青篝の短編集

青篝

白血病の彼女

俺には同い年の彼女がいて、
大学生活のほとんどは彼女と一緒にいた。
サラサラの黒髪ショートで、
ちょっと天然でアホな彼女は、
どんな時も笑顔が可愛くて、
俺のたった1つの自慢だった。
でも、そろそろ結婚したいなって
俺が真剣に考えてた時に、
彼女は体調を崩しがちになった。
俺が病院に行けって言っても、
「怖いから嫌」の一点張りで。
2015年の春の終わりに
やっと彼女の親を説得して、
病院に行かせた。
しばらくは検査入院して、
俺が会いに行く度に、
彼女は笑顔で迎えてくれた。
でも、ある日、彼女は突然、
「もう来ないで」って俺に言ったんだ。
いやいや、毎日でも俺は
会いに来るよって伝えたけど、
彼女は泣きそうな顔して
俺を病室から追い出した。
その後、彼女の親父さんから連絡きて、
俺に話があるから来てくれって。
待ち合わせのカフェに行って、
軽く挨拶した後、我慢の限界って感じで
親父さんが俺に言った。
「他の誰でもない、
君の為に、娘と別れてくれ」って。
正直、訳が分からなかったけど、
親父さんは全部話してくれた。
彼女が白血病であること、
若さ故に病気の進行が早いこと、
もう…先が長くないかもってこと。
一応、薬で治療はするらしいけど、
希望は薄いんだってさ。
親父さんが持ってた鞄から、
大量のパンフレットとか
資料が出てきて、本当なんだと知った。
それから、彼女に拒まれつつも、
俺は大学の授業が終わると
彼女に会いにいった。
髪の毛の無い頭を隠すようにって、
俺は彼女に帽子をあげた。喜んでた。
彼女が本格的に動けなくなる前に、
俺は医師に無理言って彼女を
あの有名な夢の国に連れて行った。
約束だったんだよ。
2人の始まりの場所に、
またいつか、もう1回来ようって。
何があっても対応できるように、
彼女の親父さんを入り口に待機させて、
俺達はベンチに座って色々なことを話した。
その日は最初から最後まで、
彼女は笑ってくれてた。



その年の夏の真ん中で、
彼女は亡くなった。
大学で模試を受けた後、携帯見たら
彼女の弟さんから鬼のように着信来てて、
電車で彼女の病院に向かった。
片道1時間と十数分。
毎日のように通ってたけど、
この日が1番長く感じた。
両親に挨拶して、彼女の顔を拝んだ。
俺があげた帽子を被って、
うっすらと笑みを浮かべてた。
葬式も参列した。彼女が死んでも、
就活の事を考えないといけないっていう
事実に腹が立ったけど、これが現実だった。
人が一人死んだところで、
変わらずに社会は動いてるんだ。



彼女が亡くなった年の冬休み、
俺は久々に実家に帰ってきた。
彼女が入院してからは
ずっと彼女の横にいたかったから、
実家にはあまり帰れてなかった。
母と妹に事情は説明していたし、
どこか元気のない俺が帰ったところで、
何に言わずに迎えてくれた。
それで、俺は母から一通の手紙をもらった。
宛名は俺になっていて、
差し出し人の名前は、彼女だった。
彼女は、亡くなる前に手紙を残していて、
それが俺宛にもあったのだ。
彼女の両親から、実家に郵送したらしい。
俺が落ち着いてから手紙を読めるように、
配慮されてのことだろう。
可愛らしい花柄の手紙を、
俺は自分の部屋で一人で読んだ。
涙が溢れてきた。
俺にキツく言ってしまったことへの謝罪や、
先に死んでしまって申し訳ないと、
俺との思い出を振り返ると共に、
たくさんのことが書かれていた。
その手紙の最後には、
これ以上ないくらいの感謝が書いてあった。
俺の方こそ、幸せに出来なくてごめん。
それから、俺のことを最後まで
好きでいてくれて、ありがとう。


10年が過ぎた今でも、
俺は毎年、彼女の墓を訪ねている。
いつまでも未練がましく
彼女のことを想っても、
何も生まないと分かっているけど。

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