元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
問題児!
俺は重すぎる足取りで明らかに揉めている現場に歩を進めていた。
「だからー!見た目とか関係無いだろ!早くグランドに入れてくれよ!」
「そんな舐めた格好したやつに、城西のグランドに踏み入れることは許さん。」
絶対そんなことだろうと思って近づいたら、期待を裏切らない展開が繰り広げられていた。
「あ、あの。ちょっといいですか?」
「ん?君はこの子の知り合いかなにかかな?」
「いえ、一応…違います。自分は東奈光の弟の東奈龍と言います。」
少し驚いた顔をして、俺の事をまじまじと見ていた。
「知ってると思うが、城山隆之だ。君は彼女と顔も似てるし、雰囲気がどこか懐かしさを感じるな。白星高校でコーチをしてるんだったかな?」
「そうです。天見監督には色々と指導してもらっています。」
「天見もいつの間にか監督になってるし、俺も歳を取るわけだ…。」
天見監督は城山監督の一番最初の教え子だからか、感慨深いものがあるのだろう。
「何話してんだよ!話しの続きすんならアップに混ざるからな。」
そういうと城西監督の横をすり抜けるようにグランドに入ろうとした。
「おい。誰がグランドに入っていいといった。その髪の毛を黒に染めてきたらグランドに入れてやる。」
「テストでそんなことしなきゃいけないの?受かったら大人しく黒にするから、とりあえずテスト受けさせてくれよ!」
ここまでやる気があるのなら、西郷選手が忠告したように髪の毛を黒にしてくるべきだった。
セレクションだから大目に見て、厳しめの採点をすればいいとも思っていた。
「はぁ…。城西にこんな子がセレクション受けに来たことないぞ…。」
「その事なんですけど、テスト受けさせてあげてくれませんか?」
「いきなりだな。いくら東奈の弟とはいえ、はいそうですかって受け入れる訳にはいかないぞ。」
「その子は西郷天音、ここのOGの西郷照選手の妹さんですよ。姉と西郷選手に彼女のことをお願いされたんです。」
「こ、この子が、あの西郷の妹…?」
俺は西郷選手の性格とかまでは知らないが、さっきの電話の感じだと礼儀正しい感じはするが…。
「あのちょっと変わってて、ふわっとしてる西郷の妹がこんなに刺々しいとはな。」
「あぁ!?てめぇ誰だ!?姉貴のこと言ってねぇのになんで知ってんだ!?」
これまでの話全然聞いてなかったみたいだ。
俺が東奈光の弟で、白星のコーチをしていることも。
「ふーん。あんたが東奈光の弟ねぇ。なんだかパッとしねぇな。」
助けに来た俺になんてこと言うんだと思って、内心かなりイライラしていた。
「俺は君を助けに来んだけどね。要らないなら後は1人でどうにかしてくれ。」
「おいおい。逃げるんじゃねーよ!」
俺も流石にここまで言われて黙っているほど優しくはない。
「お前な…。」
俺が怒りをぶつけようとした時に、城西監督が割り込んできた。
「東奈くん。落ち着いて。今日は東奈と西郷の2人からのお願いってことで、テストはしてやろう。」
「おっ?まじで!サンキュー!」
友人にするようなお礼をしてグランドの中に入り込んでいった。
あんな態度だが、城西の門を叩こうとしているということは、実力的にはそのレベルにはあるんだろう。
実力もなくてあんなに横柄な態度を取れるとも思えない。
「東奈くんも大変だな。東奈のわがままに結構振り回されたんじゃないか?」
「ははは…。」
はいと明言せずに、苦笑いするだけだった。
俺の様子を見て、多分全てを察してくれるだろう。
「そういえば、東奈くんはなぜ今日のセレクションに?」
「従兄妹の子が城西さんのセレクションに参加するので、ちょっと見学をして行こうかと思ってまして。」
「従兄妹か。君のことは天見から聞いて気になったから調べたが、相当な野球の才能があるみたいだね。姉と弟とも天才なら従兄妹も期待出来るかな?ちなみにどの子なんだ?」
「教えたら贔屓してくれます?」
「はは。さすがにそれは無理だね。東奈から直接紹介されれば野球部には入部させてあげれるけど、セレクションに来たからには実力を見せてもらわないと。」
ごもっともな言葉に返す言葉も見つからなかった。
だが、俺には元々そういうことする気持ちは一切なかった。
「なら秘密にしておきますね。うちの従兄妹は必ず特待を勝ち取りますよ。このセレクションで落ちるようなことはありません。」
俺は自信満々に言い切った。
この監督がどれくらいの指導力があって、選手を見れる目があるか分からない。
それでも光瑠を落とすような鑑識眼しかないなら、それだけの監督ということなんだろう。
「なるほど。試そうとしているんだろう?そういうところは君たち姉弟はよく似ている。」
高校生の子供が甲子園出場機会9回の監督を、試そうとしていても怒ることも無く、なんだか懐かしさを楽しんでるように見えた。
姉もこの監督のことを試したんだろうか?
監督の口ぶりからすれば、間違いなく姉は何かやっている。
「東奈が高校生でもコーチができるレベルと踏んで、君を白星高校のコーチに推薦したんだろう。そうだったら君の鑑識眼は間違ってないってことかな?」
逆に俺の鑑識眼を疑ってきた。
これもさっきのお返しみたいなものだろう。
「そうですね。きっと間違ってないと思いますよ。」
「はは!そうかそうか!それなら楽しみにしておこう。君とは楽しく話が出来そうだ。セレクションが終わって時間があればまた話そう。」
そういうとグランドに戻って行った。
グランドに入る時も帽子を脱いで深々と礼をしていた。
「龍兄ちゃんも大変だねぇー。光姉さんに振り回されちゃって。ふふっ。」
俺の事を心配しながらもニヤニヤして俺の事を覗き込んできた。
「まぁ慣れっこだよ。簡単に言えば光瑠が妹の穂里に困らされてるみたいなもんだよ。」
「そんなに光瑠ちゃんのこと困らせてないもん!」
穂里は俺の事を軽く叩きながらブーブー文句を言っている。
俺たちがバックネット裏でわちゃわちゃしている間に、キャッチボールが始まっていた。
西郷さんは見た目も相まって誰も近づこうとしなかった。
こういう時に放っておけないのが光瑠という女の子だ。
光瑠は自ら近づいて声をかけていた。
基本的には思いやりのある優しい子なのだが、俺に対してだけにきつく当たってくるだけだ。
キャッチボールを見ていると、俺はあることに気がついた。
光瑠達は外野側で相手を探しながらキャッチボールを始めているが、内野の黒土の部分と外野の白土の部分がちょうど境目になっていた。
何が境目になっているかというと、多分内野でキャッチボールしてるメンバーは顔見知りか、城西の特待に確定してるメンバーの可能性がある。
 
「穂里、このキャッチボール見てなにか感じることとか、気づいたことないか?」
「あるといえばあるけど…。」
「うーん…。上手い人が手前で、下手くそが奥の方?」
言い方は良くないが、まぁ間違ってるわけじゃないから合格点にしておこう。
「手前は多分城西がスカウトした選手達だと思う。外野は今日の結果次第で特待になれるか決まると思う。」
「うーん。上手いのは分かるけど、なんでスカウトした選手ってわかるの?」
「合ってるかは分からないけど、多分間違いないと思う。そう思ったのは…。」
俺は自分なりの意見を穂里に話してあげた。
まず、1番手前でキャッチボールをしている2人がピッチャーとキャッチャーということ。
その後に続く子達も、内野手は内野手、外野手は外野手とキャッチボールをしている。
外野にいる光瑠達はかなりバラバラにキャッチボールをしている。
みんなユニホームがバラバラなのに、そこら辺だけ統一されているのは違和感を感じられた。
もう1つが、投手2人、捕手1人、一塁1人、内野手5人、外野手5人とグラブを見ると誰がどこのポジションかもわかる。
「そういうことね。そんなところまでよく見てるね。」
「逆にキャッチャーとかして相手を観察する力を付けたいなら、こういう所でも色んなことに疑問を持つことが重要だよ。」
「わかったよー。あんまり人の野球なんて興味なかったけど、そういうところを気にしていかないとだめなんだね。」
色々と細かいことを説明していた。
飽きっぽいはずの穂里も、俺の話は聞き逃さないようにじっと黙って話を聞いていた。
あんまり物事に執着のない穂里でも、野球というスポーツに心を奪われたのだろうか?
俺にはあまりそのようには思えなかったが、今は俺がしてあげられることはしてあげるのが俺の役目なんだろう。
キャッチボールが終わって、グランドに集合すると内野手と外野手はポジションに散らばって、まずはノックを受けるみたいだ。
「お、おい。守備下手だとは思ってたけど…。」
「わ、私も今日の初めて光瑠ちゃんの外野守備見たけど、ピッチャーとはいえ下手すぎない…?」
応援に来ている俺たちが恥ずかしくなるくらい守備が下手だった。
とにかくフライの反応が悪く、上手い選手ならゆっくりと追いながら取れる打球が簡単に抜けていく。
その後の送球が凄すぎて、そのアンバランスさが逆に見ているこっちが恥ずかしくなる。
本人自身があまり気にしてないところがせめてもの救いだ。
右投げに変わったなら内野手でもよかったんじゃないかと思っていたが、この様子だとあんまり期待出来ないだろう。
多分周りにも舐められているだろうけど、光瑠が投手というのに気がつけた選手からすれば、侮ることの出来ない選手と気づけるだろう。
「一塁側のベンチにいるのは、やっぱりスカウトされたメンバーっぽいね。」
「ねーねー。セレクションならなんで特待が決まってる選手が来てるの?」
俺もそれは気になっていた。
俺がもしこのセレクションを開催するなら、特待で能力の高いレベルの選手たちと試合をして通用する選手がいれば、それはすなわち特待生として相応しいということになる。
「まぁ、3塁側の本当の意味でセレクションを受ける選手たちは気合い入れないとね。光瑠は気づいてるかな?」
ベンチの前で、問題児の西郷さんと肩を作り直していた。
パッと見て投手らしき選手は5人はいる。
何番目に投げるか分からないが、あの守備を披露してしまったせいで、ほとんどは期待もしてないだろう。
流石に監督やコーチもそう思っているなんてことはないと思う。
「やっぱり特待生メンバーは上手いな。飛び抜けた選手はあんまりいなそうだけどね。」
「確かに上手なのかな?私、女子野球のこと全然知らないだよねー。野球も光瑠ちゃんとキャッチボールするくらいで、中学生になるまで特に知らなかったよー。」
「本音でいいから、穂里からみて城西の特待はどう思う?女子とか関係なく素直な気持ちでいいから。」
「微妙じゃないかなぁ。1年後には私のが上手いと思うよ?オーラがないよー。」
オーラか。
俺でいうところの一流の雰囲気を感じるかどうかの話だろうか?
桔梗にもほんの少し感じるレベルなのに、この中学生たちからは流石にそれを感じるのは無理だ。
「けどねー、光瑠ちゃんはオーラあると思うんだよねっ!後、さっき龍兄ちゃんが話してた西郷さん!あの人も結構やりそうだよ?」
「へー。西郷さんがね。」
俺には流石にそう感じられなかったし、守備を見てる感じだと平均的で、サードにしては肩があんまり強くないなというイメージだった。
2人ともまずはベンチスタートみたいだ。
事前のノックを受けて上手かった選手が試合に出てる感じがする。
そうなると、下手くそ過ぎた光瑠はピッチャーとしては最後だろうし、普通よりも下レベルの西郷さんも中盤くらいからの出場機会になると予想される。
「何回まで試合するんやろ?4回で5-1で、まぁまぁ頑張ってる方かな。後半は期待できそうな選手いなそうだけど。」
「そうだねー。点差はどんどん開いて行くだろうし、光瑠ちゃんが投げ終わったら帰りたーい。」
特待生チームのメンバーはピッチャー以外の選手は結構魅力的だ。
走攻守三拍子揃った選手が多く、チームにいれば必ずどこかで役に立ちそうな選手が多い。
逆に三塁側は、俺好みの尖った選手が多いが、尖ってると言ってもその1つが抜きん出てるかと言われればそこまでではない。
2.3人はB特待で来てくれるなら欲しい選手もいるが、ここに来てるということは白星に誘っても興味がないような気がした。
ここで代打でやっと西郷さんが出てきた。
姉の西郷選手とは違い、右バッターボックスに入る。
天見監督が高校3年の時の花蓮との試合をこの前見てみたが、当時1年の西郷選手は城西の中でも抜きん出ていた。
右左は違うけど、今の桔梗と比べても遜色ないどころか1枚も2枚も西郷選手の方が上手だろう。
だからこそプロ野球選手になって、一軍で活躍出来ているのだろう。
普通ならドラフト1位でもおかしくなかったが、ポジションが一塁専門となるとやはり
評価はガクッと下がってしまう。
内野どこでも守れて、あの打撃力なら絶対に競合1位でもおかしくない。
実際2位指名でも、1番最初に指名されていた。
ガキイィィーーン!!
強烈な打球音がグランドに響いて、ちょっとだけ気を抜いていた俺が、ハッとして打球を眺めていた。
「うはー。よく飛ばすな。」
「びっくり!凄い打球だったねー。」
ファールにはなったが、165cmの普通くらいの体であそこまで飛ばせるのは凄い。
スイングも強烈だったし、なにより左投手の低めのスライダーかな?あれをすくい上げて飛ばせるのは中々出来ることじゃない。
「あれれ。打ち損じちゃったね。」
結構打ち損じのレフトフライに倒れたが、いまさっきの強烈な打球は中々インパクトがあった。
光瑠は結局試合終了とされる7回から登板した。
今日の光瑠はあの守備を披露したとは思えない投球を披露していた。
2.3.4という一応クリーンナップを2.3番をストレートで三振に取ると、4番にはスライダーを打たせて内野ゴロでピシャリと抑えた。
試合は終わるかと思われたが、8回までそのまま続行された。
次の回は打って変わってストレートじゃなく、変化球を多投していた。
変化球を中心に投げているのがバレているのか、ヒットを打たれたがピンチになることもなく、2回をほぼ完璧に抑えていた。
なにか波乱が起きるかと思っていたが、一切そんなこともなく、抑えられるならそれが一番いい。
多分最終回であろう8回の先頭打者に、さっき強烈な打球を放った西郷さんが打席に。
何を思ったのか左投手に対して左打席に入った。
最近じゃあんまり見ないスイッチヒッター。
うちの高校なら氷がスイッチヒッターだが、氷は打撃にはただならぬ拘りがあるのか、鏡に映したように右でも左でも同じフォームだ。
しかし、西郷さんは右と左はここまで違うのかというくらい打ち方が違う。
右は元々自分の打ち方だと思うが、左は西郷選手そっくりの打ち方だ。
スイッチヒッターになる選手には幾つかバターンがある。
右対右、左対左の背中からサイドスローが投げてくるボールや、外に逃げていくボールを克服できない場合にスイッチヒッターになることもある。
氷がスイッチヒッターになった理由がこれだ。
目の前に打席に入っている彼女は、左対左というわざわざ不利な状況を選んでいる。
スイッチヒッターと言っても、ただ憧れてスイッチヒッターになる選手もいるから、西郷さんは多分そういうタイプだったんだろう。
それにしても、前の打席であんなに飛ばされたのに、不利になる左打席に入られるとなると、投手はかなり舐められているように感じられるだろう。
この前たまたま姉の試合を見ていたが、その時に見た西郷選手のフォームに本当にそっくりだ。
なにも言われなかったら、西郷選手が打席に入ってるとしか思えない。
「上手いな。」
豪快な右打席とは違い、本当に西郷選手が乗り移ったようなバットさばき。
さっきからインコースは引っ張ってファールにして、アウトコースは流してファールを打っている。
今日の試合は、3塁側のチームだけ四死球を出した場合、もう一度打席をやり直していた。
ピッチャーも根負けしたのか、四球を出してしまいもう一度打席をやり直していた。
それでもまた執拗にファールで粘り始めた。
ここまでやられると、流石にバッテリーもイライラしてくるだろうし、セレクションの仕様上逃げることが出来ない。
ピッチャーはかなりイライラしてしまっている。
制球力も疲れと暑さからなのかイマイチだ。
それよりも気になったのが、投手の何ともしれない弛緩した雰囲気。
特待と決まっている自分が、なんでテスト生の相手をしなきゃならないのという気持ちが透けて見える。
もうなんだかんだ一回目と合わせて14.5球くらい投げたか?
もう一度四球を取って、完全にピッチャーはやる気をなくしてしまっている。
俺は特待に選ばれたやる気の無い投手にガッカリしながら、この後西郷さんがどうするか気になっていた。
注意深く観察しようとしてたが、あっさりと勝負は決まった。
やる気の無くなった投手から投げられた甘いストレートを完璧に捉えて、鋭いライナーのままライトスタンドに叩き込んだ。
グランドをゆっくり1周している西郷さんには笑顔がなかった。
もし、俺が西郷さんの立場でもあのホームランは喜べない。
粘られてやる気の無くなる投手から、雑に放られた球を打ってもなんの自慢にもならない。
光瑠がゆっくりと打席に入る。
家での打撃練習を見る感じ、そこそこのセンスは感じられる。
今日初打席入って、初球のストレートをリラックスしたフォームで右中間真っ二つのヒットも放った。
光瑠の今日の投球が完璧だったのと、西郷さんの粘りが効いて、楽な打席になったんだろう。
光瑠が監督に呼ばれていた。
すると、光瑠に代走が出て特待生組のマウンドへ上がっていった。
流石にあの投球内容ならマウンドから下ろされても文句は言われないだろう。
マウンドに上がった光瑠はいきなりの登板でもなんの問題もなく、ピシャリと抑えた。
まだなにか波乱でもあるかと思っていたが、そんなことはなくセレクションは無事に終わった。
光瑠と西郷さんがこちらに向かってきた。
光瑠は間違いなく受かっただろうし、西郷さんは態度と見た目を改めれば問題ないだろう。
逆に城西が彼女を取らないのであれば、うちに是非欲しい人材だ。
うちには強打者が少ないので、もし西郷さんが白星に入ってくれれば1年からベンチには入れるだろう。
光瑠も白星高校にくるなら歓迎もするが、今日の感じだと希望通り城西に行けるだろう。
「お疲れ様ー。光瑠はほぼ特待の話来るだろうから楽しみにしてたらいいよ。」
「そうやね。これで私が受かんなかったら他の人受かんないよ。」
本人も信じて疑っていないということは、100パーセントの実力を発揮できたんだろう。
「あーあ!2打席目勝手に勝負投げやがって!こんなんが城西に選ばれるピッチャーとは思えねぇな!」
わざとみんなに聞こえるように言って焚き付けようとしている。
「あんた、あの打席なんなの?打つ気もなくて粘ってアピールとか。」
「逆にそんなことでやる気なくなった挙句、ホームラン打たれてるとかだっさ。」
「どっちみちあんたみたいな奴は、城西には合ってないから来ない方がいいよ。」
「あほらし。そっちこそ城西に来ても、そこの光瑠がエース取るだろうから、もっと身の丈に合った高校に行きなよ。」
「その子が?今日少し好投したからってテスト生のくせに調子乗りすぎ。」
「そんなことも分からん?城西に相応しくないのって、自分が気に食わない勝負で、試合中にやる気無くなるようなクソピッチャーに興味ねぇからどっか行けよ。」
ピッチャーもピッチャーでかなり強気な態度で、一触即発という感じだったが、引いたのは西郷さんだった。
「まぁいいわ。もうお前の顔を見ることも無いし。」
「私も精々するよ。どうせ城西には入れないんだしね。」
そう言い残すとピッチャーの子はどこかに行ってしまった。
「東奈くんだっけ?今日はありがとう。もし姉貴に話すことあったら、言う通りにテスト受けたって言っといてくれ。」
「わかった。それで、城西からスカウト来たらどうするつもり?別に城西に行きたいわけじゃないんやろ?」
「いや、城西には憧れがあったけど。私が城西に入れるなんて思って無かったから、そんときに決めるわ。まぁ、世話になったしダメだったら白星も考えとくわ。」
少しだけ光瑠と話していたが、気づいた時にはいつの間にか球場から去っていた。
光瑠にお願いして、俺が気になった選手3人に連絡先を渡してもらうことにした。
もし、このセレクションが無理でうちに興味があれば連絡が欲しいということを伝えた。
俺が高校生だからこんなやり方が通用しているが、大人がこんなスカウトの仕方してたら、そういうことに甘い女子野球でも問題視されるだろう。
光瑠は機嫌がいいみたいで、今日は仲良さそうに姉妹で話していた。
俺は姉と西郷選手のお使いを無事終えたことにほっとした。
おばさん達はこの後久留米に帰るみたいだったので、一応お別れの言葉を交わした。
俺はトレーニングを兼ねて家までランニングして帰ることにした。
「光瑠、よかったな。高校になってからが勝負だから負けるなよ。」
俺の短いようで長かった夏が終わりを告げた。
夏が終わっても、次は春の甲子園をかけた福岡県秋季大会が始まる。
新チームになりレギュラー争いも過熱していく白星高校であった。
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