろうか? その頃に突如として異世界からこちらの世界に侵略をしに来たのだ。それも魔王単体で。
 その日はいつもと変わらない日常だったと思う。ただ、お昼ごろから烏天狗たちが頻繁に飛び回り始め、何やらバタバタしていたのを覚えている。
 この妖精郷の警備体制は結構しっかりしていて、空を自由に飛べる烏天狗たちを筆頭に、人間種や鬼族、猫又族や妖狐族など、さまざまな種族が集まって日本の警察と同じように活動している。空からは烏天狗が、地上の聞き込みは人間と猫又族が行い、暴徒鎮圧には鬼族が、そして封印処置はボクたち妖狐族が務めることになっている。
 その時も、やはり何か問題があったらしく、この近くの烏天狗たちが出動した後、鬼族が出動していった。この近くでとなると酒吞童子たちも出動するので、ボクたちにも情報がそれなりに入ってくる。現代ファンタジーっていうわけじゃないけど、日本などの地域に変なものが送り込まれないように防御するのも、この妖精郷の役目の一つだったりする。陰ながらみんなの生活を守るのがボクたち妖種というわけ。
 さて、さっきの話に戻るけど、どうやら妖精郷に不正接続した異世界があったらしく、不審な人物を烏天狗たちが発見し、鬼族へと連絡がいったというのが事件の概要だ。
 ちなみに、この時発見された耳の長いエルフっぽい見た目の初老の男性は、自身のことを異世界から征服に来た魔王だと述べたという。敵対行動が見られたため、鬼族が即鎮圧に動いたそうだ。時間にして数分程度で鎮圧完了し、天都お母様による封印が施された。その時にはボクも一緒に見に行ったので覚えている。
 ちなみにこの封印処置だが、魂の奥底にすべての能力を封印するという結構厳しめのもので、漫画やドラマに出てくる陰陽師のようなやり方で行うのだ。急急如律令とか言ってみたい。絶対かっこいいと思う。
 その後、侵略してきた世界へ鬼族が逆に侵攻し、対象の敵首都を陥落させて終わったという。ボクも異世界へと行ってみたかったのだが、やはりというべきかお母様には反対されてしまった。

 ボクが日課ともいえる妖精郷での近所の散歩をしていると、共同農場で働く、件のエルフっぽい見た目の男性を発見した。名前は『ライアス』さんだ。ライアスさんは今日も一生懸命作物の収穫を行っていた。
「ライアスさん、こんにちわ~」
「お、暮葉お嬢様、こんにちわ」
 あれ以来おとなしくなったライアスさんは、こうして共同農場で作物を育てているのだ。来年には水田に挑戦すると言っているくらいには、はまっている様子。
「ライアスさん、すっかり丸くなりましたよね。半年の間、結構大変だったんじゃないですか?」
「いやいや、お恥ずかしい。それなりの歳ではありましたが、まぁ若気の至りというやつですね。今は娘に向こうを任せていますから、私はこうして農作業をして楽しんでいますよ。いや、本当に殺されなくてよかった」
 ボクがそう話しかけると、ライアスさんは頭を掻きながら恥ずかしそうに言った。
 実際、ライアスさんは向こうの世界では敵なしというくらいに強い人だったらしい。でもこっちに来てから鬼族に鎮圧され、井の中の蛙だったことを理解してしまったのだという。
「それにしても、ここは良いところですね。娘も落ち着いたらこっちに呼び寄せたいと思っていますよ。こうして農作業をしてのんびり過ごしつつ、あっちにはなかった娯楽を楽しみ、余生を過ごす。近所付き合いも楽しい。良いところばかりです」
 ライアスさんは気分良さそうにそう語った。ちなみにこちらの言語に関しては、高天原の神々の協力で理解できるようになっていたりする。あーちゃんは優しい神様なのだ。
「それにしても、こちらに来てから神々という存在を実感するとは思いませんでしたよ。なんといえばいいのか、距離は近いのに遠い存在というべきでしょうか。私が敵うはずもないと理解しました」
 これは鎮圧後、移住に関してあーちゃんたち高天原の神々が審議したときの話だ。その時、あーちゃんの一声で受け入れが決まったものの、一週間ほど相応の罰をライアスさんは受けた。ボクはその内容を知ってはいるけど、あまり口外すべきではないので言わない。ライアスさんはその時に神々の力を目の当たりにしたのだという。まぁ、今も時々あーちゃんが様子を見に来ているみたいだけどね。
「あーちゃんは優しいですから、しっかり生きていけば大丈夫ですよ。それにこの場所に住んでいる妖種たちは、ライアスさんよりも長く行きますから」
 ライアスさんの種族は聞いたことはない。たとえエルフだとしてもボクたちよりは早く死んでしまう存在であることに変わりはないのだから。所謂、定命という概念に囚われた存在なのだ。
「今年もまたお祭りがありますから、是非参加してくださいね。出来れば娘さんも一緒に」
「えぇ。向こうが落ち着いていそうだったら一緒に参加したいと思いますよ」
 ライアスさんの娘さんは現在、魔王国で魔王をしているのだという。こちらの世界との繋がりは、ライアスさんが残した、向こうの世界の魔王国首都に繋がる時空の穴だけだ。その穴は固定され、入郷ゲートが設置されている。

「それじゃあライアスさん、また来ますね」
「えぇ、またお会いしましょう」
 こうしてボクは、ライアスさんと別れ、散歩へと戻った。今日の予定は近くのカフェでケーキバイキングを食べるのだ。本日限定の絶品チョコレートケーキがあると聞いては黙っていられない。急いで行かねばなくなってしまうかもしれないのだ。でも、そんな中でもこうした出会いは大事にしていきたいと思うボクなのでした。

 ~余談~

「あぁ~、このチョコレートケーキは本当においしい。もっと食べたい」
 ケーキバイキングをやっているカフェにたどり着いたので、さっそく入店。すると、チョコレートケーキを頬張りうっとりしていた黒奈を発見してしまった。ボクが来ていることにも気が付かず、ひたすらもぐもぐ口を動かしてはため息を吐いている。
「このチョコレートケーキがいつも食べられないのはなんでなんだろう。はぁ、おいしい」
「く~ろな、さっそく食べてるの?」
 ボクは近くの席に陣取ると、黒奈にそう声をかけた。
「暮葉~、このチョコレートケーキ、毎日扱うように言ってほしい」
 ボクに気が付いた黒奈は、そんな無茶なことを言ってくる。たしかにボクが言えば可能かもしれないけど、おそらく数量限定になってしまうことだろう。
「このお店はボクの異母兄弟がやってるけど、多分実現しないと思うよ? だってそのチョコレートケーキ、特別製だから毎日出すと、そう多くは提供できないみたいなんだ」
「が~ん」
 ボクの言葉を聞いて、黒奈は絶望した表情になってしまった。可愛そうだけど、こればっかりは仕方がない。
「まぁでも、こうして食べられて幸せを感じられるんだから、毎日じゃなくてもいいんじゃない? このチョコレートケーキみたいなのは無理だけど、普通のチョコレートケーキなら作ってあげるからさ」
「ほんと!?」
 いつもはのんびり屋な黒奈だけど、こういう時の反応は本当に素早い。
「本当本当。さて、ボクもチョコレートケーキ取ってくるね~」
 ボクは黒奈との話を一旦終え、ワクワクしながらチョコレートケーキのある場所へと向かう。
「さ~てと、ボクもたくさん食べますか」
 新しく補充されたチョコレートケーキのお皿を見て、ボクはさっそく手を伸ばしたのだった。やっぱり、いつ食べてもここのチョコレートケーキは最高だね。

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