元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

VS光琳館!



中渡瀬みゆ。


準々決勝の相手の光琳館とのメンバー表を交換をして、スコアブックに相手チームのスタメンを記入しているとその名前があった。



昨日、吹雪から情報を教えてもらっていたピッチャーが運良く先発で出場してきた。


牽制の癖も教えてもらっていたが、抜かりなくどんな球を投げるかも情報を仕入れていた。


基本的にはそこそこのスピードのキレのあるストレート中心で押してくる投手らしい。

コントロールにはバラつきがあるらしく、決め球はスプリットを使うことが多いとのこと。

他には変化量を抑えて、球速を重視したハイスライダーとタイミングを崩す用のカーブ。


カーブとスライダーを投げない投手なんてほぼ居ないし、バッターもその2球種を打てないようだと話にならない。


スプリットやフォークはストレートに自信のある投手が使うことが多い。

女子野球も例外ではないが、男子に比べると手が小さいのでフォーク系の落ち方やキレは投手によってかなりレベルが違う気がする。



梨花のスプリットは、スピードはともかく落ち方は男子顔負けのボールを投げている。


梨花の場合はそれは関係ないところが弱点になっている。

どれだけいいスプリットを投げても、スプリットしか投げられないのが問題だ




「全員集合ー!!」



大声で全員に集合をかけ、俺の声を聞いた選手たちはすぐさま集まってきた。



「今日は自分がスタメン発表しますね。」



「東奈くんがスタメン発表って初めて?」



「1年の練習試合ならありますけど、公式戦だと初めてだと思います。」



俺は特に緊張していなかったが、気を使って大湊先輩が声をかけてくれた。

こういう場面になると、大湊先輩をキャプテンに選んだのは本当に正解だったと思う。



先攻 白星高校


1番.進藤(三)
2番.遠山(左)
3番.大湊(遊)
4番.橘(一)
5番.剣崎(右)
6番.中田(二)
7番.西(投)
8番.七瀬(捕)
9番.王寺(中)



後攻 光琳館高校



1番.尾崎(遊)2年
2番.田中美(一)2年
3番.鈴木(右)1年
4番.赤井(三)2年
5番.嶋野(捕)2年
6番.田中真(中)1年
7番.中渡瀬(投)1年
8番.青木(二)2年
9番.間野(中)1年




「光琳館は1年も多くスタメンで使われてる。うちも今日は1年生が5人スタメンで、2年生の先輩達には1年のカバーをお願いします。」



「「はい!」」



「1年生はとにかく1つ1つのプレーに手を抜かずに全力でやってきて。」



「「はいっ!!!」」



1年生はやる気満々といった感じで、2年生よりも一際大きな声で返事をしていた。


簡潔に檄を飛ばし、そのまま大湊先輩が円陣のど真ん中で選手たちに声掛けしていた。


ほぼ全員が真剣に話を聞いていたが、今日スタメン落ちしたかのんだけ、あからさまに話を聞いていなかった。



「九州大会決めたからって気を抜くな!一戦一戦全力で勝ちに行くぞぉ!」




「「おぉぉ!!!」」



円陣が終わると七瀬と柳生をベンチの端に呼び出した。



「まず柳生は今日は多分出番ないと思う。だからこそブルペンで投げる控え投手の調子とか裏方に回って欲しい。」



「途中交代もない感じ?」



今日出番がないと言われてすぐに納得する訳もなく、やや不服そうな感じだった。

試合前からやる気なくなるようなことを言うのもどうかと思ったが、試合中不貞腐れるようならチームの司令塔とはなり得ないと思っていた。



「七瀬が怪我しない限りは今日は七瀬でいくつもりだからね。控えになった途端やる気なくなったら今日は何もしなくてもいいよ。」



「は?そんなこと一言も言ってないけど?」



「それならしっかりとピッチャーの調子とか見極めておいてね。それと今の七瀬がどれだけ出来るかも見ておいた方がいいかもね。」



また煽りっぽくなってしまったが、最近の柳生は正捕手になってから少しだけ安堵してるような気がしていた。


これも俺からみた姿なので、全然見当違いの可能性も大いにあると思っている。


柳生はまだ七瀬と差があると思ってるところがある。

だからこそ、今日の試合で七瀬が活躍してくれると柳生の気持ちも引き締まるだろう。



「七瀬はさっきの話聞いてたと思うけど、交代するつもりはないから、どんだけ酷くてボロボロでも最後まで使うからね。」



「はい。わかりました。」



「脅してるように聞こえるかもだけど、いい結果残せたら九州大会とかこの次の試合のスタメンも考えてるから頑張って。」



確かに柳生のキャッチャーとしての能力は高いものがあるのは分かっている。

公式戦を重ねてきてやっと分かってきたことがあった。


柳生には見え隠れする弱点があり、それは練習をして補えるものではない。


それは今指摘してもすぐに修正できるものでもないし、この秋の大会が終わった後に伝えることに決めた。



「ふぅ。とりあえず今日はスタメンマスク頑張って。私はブルペンで役割こなすから。」


「ありがとう。東奈くんが言ってたけど、ブルペン捕手だからって不貞腐れないでね。」



2人は一瞬だけ目線を合わせたが、すぐに別々の方向に歩き出した。


2人はいいライバルになると思っているが、今の様子だけ見てるとただの仲の悪いチームメイトにしか見えない。



「ちょっと言い過ぎたかな。」



俺は激の入れ方を間違えたかなと思いつつも、今は試合に集中することにした。




ー七瀬視点ー


やっとチャンスが来た。

今年は東奈くんの言う通りにやって力をつけることに必死だったけど、公式戦でスタメンで出られるとは思わなかった。


なんでスタメンに使われたかは、なんとなくわかっていた。

柳生の気をもう一度引き締めるためか、言葉通り私が今どれくらい試合で出来るかを見極めようとしている。


白星に入学すればすぐにキャッチャーとしてデビュー出来ると思っていた。

強い高校ではないのは知っていたし、私自身も投手として県外の強豪校からスカウトも来ていた。


3年の三本木先輩は仕方ないと思っていたけど、こうもあっさりと同じ同級生に正捕手の座を取られるとは思っていなかった。


別にそのことについて不服なわけでは無いし、柳生と比べると明らかに私自身の方が下手というのも納得出来る。


誰がどの特待ランクかなんて話したことは無いけど、桔梗がS特待というのは何となくみんな分かっている。

かのんと西さんも間違いなくAだろう。


もう1人が氷か柳生なんだろうけど、もしも氷だったらB特待の柳生と、スタメン争いさえ出来ていない自分が不甲斐なく思っていた。



だからこそ、今日のチャンスは絶対に生かしてみせる。




ー龍視点ー



先攻 白星高校 対 後攻 光琳館高校



この試合、まず先制したのは白星高校だった。

今日1番でスタメン出場した進藤先輩が、相手投手の中渡瀬さんの立ち上がりが悪いことが分かると粘る方向へとシフトした。


結果的に8球粘り、相手の投げるカーブ、Hスライダー、スプリットを投げさせることに成功していた。


ストレートを打ち損じてサードゴロに倒れるが、相手の投げるボールを引き出すという仕事はしっかりとこなした。


続く遠山先輩も、コントロールに苦労している中渡瀬さんのボールを見極めて、7球粘り四球で出塁。


大湊先輩もボールを見極めていくかと思ったが、ストライク先行させたい相手バッテリーの甘いストレートを、初球から狙い打ちしてライト前へ引っ張っていった。


遠山先輩は無理せずにセカンドストップして、ワンアウト1.2塁のチャンスで4番の桔梗に打席が回ってきた。


桔梗は相手バッテリーから変化球で攻められたが、いつも通りの選球眼できっちりとボール球は見逃して、中渡瀬さんはこの回2つ目の四球を出してしまった。



ワンアウト満塁の大チャンスで5番の剣崎先輩の打席。


投手のコントロールがどうだとか関係なく、ストライクゾーンを初球からガンガンスイングしていく。


ツーストライクに追い込まれてから、低めのHスライダーを打たされて、ボテボテのサードゴロになった。


一気にダブルプレーでチェンジかと思われたが、ホームはアウトでファーストは間一髪セーフで、ツーアウト満塁に変わった。



ここで公式戦初スタメンの美咲がやや緊張した面持ちで打席に向かっていた。

慎重過ぎたのか初球と2球目のストライクを見逃し、三振を狙ってきたスプリットを見逃した。



カウント1-2からもう一球空振り三振を狙ってのスプリットを投げてきた。

しかし、これが高めに浮いてしまい美咲の振り抜いた打球は、あっという間にレフト前に転がっていた。


2塁ランナーの大湊先輩はホームを狙っていたが、打球が強すぎて3塁ストップになってしまった。


美咲の高校の公式戦初ヒットがチームを勢いづけるタイムリーヒットになった。



ツーアウト満塁で確実性はないが、その日の調子によっては期待の出来る梨花がバッターボックスへ。


初回から試合の主導権を完全にとってしまいたかったが、緩いカーブを豪快に空振りしてスリーアウトチェンジ。


相手の初回の投球内容で一点しか取れないのは、俺的にはかなり不満の残る攻めだった。


中渡瀬さんは初回から33球を投げて早くもバテ気味だった。

畳み掛けられなかったことをチーム全体が引きずってしまった。



梨花のストレートがかなり低めにバラついていた。

原因はすぐに分かった。
ピッチャーマウンドが多分柔らかすぎるんだろう。


いつもの梨花よりもほんの数センチ深く踏み込んでいる気がする。

低めにボールがいってるからいいという訳では無い。

投げる度に踏み込む位置を何度もスパイクで踏んでならしていた。



足元を気にしすぎたのか、今度はリリースポイントがバラついてきてコントロールがつかなくなってきた。

こうなってくると修正するのに時間がかかってくるし、梨花は器用な投手ではないので更に時間がかかるだろう。



コントロールが上手くいかないなりにどうにかストライクを取っていた。

それでもカウントを悪くしてからの甘いストレートを打ち返された。


ストレート自体にパワーもあるし、スピードもあるからか完璧には捉えられない。

それでも運が悪いのか、野手の守っていない場所にボールが飛び続けた。




「やった!この回3点目!」


四球を2つ出しながらも、どうにか無失点でツーアウト満塁まで来たが、6番7番に連続で外野の手前に落ちるポテンヒットで3失点してしまった。



8番に対してはスプリットで空振り三振を取って、3点を失ってベンチへ戻ってきた。


梨花も初回38球をという多すぎる球数を投げさせられ、ベンチに戻ってくると不機嫌そうにベンチの端に座っていた。


普通ならここで七瀬が話しかけるところだが、この回は運悪く七瀬からの攻撃だった。


その代わりに柳生が梨花の元に行き、なにやら話を聞いているようだ。

聞かなくても大体何を話しているかは分かる。


多分、今日コントロールがつかない理由を聞きに行っている。

梨花は失点はしたが、7番.8番と対決している時は大分コントロールを持ち直していた。


長いイニングは無理かもしれないが、この後は多分大丈夫という自信が俺にはあった。



この回もチャンスは作ることが出来た。

七瀬が甘く入ったストレートをセンター前に弾き返すと、凛が2球目をファースも前へ手堅く送りバントを成功させた。


1番に戻って進藤先輩がまたしつこく粘り、今度はきっちりと四球をもぎ取っていた。

あれだけ可愛い顔をして、打席の中では相手のピッチャーからすれば1番性格が悪く感じるだろう。



チャンスで遠山先輩の打席だったが、得意の右打ちでライト前を狙っていた。


中渡瀬さんのカーブを上手く捉えていたが、打球はセカンド真正面に転がり、4-6-3のゲッツーでこの回の攻撃を終えた。


梨花は2回からはほぼ立ち直ったと言ってもいいピッチングを披露した。


低めに集まっていたボールを高めにも散らしながら、ストレートの球威でカウントを稼いで最後はスプリットで空振り三振を奪っていった。


この回先頭の9番をスプリットで三振に取り、1番には2打席連続の四球を出したが、続く2番もスプリットで三振を奪う。


1年でクリーンナップを打っている3番の鈴木さんにも、高めの威力のあるストレートを打たせ、内野フライに打ち取った。



3回突入してこの回は昨日の試合から合わせると、4打席連続ヒット中の大湊先輩からの好打順。


打席内でも調子の良さが分かるくらいにタイミングもバッチリで、中渡瀬さんのボールもよく見えている。


勢いそのままカウントを稼ぎに来たストレートを強振して、いい打球音を残してライトスタンドへ一直線に伸びていく。



ベンチ全員が身を乗り出して打球の行方をはしゃぎながら見つめていた。


だが、あらかじめかなり深めに守っていたライトがフェンス手前でボールをキャッチ。


普通のシフトなら長打コースだったかもしれないが、昨日の3安打と今日の1打席目の調子の良さを分かっていて、長打警戒のシフトを敷かれていていた。


完全に抜けると思っていたのか、セカンドベースの手前で失速して、悔しそうにライト方向を眺めていた。


逆に1回戦に右田さんから2発ホームランを打ち、絶好調かと思われたが最近調子の良くない桔梗がバッターボックスへ。


中渡瀬さんは大湊先輩の打球がアウトになって少し気が抜けたのか、桔梗に対して初球からど真ん中付近へのストレートを投げ込んできた。


慎重な桔梗でもこれだけ甘いストレートを見逃す訳もなく、大湊先輩に続いて強烈な打球がレフトポール際へ飛んでいく。


右と左が違うだけでさっきと同じような光景が目の前にはあった。

ベンチを乗り出すようにして桔梗の打球を見つめている選手達。



「ファール!!」



3塁塁審から悲しみのファールのコールでベンチ全員がガックリと肩を落として、各々いた場所に戻った。


いつもの桔梗なら今のストレートをファールにせずに、きっちりとレフトスタンドの芝生の上に叩き込んでいたはずだ。


今の打球は飛距離は十分だったが、絶好球過ぎてタイミングが早くなって、僅かにレフトのポールの外へ切れてしまった。


打った瞬間入ると分かっていたのか、桔梗は走り出さずに打席の中で打球を祈るように見つめていた。



今の打球を見て、光琳館はより深い長打警戒の守備シフトを敷いてきた。


逆にこれが桔梗にはいい方に作用することになった。

仕切り直しての2球目のHスライダーをバットの先っぽに当てて、打ち損じた打球が外野のやや手前に落ちた。


ファーストでオーバーランしていた桔梗は複雑な顔をしていたが、ヒットはヒットなのでここから桔梗に運が味方してくれたら嬉しいけど…。



今は負けてはいるが、流れを向こうに渡すことなく食らいついている感じだ。


1打席目はあわやゲッツーになりそうなサードゴロを打った、剣崎先輩がバッターボックスへ。


剣崎先輩はどんな場面でも自分のバッティングを変えることはない。


この回は強烈な当たりを2本打たれてやや精神的に辛いはずだけど、それがピッチングにどのような影響をもたらすのか?



俺の思った通り、身体のかなりデカい剣崎先輩には警戒したピッチングをしてきた。


3球連続でボール球になり、中渡瀬さんもストライクを取らないと行けない場面になった。


スリーボールノーストライクからバッターが打つことはあまり考えられない。

ストライクを2つ取られてもまだ余裕があるので、よっぽど甘い球か自分がほぼ100%打てる球以外は打つことはない。


打つのであれば、ヒットはほぼ絶対に求められるし、ゲッツーでも打とうものなら即交代もありえる。


4球目、ボール球を投げられないバッテリーは相当甘いストレートを投げ込んできた。



剣崎先輩はなんの迷いもなく甘いストレートをフルスイング。



しっかりと捉えた打球はセンターの後方を襲う打球になった。

打った瞬間ほぼ長打コースと分かる打球を見て、一塁ランナーの桔梗はホームを狙うために早くも2塁手前まで走っていた。



剣崎先輩もホームランになる打球ではなかったので、できるだけ先の塁を狙って全力疾走していた。




「桔梗ー!ホームまで帰ってこーい!」



桔梗は2塁を蹴って3塁へ向かう。
2塁と3塁の中間で桔梗はランナーコーチを見て、ホームに行けるか行けないかの指示を確認している。




「だめ!橘!一塁に戻ってぇ!!」



3塁のランナーコーチの大声を聞いて、桔梗は慌てて足を止めその場で振り返ってセンターを確認する。


センターはホームに背を向けて倒れ込んでいた。


一体何が起きたのか桔梗には分からず、とりあえず一塁へ戻っていた。


センターが昨日のかのんのファインプレーを思い出させるプレーで、剣崎先輩の長打になる打球を捕っていた。


センターは起き上がるとすぐに中継にボールを返球して、ボールを受け取ったセカンドは、飛び出した桔梗をアウトにするためにファーストへ送球。



桔梗はファーストに懸命に戻った。




「アウトォ!!」



懸命に戻ってファーストへ頭から滑り込んだが、それも虚しくダブルブレーでチェンジになってしまった。



流石にこのファインプレーからのダブルプレーは、これまで我慢して掴んでいた流れを手放してしまった。


飛び出した桔梗を責めるのはなかなか難しい。

今のは誰か悪いとかではなく、ただあの打球を捕ったセンターが凄いという一言に尽きる。



強烈な打球を3.4.5番と続けたが結果的には三者凡退という、期待した分チームに落とす影は大きくなってしまった。



チームの雰囲気は悪いまま3回の守備についた。

大湊先輩と守備の要の七瀬は守っている選手たちに声をかけて、その声掛けにみんな声を出して応じていた。


それでも声が出てるだけで、悪い流れは守備にも襲い掛かっていた。



光琳館はこの回4番からの攻撃で、この試合初めてスプリットを外野まで飛ばされた。


その打球が左中間方向に飛んで、遠山先輩と凛が捕るために必死に追っている。



「おい!危ない!!」



その声は大湊先輩だった。
その声とほぼ同時に2人は打球を捕る寸前で激突してしまった。



ボールは一瞬だけ遠山先輩のグラブに収まったように見えたが、その衝撃でボールがグラブから飛び出てしまった。


すぐに起き上がったのは、ボールを捕れなかった凛の方だった。


近くに落ちたであろうボールを探して、見つけるとすぐにセカンドにボールを投げ返す。


そのままぶつかって立ち上がらない遠山先輩の元へ駆け寄っていた。


すぐさまタイムをとって、フラフラしながら立ち上がる遠山先輩の元へすぐに駆け寄った。



「遠山!どこが痛い?」



「…………。」



痛いところを手で押えていた。
血が出たりはしていなかったけど、こめかみの部分に凛の肘辺りが当たった可能性がある。


軽い脳震盪みたいなものを起こしたのか、足元もふらついており、このままプレーさせるのは危険と判断することになった。



凛はどこかを怪我した様子はないが、先輩を怪我させてしまったことで相当動揺していた。



「凛、大丈夫か?」



「え?あ、うん。」



「痛いところとかもないか?」



「え?う、うん。」



返事が曖昧で俺の言っていることが分かっていないような感じだった。

俺はこのままだとこの悪い流れを断ち切れずに、負けると直感でわかった。



「夏実、遠山先輩と交代でレフトに入ってくれる?」



「え?監督がそう言ってたの?」



「いや、この場面は夏実がいい気がしたから。監督には俺が決めたって言っとくから準備しておいて。」



俺は初めて監督に相談せずに、勝手に遠山先輩の代わりに夏実を出すことに決めた。



「江波と遠山を交代?瀧上じゃなくて?」



「守備的にいえばそうですけど、こればっかりは自分の直感ですね。」



「んー。東奈くんがそういうならそうしようか。王寺も瀧上と交代させるね。」



凛と瀧上先輩を交代させるのになにも文句はなかった。


凛はこのままプレーさせても注意散漫になるだろうし、そこで失敗でもして変なトラウマを作らない方がいい。


打順の兼ね合いで、凛と夏実が交代で遠山先輩と瀧上先輩が交代することになった。


ポジションを交代して、9番レフト夏実で2番センター瀧上先輩になった。



流れを完全に失い、動揺している白星。

このままズルズルといって試合に負けてしまうのか?


それとも俺が直感で起用した夏実が何かを起こしてくれるのか?


俺はこの場面でチームがどのようになっていくのかを、見届けることしか出来ずにいた。




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