元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
敗北の責任!
「今日はお疲れ様。今から反省会しようと思ってたけど、今日の反省会は私抜きで選手達で思うことを話してみて。」
クールダウンが終わり、全員が集まったところで監督はいきなり俺たちに全てを任せてその場を後にした。
「......。」
空気が重い。
少し沈黙した後にいつものように大湊先輩が仕切りを始めるはずだ。
「今回は大湊先輩がまとめなくていいと思うんですけど。いつも大湊先輩に任せっきりの部分が大きいと思うので。」
俺がそう伝えると思い当たる節があるのか、反論はなかった。
それと同時に誰も口を開かなくなった。
こうなってしまってはどうしようもないので、俺が話をまとめようとしたその時。
「今日の試合はしょーもなかったわ。」
今日出番のなかった剣崎先輩が口を開いた。
海崎先輩と2人で副キャプテンをやってはいるが、2人が仲悪いこともあり結局キャプテンの大湊先輩が全てをこなしていた。
「特にピッチャー陣。海崎も西も打たれすぎやないか?バッティングピッチャーとしか思えんやったわ。」
「は?クソゴリラこそ光琳館戦で戦犯になってレギュラー外れたくせに。あの試合勝っとけば波風と戦わなくてもよかった。」
「ふん。あの試合も西が6回持たず6失点でKOされたんやで?七瀬も柳生もお気に入りで使われとるかもしれんが、贔屓されとるだけやないんか?」
剣崎先輩と海崎先輩が早くも言い争っている。
剣崎先輩も言いたいことも分からなくはないが、これは俺や監督が実力を見るためにやったせいでもある。
戦犯の矛先が1年生バッテリーに向いたことで、柳生は全く納得していない様子だった。
梨花は自分のことを言われているのにも関わらず、聞いているか聞いていないか分からない態度だった。
「おい。西。聞いてんのか?」
「ん?あぁ。申し訳ないです。」
とりあえず謝っていたが、聞いていないことに謝っていたのかピッチングについて謝っていたのかが分からなかった。
「そもそもちゃんと聞いてた?責任はお前のピッチングにもあるって言ってるんだけど。」
「聞いてましたよ。だから謝ったでしょ?投げたピッチャーが一番分かってるんで。」
「本当に思ってるような返事じゃねぇよ。」
「確かに光琳館戦で6失点、今日4失点ですよね?それについては弁解の余地もないですよ。」
「ならやっぱりピッチャーのせいやないか。このミーティングもこれで終わりでええやろ。」
「よくないでしょ。戦犯はワシでもいいですけど、野手のみんなはどっちの試合も全力を尽くしたんですか?その答えを聞かせて下さい。」
梨花は内心イラッとはしているだろうが、出来るだけ感情を押し殺しながら質問を投げ返した。
「当たり前やろうが。手を抜くわけないやろ。」
剣崎先輩が当たり前と断言したけど、他の選手はどう思っているんだろうか?
「本気で言ってます?遠山さんが怪我して、中田が怪我して、あたふたして試合どころじゃなかったと思いますけど?」
梨花は野手の全員が当てはまる痛いところをついてきた。
「そりゃ動揺もするやろうが。」
「ワシは動揺してなかったんですけどね。あまりにもアクシデントに読んすぎるんじゃないですか?ワシが実力不足なら野手の全員は心が弱いと思いますけどね。」
「おい!少し速い球投げられるくらいで調子乗ったこと言ってんじゃねぇ!その口の利き方も態度も気に食わねぇから、野手も味方してくれないんじゃないのか?」
その言葉は梨花にはまずいと思って俺がフォローに入ることした。
「ふざけんな!お前、そんなこと思って野球してるなら許さないぞ!!」
海崎先輩は小さい体で30cmも大きい剣崎先輩に掴みかかっていた。
梨花を庇っての行動かと思っていたが、多分なにか本人の琴線に触れてしまったのだろう。
「2人ともやめて!話し合いでしょ!落ち着いてよ!」
二人の間に割り込んできたのは、2年生でも大人しい進藤先輩だった。
あまりにも意外な人が仲裁に入ったせいか、お互いに掴みあってたユニホームから手を離した。
「あほらし。好き嫌いで野球する奴は好きじゃねぇ。」
梨花は怒りを完全に抑え込むことが出来ていないようだった。
梨花は態度自体はそこまで褒められたものではないが、1度も練習をサボったこともないし、雑用でも嫌な顔1つせずに真面目にやってきた。
これまでの野球人生で、色んな人にずっと反抗しながら野球をやってきて、いつも除け者にされてきた。
高校からはこれまでかなり真面目にやってきていたからこそ、今さっきの剣崎先輩の発言は許せなかったんだろう。
「梨花。どこに行くつもりだ?怒るのは分かるけど、今この場から居なくなっても同じことの繰り返しになるぞ。」
「...わかったよ。」
バツが悪そうに1番離れたところに座った。
「東奈くんはどうなの?この試合もそうだけど、光琳館の時ももっと勝つ為に何かしたらよかったんじゃないの?」
俺に質問を投げかけてきたのは美咲だった。
この前話した事をこの逃げ場のないところで投げかけてきた。
「最初にはっきり言うけど、俺はこの試合に関しては勝てるとも思ってなかったし、特に勝つための策も練ったりしてない。」
「...東奈くん。それってホント?」
俺の事をずっと信じてついてきてくれた夏実が悲しそうな声で質問してきた。
夏実にそんな顔をされると俺も嘘をついて言い訳しようと思ったが、ここはそういう場ではないと腹を括ることにした。
「そもそもここにいる選手の何人が波風に勝てると思ってたんですか?試合終わった後の様子も見てましたけど、波風に負けても仕方ないって感じでしたよね?」
「もしそうだとしても、東奈くんがコーチとして試合を勝たせようとしてないのは別の話だよね?」
追撃してきたのは夏実の横にいた七瀬が、俺を逃すまいと質問で返してきた。
「確かに試合に勝つ策を練らなかったのは本当だし、それを否定することはしません。一つだけ俺が言えることがあるとすれば、他人に責任転嫁してるうちは絶対に強いチームになんてなれないです。」
「なにそれ?どういうこと?」
「このミーティングもそうですけど、戦犯を探して攻撃するところから始まりましたよね?光琳館の時も今日の試合もどうしたら勝てると思いましたか?」
「それはピッチャーが...。」
「.........。」
剣崎先輩は繰り返すようにピッチャーのせいだと主張して、他の選手たちは口を挟まず黙ったままだった。
「光琳館戦は確かにレギュラーではなく、ベンチメンバーも試合に出しました。レギュラーメンバーなら勝てたと思いますか?今日の試合とスコアを見れば10-4で、波風相手なら野手はよくやったと思えますか?」
試合結果。
野手成績
結果打安本点四死盗
四条3201001
時任2000100
大湊3100000
橘桔3113000
月成3000000
進藤3000000
瀧上3000000
柳生3000000
西梨2100000
投手成績
結果 投球回  安振四死失責 球数
海崎 3回1/3 1011066 86球
西梨 3回2/3 721044 76球
「今日の結果はピッチャーは17安打で10失点はやられすぎですね。」
「これを加味しても野手の打撃も褒められたものじゃないですよ。桔梗が1発打ったからいいものの、これから桔梗に回して頼りっぱなしはどうかと思いますよ。」
俺はこれまでの試合を見てきて俺の意見を全員に説明した。
チームとして今は上手くいっているように見えているが、このチームの大黒柱は大湊先輩だということ。
その結果、試合中に大湊先輩の負担が大きくなりプレーに少しずつ精彩をかいている。
大湊先輩はそれを否定していたが、その影響は試合に勝ち上がり、相手が強くなってプレッシャーのかかる場面が増えるにつれて、打席の内容が悪くなってきたことを伝えた。
それについてもたまたまだと強がっていたが、光琳館戦と今日の試合も塁には出れていた。
先週の練習試合でも2安打していた。
打席の内容は絶好調そのままだったが、今日の試合はその調子の良さが感じられる場面がなかった。
本人が自覚がなくても、いつも指導している選手のことは外から見ているとよく分かる。
もしかして間違っているかもしれないが、なにかしら打撃に影響を受けているのは間違いない。
そして、もう一つは...。
「チームとしての目標が俺にはいまいち伝わってこない。今日も九州大会に出られて満足だと思う人もいるだろうし、もっと先に行きたいと思う人もいるはず。」
俺は間髪入れずに話を続けた。
「チーム同士で仲良しになって欲しいは思わないけど、チームで野球をして行くならどこを目指すかはちゃんと決めた方がいいと思います。」
「目標?甲子園に出る!みんなもそうだよね?」
即答したのは大湊先輩だった。
彼女は当たり前のように甲子園という具体的な目標を口に出した。
「...そうですね。」
一呼吸おいて返事をしたのは桔梗だった。
他の選手たちはまばらに返事をして、その意識の違いに大湊先輩もそのまま黙ってしまった。
「いきなり甲子園を目指すって言っても、そんなの現実的じゃないって人もいると思います。再来週に面談を行うので、個人目標とチーム目標を自分で決めてきてください。その目標は監督と自分とその本人しか共有しないので、本当の気持ちを聞かせて欲しいです。」
「はい。わかりました。」
俺の話が一区切りすると、ここでも大湊先輩が俺にわざわざ丁寧に挨拶をしてその場を後にした。
2年生はまとまりなく俺に頭を下げて解散する選手もいれば、やっと終わったとつまらなさそうにその場を後にする選手もいた。
1年生達は俺がコーチとして接してる時は敬語も使うし、解散した後も形だけは帽子を脱いで頭を下げていく。
「どうしたもんかね。」
俺が思った以上にチームはまとまっていなかった。
監督は最初からそれがわかっていて、チームのあり方についていつも選手や俺たちに問いかけていたんだろう。
とにかく三者面談の時に選手たちの話を聞くしかない。
その返答次第では俺は彼女たちを見限るかもしれないし、逆に彼女たちが俺の事を見限る可能性もある。
どちらになったとしても、選手たちと俺は対立することになるかもしれない。
俺は先程まで激論をしていた場所に1人で佇んでいた。
普段なら1年生が話しかけてくるが、俺の雰囲気がいつもと違うのか遠慮して1人にしてくれたみたいだ。
選手たちに気を使わせて悪いと思いつつも、そういった気遣いをしてくれることをありがたく思っていた。
「東奈くん。明日はどうする?」
俺がその場で考え事をして暫くすると、監督が俺の隣に座り込んできた。
「明日って...。え?九州大会出たから辞退したんじゃないですか?」
「辞退はしてないよ。ただ今日の試合勝ってれば不戦敗になる予定だったけどね。」
「1年生大会ですよね?今日が1回戦でしたよね?」
「そうだよ。九州大会に出たから抽選で2回戦からになったって話したよね?2回戦は明日だから九州大会1回戦負けたら出れるってこと忘れてた?」
「いや...。忘れてはないんですけど、今の状況で1年生大会出てもいいもんなんですかね?」
「いいんじゃないかな?というよりも、明日の1年生大会を楽しみにしてる控えの選手もいるからね。」
みんなが気落ちした状態で大会に出てもろくな事にならないと思っていた。
1年のレギュラーメンバー以外が、試合に出れる機会があるなら出るべきだとすぐに思い直した。
「ちゃんと分かったみたいだね。その理由もあるんだけど、本当の理由は別にあるんだよね。」
「本当の理由とは?」
「1年生大会は公式戦だけど、優勝しても甲子園とかは全く関係ない試合になるから、東奈くんにも課題をこなしてもらおうと思って。」
監督はこれまで俺の好きにしていいと言ってくれていた。
その監督が思わせぶりな態度で言われると嫌な予感がするし、それは俺に努まることなのだろうか?
「じゃ、課題を伝えるね。」
「えぇ...。もしかしたらと思ったんですけど、本当にいいんですか?」
「決めてたことだしね。急になっちゃったけど、試合負けちゃったから責任と思って頑張ってね。」
監督は言いたいことを伝えると、選手たちを友愛の試合を見せるためにバスで移動してしまった。
俺はそのバスには乗らずに、早く帰って課題について考えるように指示された。
「まじかよ。」
俺は更にその場で呆然とすることになってしまった。
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