元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
似たもの同士!
土曜日午前8:50。
約束の9時よりも一応10分前に着いたが、上木さんも三海さんも2人とももう着いていた。
三海さんの私服は見た目の美人な感じと少し系統が違う清楚に見える透明感?のある私服だった。
上木さんは練習するためにジャージといつもロードバイクに乗って駅まで来ていた。
「上木さんおはよう。今日一緒に練習付き合ってくれるのはあそこにいる三海さんって人だよ。」
「…ぺこり。」
喋られないが明るい笑顔で元気よく頭を下げてあいさつしてくれた。
そして、三海さんの方を見ると驚いたような顔をしている。
スポーツ少女みたいな人が来ると思っていたのか、芸能人のような美人が現れて驚いているのだろう。
「ビックリした?あの人は野球部じゃないんだよね。3日前に転校してきた美人すぎる女の子。悪い人じゃないと思うけど…。」
上木さんは三海さんのことを見惚れるようにじっと見ていた。
女性が好きなのかと一瞬思ったが、女の子として彼女の肌の白さとかをみると羨ましいかったり妬ましかったりされるのだろうか?
「三海さん。おはよう。この子が上木和水さん。昨日話しておけばよかったんだけど、彼女は話すことが出来ないからそこら辺は理解してあげてくれると助かる。」
「おはよう。上木さんもはじめまして。喋られないことは理解したよ。私は気にしないからなにか伝えたい時はゆっくり伝えてくれていいからね。」
上木さんは安心したように2回軽く頷いて、すっと左手を出して握手を求めた。
彼女のことはあんまり分からないことが沢山あるが、彼女との連絡を1週間だけしていて分かったことがある。
彼女は初対面の人には握手を求めるらしい。
その相手の反応で何となく好意があるのか、興味が無いのか、嫌いなのかが何となくわかるみたいでそれで相手のことを見極めるらしい。
三海さんは出された手に対して、ハンカチで手を拭いてから握手をしている。
北海道からきて7月は朝とはいえ中々きつい暑さだろう。
手汗が気になったのか、自分の手を拭いてから握手しているがハンカチまで使うのはさすが女の子という感じだ。
この握手でどう感じているのかはわからないが、上木さんは笑顔だ。
こればかりは上木さんに聞かないと分からないが、俺からの雰囲気で感じる能力でいえば別に変なところはない。
「それじゃ行こうか。なんか女子2人連れて地元歩くとなると少し緊張するな。」
「確かにそれはそうかもね。上木さんはジャージで分かりずらいけど凄いいい身体してると思う。かなり鍛えられた無駄のない身体って言えばいいのかな?」
「……………。」
少しだけ恥ずかしそうな顔をしている。
男だと嬉しいのだろうが、男の前でいい身体とか言われると恥ずかしいんだろう。
パッと見では分かりずらいが、俺もナチュラルないい鍛え方をしているのが分かるし、投手としてはそれでもいいかもしれない打者として行くならもう少し鍛えた方がいい気もする。
「そうだね。ケアはしてるけど、あんまり過剰にしすぎると肌荒れとかになるし、そんなに気にしすぎずにまだ化粧とかしなくていい歳だから清潔にしておけば大丈夫よ。」
2人はスキンケアの話をしてるいるっぽい。
俺は完全に無視というか話に入っていけないし、こんなに楽しそうにしてるならわざわざ入る必要も無い。
2人の前をゆっくりと歩いて後ろで気を使いながらも優しく話す三海さんの声を聞いていた。
三海さんは後輩に優しいのか、俺がよろしく言ったから上木さんに構っているのか分からないが、彼女の乗ってきたロードバイクを代わりに押してあげて、彼女が携帯で文章が打ちやすいようにしてあげていた。
急かさないように携帯で何打ってるとかを見ることも無く、打ち終わってからゆっくりと文章を読んでいる。
その間は一旦立ちどまりしっかりと文章を読んでるみたいだ。
彼女は伝えたいことを端的に文章にするのが上手く、誰が見ても言いたいことが1発で伝わる。
「ここが俺の家。今日は母親がいるけど使うのはこの裏の室内練習場だから、そこで先に着替えておいて。俺は少ししたら行くから。」
「わかった。覗いたりしないでね?」
「そんなことするからわざわざ家に呼んでやらないよ。」
2人はそんな心配をあんまりしていないのか、笑って室内練習場に入っていった。
俺は室内練習場の身長の女の子ならギリギリ視線が通る位置で見えるようにウォーミングアップを始めた。
家の中に消えていったらそれはそれで2人も怪しんだりするかもしれないと思ったからだ。
「あ、龍。」
「ん?桔梗ちゃん!おはよう。」
俺はほぼ玄関近くの見通しのいいところでウォーミングアップしていたので、家の前を通りかかった桔梗とばったりと遭遇した。
「おはよ。誰か来てるんだね。もしかして三海さん?もう1人誰かいるっぽいけど…。」
なぜバレた。
と思ったが後ろの小窓からこちらを覗いているのが、三海さんと上木さんがバッチリと目の前の桔梗と目が合っていた。
「三海は来てるね。あと一人は上木さんだよ。」
「上木さんが来てるんだ。スカウト受けてくれそう?あの子なら絶対いい戦力になるし、1つ下だけどいいライバルになれそうだから頑張って連れてきてね。」
「まだどうかわからないけど、そこらへんは任せて。安心して野球の出来る環境を提供してあげないといけないし。」
桔梗は何も言わずにうちの玄関に入ってきて室内練習場に向かっていった。
俺もそれについては何も言わずに後ろから着いて行った。
桔梗が一足先に室内練習場に入っていった。
俺もそのまま室内練習場に入って練習開始しようとしていたが…。
パチンッ!!
「桔梗ちゃん?!なんでビンタされたの?」
俺は室内練習場に入ろとしたところで桔梗が出てきて、急にビンタを食らわされた。
「しれっと入ってきて三海さんの覗きしようとしてもダメだよ?もう少し大人しく外で待ってなさい。」
「そんなつもりは無かったんだけど…。」
分かってるよと言わんばかりのニコッとした顔と同時に扉は閉まった。
ビンタしなくても良かったと思ったが、最近転校生にうつつを抜かしていたと思われて喝をついでに入れられたのかもしれない。
「辛いぜ…。」
呼びに来るまで外でのんびりとすることにしたが、もう7月なので暑い。
室内練習場も扇風機やら設備はある程度整っているが、それでも快適に練習できる訳では無いし、汗まみれになっても試合ではそのコンディションでやらないといけない。
「遅くないか?忘れられてないよな?」
「龍。いいよ。私も練習したかったから着替えさせてもらった。」
「着替えたのね。て、その上のウェア俺やん!試合前に自分のやつ使えないのは分かるけど断りくらいは入れてください…。」
桔梗は知らん顔をしていた。
たまに桔梗も俺の言うことを聞かないこともある。
野球のことに関してはそんなこと1回あったかどうかくらいだが、私生活と野球中は彼女にとって完全に別なんだろう。
「それじゃ練習始めようか。今日は上木さんの練習だから桔梗と三海さんは手伝えることがあったら手伝ってね。」
「了解。」
「わかったよ。」
三海さんも2人交じってウォーミングアップをしている。
俺は上木さんとで、隣では桔梗と三海さんは2人はキャッ
チボールをしているが、三海さんはソフトか野球かどちらかを絶対にやっていたのがすぐに分かった。
「えらくこなれてるね。野球やってたよね?」
「やってたといえばやってたかな?2人みたいに情熱は全然ないからやってるというのがおこがましいと思うけど。」
彼女は野球をやっていたことをさらっと告白した。
けどこの前野球をやってないと言ってなかっただろうか?
ちゃんと答えずにバトミントンはやってると言ってた嘘はついてないのだろう。
「けど、野球はしてたけど本当に彼女達とは違うよ。そもそも好きじゃないからね。だから東奈くんを試してるとかは無いよ。」
そうはっきりと言い切ってしまった。
それならなぜ俺に近づいてきたのか?
このことが分かることはもしかして無いのかもしれないなと俺の勘が伝えてきた。
彼女とはいい友人として付き合えばいいだろう。
俺も彼女のことは嫌いじゃないし、楽しく遊べるなら深く考える必要も無い。
桔梗が珍しく悪い人じゃないと断言したなら、俺はその桔梗の言葉を鵜呑みにして信じてみることにした。
「その話はまた今度聞くね。」
「話すことあんまりないけど…。聞きたいなら話してあげる。」
隣の三海さんと話しながら上木さんとキャッチボールをしていた。
上木さんは草野球とバッティングセンターなら軟式しかやっていないはずだが、硬式にも何も問題なく対応している。
「うんうん。」
上木さんは癖のない綺麗なボールを投げ込んでくる。
相変わらず性格無比なコントロールで、俺は女の子に負けることは無いと思ってたがこのコントロールだけは勝てないなと思えた。
けど、投手もそうだが打者としても才能があって本当に将来的には姉のような選手になって欲しいと思う。
「ちょっとこっちに来てくれる?」
みんなが俺の周りに集まってくれた。
「今から桔梗の打撃練習に上木さんに投げてもらうけど、手を抜かずに桔梗に打たれて見て欲しい。」
「…………?」
上木さんは少し困ったような顔をしていた。
解釈が難しいのかもう少し説明して欲しいような顔を俺に見ている。
「んとね、とりあえず打撃練習投手やってもらうけど、手を抜いて相手の得意な所に投げれば打たれるだろうけど、自分の力を出して相手に打たれるって難しいのわかるかな?」
「…こくこく。」
ちゃんと理解してくれたみたいだ。
俺のやらせたいことは、桔梗という打者に対してどれくらい打ちやすいボールを投げられるのかと、その見極めの速度、それを見極めてから打ちやすいボールでどれだけ抑えられるかを見たい。
打たせる為の工夫が出来るなら、抑える為の工夫だって考えられると俺自身は思っている。
それと打たせるための投球でどれくらい抑えられるかも気にはなる。
上木さんからすれば打たれないといけないと思っているのだろうが、打たれようとして投げてるボールで抑えられるボールの方が価値があると思う。
「それじゃ俺がキャッチャーやるから、上木さんは好きなようにボール投げてきて。桔梗は打席に立って試合と思って打ってくれたらいいよ。三海さんはそこの安全なところから上木さんにボール投げてあげて。」
「わかった。」
上木さんはマウンドに上がって堂々としている。
軽く投球練習しているが、ストレートの伸びが今日はよくて変化球のキレがあんまり良くないか。
この前の本庄との対決では変化球がキレキレだったが、上木さんは案外球のキレやノビにムラがあるのだろうか?
「…ふるふる。」
上木さんは俺に対して手を振って準備完了を知らせてきた。
桔梗もそれを見てゆっくりとバッターボックスの中に入ってきた。
打撃練習とは思えないくらいかなり気合いバッチリで、いい感じに集中してるから今日の試合もこのまま行ければいい結果が出そうだ。
打席に入った桔梗を確認すると、指先でボール遊びをしていた上木さんはすぐにワインドアップで早くもこちらに投げようとしている。
右バッターボックの桔梗は力みもないし、さっきの話を聞いてなにかある程度的を絞っているようだ。
カキイィーーン!!!
上木さんが投げてきたのはいい伸びを見せていたストレートをど真ん中に放り込んできた。
桔梗は完全にど真ん中のストレートを読んでいて、その通りに来たボールをきっちりと捉らえてきた。
室内練習場じゃなくて球場なら多分レフトスタンドに突き刺さっただろう。
「……………。」
流石に1球で完璧に捉えられて、しかもホームラン級の当たりを打たれるとは思っていなかったのか苦笑いしている。
桔梗はいつもながら顔になんの表情も出さないし、いつもの打撃練習と同じように打球を気にせずにすぐに次の打席に集中している。
次のボールもその次のボールもアウトコース、インコースを散らすストレートだが桔梗に簡単に捉えられている。
かなり伸びがあると思うが、桔梗は俺が思ったよりは成長しているのかもしれない。
次は調子が良くない変化球を試してくるだろう。
力を発揮して打たれろと言ったが、ど真ん中に投げまくるという工夫の無いピッチングはしてこないと思いたくないが…。
パシッ!!
「んー…。ボール。」
変化球を投げてくるかと思ったが、ストレートをアウトコース低めにギリギリに決めてきたが俺の目線から見たらややボールで、桔梗も少し迷って見送っていた。
上木さんはいまのコールになんの文句もないようで、ボールを投げ返すと気にする様子もなくすぐに投球フォームに入った。
桔梗の選球眼を試したのか、打撃練習だからなんでも降ってくるか確認したようにも見えた。
際どい球には桔梗は一瞬反応して見逃したのに逆に感心しているようだ。
「いい投手だね。投げる球とかはまだ中学生のいい選手レベルだけど、勝負勘というか対決することにかなり敏感だし。」
スライダーとカーブをその後にそこまで厳しくないコースに投げ分けたが、桔梗は分かっていてもスライダーを何回か打ち損じている。
『やっぱり変化球は甘いコースにいっても簡単に打たれるようなキレじゃないんだな。今日は調子悪そうだけど、桔梗が打ち損じてるし。』
スクリュー、ナックルカーブ、チェンジアップを投げれることを対戦を見ていた桔梗は知っている。
俺がそれを打たせろと言ったので、投げてくるとは思うがどういう感じで投げてくるのだろうか。
 「ボール。」
チェンジアップを低めの明らかなボール球として投げてきた。
コントロールミスかと一瞬思ったが、多分これは次にチェンジアップを投げるという合図か?
俺はチェンジアップと思いつつも一応速い球を警戒することにした。
カキィーン!!
桔梗はチェンジアップをきっちりと捉えた。
チェンジアップが来るのを分かっていたのだろうが、一応ストレートのタイミングで踏み込んで体重をしっかりと残して逆方向に流し打ちした。
その後もナックルカーブ、スクリューを投げる前はボールを外してきた。
桔梗はナックルカーブを上手く捉えれなかった。
打たせようと甘いコースに来るのだが、かなり落差もあるしキレもあるし、分かっていても打ち損じるのは相当いい球が来てるという証拠だ。
だが、桔梗はこの打撃練習で空振りすることは無かった。
球種が分かっていて甘い球が来るのが分かれば空振りするような球ではないのか。
それでもスクリューやナックルカーブを予告せずに投げれば多分空振りのひとつやふたつは取れたと思う。
「2人ともお疲れ様。桔梗はいいウォーミングアップになったかな?」
「そうだね。厳しい球はこなかったけど今日の相手もそんなに強くないところみたいだし、上木さんみたいないい変化球投げてこないと思うし。投げてくれてありがとうね。」
「…ぺこり。」
上木さんに桔梗はタオルを渡してお礼をしていた。
上木さんは桔梗に対して何かを言いたげにしていてるのに最初に気づいたのは三海さんだった。
「何かを橘さんに言いたいこと?聞きたいことあるなら聞いてみたらいいよ。」
「ん?私に聞いてみたいことあるの?焦らなくていいから聞いてみて。」
桔梗も三海さんもなにか紙に書いてる上木さんの書いてる様子を見ることなく、2人で雑談している。
この2人は元々知り合いのように仲良くしていて、俺よりも2人で出かけた方がいいんじゃないかと思った。
「ん。なになに。変化球は褒めてくれてありがとうございます。ストレートはどうでしたか?か…。」
ストレートか。
上木さんは体格もいいし身長も高い。
梨花とほぼ同じくらいの体型だが、梨花は身体能力が相当高くて野球センスもそこそこいい。
上木さんは身体能力はそこそこだが、野球センスが飛び抜けている。
だが、ストレートはあの時の梨花の方が5.6km/h速いしストレートの質が一目見て凄い良かったが、上木さんのストレートは悪くは無いがいいと言えるレベルでもない。
桔梗はなんと答えるのだろうか。
「悪くは無いけど…。凄いストレートとは言えないかも。けど、もしそのストレートを磨きたいのならうちに来るといい。そこにいるコーチが磨いてくれると思うよ。」
「………。」
「橘さんはそう言ってるけど、無理せずに決めたらいいと思うからゆっくり決めたらいいよ。」
桔梗はオブラートに包まずにその後まま伝えた。
それをフォローするように三海さんが上木さんの肩をゆっくりと叩いた。
なにかを上木さんが書いて近くの三海さんに見せていた。
「ありがとうございます。まだまだ実力が足りてないみたいです。桔梗先輩を驚かせるようなストレートを投げられるように頑張ります。」
とりあえず上木さんは凹んだりはしていないみたいだ。
強い視線でずっと桔梗の方を見ている。
それは敵視の眼差しではなく、憧れや尊敬のものでその中に見え隠れする悔しいという気持ち。
その後は桔梗が色々と上木さんに今日投げた球がどういうものかを聞いたり、どうやって打つかタイミングの取り方とか打撃の方を主に教えていた。
「上木さんは橘さんに追いつけるのかな?私はそうなってほしいとおもってるけど。」
「どうだろうね。上木さんには凄い野球センスがあるけど桔梗も相当な実力だしね。切磋琢磨するのが一番いいだろうけどね。」
この後も練習を続けた。
上木さんと桔梗は色々と張り合うように練習していた。
それをサポートするように三海さんと俺が練習を付き合った。
俺はそれを見ながら上木さんが入った白星を楽しみにしていた。
まだ何も決まっていないが、きっといい選手になるしいいチームになるだろう。
「2人とも頑張れ。」
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