元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
嫌な予感!
4回裏。
4番の桔梗からの攻撃。
今日の桔梗は俺から見たらいい感じそうだ。
周りを少し気にしている感じがしている?
周りの声が聞こえなくなるくらい集中してるとよく言うが、桔梗は集中してリラックスしてるから周りの様子がよく見えてキョロキョロとしてる。
本人は集中してないと思ってるんだろうが、今の状態は悪くはないし、客観的に見れてる今なら打ててもおかしくはない。
桔梗は今日は打ってくれと言ったんだが、あんまり積極的な感じがしない。
試合前は結構打つ気満々という感じだったけど、今は妙に落ち着いてかなり際どいボールもあっさりと見送っていた。
「ボールツー!」
どちらも際どい球だったが、少しも反応せずにあっさりと見逃していた。
ホームランを打てと試合前に言ったが、ここまで慎重にボールを見ていると流石に桔梗に悪い気もして来たが、あんまり指示をしたくないのが本音だ。
桔梗はちらりと俺を見たが、俺は桔梗のことを見るだけでなにも指示出ししなかった。
「ストライク!ツーボールワンストライク!」
右田さんも逃げることなく際どいコースを投げて、今もカットポールをアウトコース低めに丁寧にコントロールしている。
カキイィーン!!
4球目。
インコース高めに入ってきたストレートを腕を畳んで強打。
サードの頭を超えて三塁線ギリギリフェア。
「桔梗ー!まわれまわれー!」
「ナイスバッティングー!」
悠々と2塁へ到達するツーベースを放ち1回以来のノーアウト2塁のチャンス。
桔梗は二塁上で軽くガッツポーズをしていた。
公式戦初ヒットは流石に嬉しいのだろう。
「4番レフト、逢坂音々さん。」
ここで元4番の逢坂先輩がバッターボックスへ。
さっきの打席はツーアウト一三塁のチャンスで打てなかったが、いい当たりはしていたしタイミングも結構あってる。
最悪でもライト方向に打ってもらってランナーを1つ進めてワンアウト3塁の形にはして欲しい。
監督のサインも特にはバントやヒットエンドランなどは出ていないが、右打ち意識という共通の認識はしっかりと把握しているようだ。
キーン。
初球を逢坂先輩は理想のような少しボテボテのセカンドゴロを打ってくれて、桔梗は難なく3塁へ到達した。
ワンアウト3塁。
ここで出来ることはほぼスクイズかヒッティングしかない。
ゴロが転がった瞬間サードランナーがスタートして、ホームに突っ込んでくる。
それはある程度足が早くないと厳しいし、今内野陣形を見ると前進守備で内野ゴロ転がってもホームでアウトする気満々だ。
もう1つは強振して外野フライを上げて犠牲フライ。
外野も前に来てるので、少し大きなフライを打つだけで外野はバックして捕球してからバックホームしないといけないので、ほぼ3塁の桔梗はホームインできる。
六番の三本木先輩は恵まれたガタイと純粋な力でいえばチーム1だが、きっちり捉えて外野フライを打つ器用さは少しだけ足りていないし、フルスイングして詰まってもパワーで外野の前まで飛ばすような力のバッターなのが少し残念だ。
こういう場面で本当は氷を代打に出したいが、3年の正捕手を2打席目で変えるのは流石にまずいだろう。
1番の難点がこういう場面で滅法強いボールを持っているカットボール。
途中までストレートのような軌道で来て、最後の最後でボール2個〜3個位落ちる。
優秀なカットボールであればあるほど、ストレートの球速とカットボール球種に差がなく曲がりも鋭い。
投げてくるのはまず低め中心。
問題はカットボールかストレートかどっちかという点だ。
「ストライーク!」
初球は低めのストレート。
カットボールを意識していた三本木先輩は低めギリギリのストレートに手が出ず。
2球目。
アウトコースの低めのカットボール。
バコッ!
三本木先輩は強振したが、バットの先っぽのブラスチックの部分に当たり変な音がした打球はボテボテのファール。
0-2で追い込まれてしまった。
ここまで投手が優秀だと三本木先輩はヒットは期待できないが、ストレートかカットボールを読めさえすれば外野フライくらいは…。
『次はカットボール狙ってください。』
俺はカットボールを狙うサインを出した。
ん?
今ベンチを見たが俺の方を見たかどうか怪しかったが、OKというヘルメットを触れる動作をしたということは分かってる?
俺はここでタイムを要求すべきだった。
バシンッ!!
「ストライクッ!バッターアウトォ!!」
低めのストライクから絶妙にボールになるコントロールしたカットボールを呆気なく空振り三振した。
「三本木先輩。俺のサイン見ました?」
「え?サインとか出てた?」
「出してましたよ。まぁ…過ぎたことなんでいい大丈夫です。」
「おい。サインってなんだ?球種サインちゃんと出てたか?」
「カットボールを狙えってサインでしたけど、ストレート狙って三振したので、サイン違いか確認したかっただけですよ。」
「私を責めてるのか?カットボールのサイン出したのにって。」
4回の裏でこの回もし点が入らなかったら残りの攻撃は3回しかない。
1-0でまだまだ全然焦る時間ではないが、これは普通の大会ではない。
大分追い込まれてる感じなんだろうが、こうやって突っかかってこられると焦りが周りに伝染してここまで問題ない守備にまで影響があるかもしれない。
「まだ1-0ですし、攻撃もまだまだチャンスは結構あるから大丈夫ですよ。」
俺は話を完全に逸らした。
「まぁいいや。もし出すならさっさと早めに出さないと気づかないぞ。」
監督とサインを被らせられるわけない。
監督のサインを確認した後に俺の方を見て球種のサインを見ろと徹底したのに、追い込まれて動揺してサイン見逃しと帰ってきての暴言は俺が監督なら即交代させるが…。
「そうよ。何焦ってるか分からないけど、相手のラッキーな1発だけでうちは捉えてはいるんだから何をそんなに焦ってるの?みんな自信もってプレーしなさい。」
「「はい!」」
チッ!!
「ストライクツー!!」
7番の瀧上先輩も3球連続カットボールで追い込まれていた。
ストライクゾーンの球を振りにいくが、どちらも真後ろのファールでタイミングはバッチリでも捉えられていない。
1-2。
投手有利なカウントで投げれる球を選べるし、バッターはカットボールかストレートで迷っている。
俺の球種サインも鵜呑みにして打席にはいられるとまず、違う球が来た時に反応できない。
それなら本人がカットボール意識で、反応してストレートをファールに出来るくらいにはしてる位が1番違う球種が来て打てる可能性は高い。
俺は結局球種サインを出さなかった。
それを嫌がった瀧上先輩はタイムをかけて、スパイクの紐を結び直しながら俺の方をチラチラ見てくる。
『ストレート。』
瀧上先輩は球種を絞れずに俺に委ねてきた。
俺もここは分からないから俺ならストレート待ちのカットボールが来たら反応ではじき返すだろうが、瀧上先輩にはまだその技術が俺の基準に届いていない。
そして、4球目。
ここまでカットボールをど真ん中からアウトコース低めの一辺倒で投げてきたが、ここでインコースのど真ん中からやや高いところにストレートが来た。
俺のストレート指示は半信半疑だったが今回は当たった。
瀧上先輩はストレートを少し避けるように見逃した。
ベンチから見ると高い低いはよく分かるが、インコースとかアウトコースというのはやや分かるくらいで、キャッチャーの捕った位置でまぁまぁ分かるが、それでも正確な位置はテレビから見ていた方がよくわかる。
「ストライク!バッターアウトォ!!」
ストレート指示でインコースのストレートを見逃し三振。
ボール球をストライクコールされたんだろう。
じゃないとここまで来てないインコースの際どいストレートでも流石に反応するに決まっている。
「ごめん。ストレート狙い指示だったけどカットボールがチラついてインコースのストレートに反応できなかった。私がサイン要求して、しっかりとストレート狙いで当ててたのに信じられない私が悪かった。」
俺の元に来てかなり申し訳なさそうにしている。
元はと言えば俺がギリギリまで悩んで、ギリギリにストレート指示出したのだ。
それを絶対信用しろというのも結構難し話でもある。
「いや、自信満々にサイン出せずに俺こそ申し訳ないです。まだ回はあるので守備しっかりと締めてきてくださいね。」
「ありがとう。それじゃ行ってくる。」
それでも逢坂先輩があっさりとワンアウト三塁にしてくれてからの連続三振は結構しんどいものがある。
5回表のマウンドに上がった海崎先輩。
5番が先頭バッターにボテボテのショート内野安打を打たれたが、6番バッターがバッターが即バントしてワンアウト2塁のピンチを背負った。
「ストライク!バッターアウトォ!」
だが、竹葉の攻撃はここまでだった。
7.8番を連続三振に打ち取り涼しげな顔をしてベンチに戻ってきて、おもむろに俺の隣に座ってきた。
「ねぇ。私はここで代打?」
「まだ投げたいですか?」
「まぁあの3番にまぐれの1発浴びたけど、それ以外は特に問題ないでしょ?勝ってれば変える必要ないよね?」
「まぁ勝ってれば変える必要は感じないですけど、負けてますからね。8番の北上先輩が長打打つか、遠山先輩が代打で長打打てば、バントの上手い海崎先輩を続投させてもいいですよ?」
「なるほどね。右田から打てそうな気がしないし、期待せずに待ってるわ。」
海崎先輩は試合になると聞き分けがいい。
特に負けてる試合だと勝つためならマウンドから降りることを一切拒否しないが、勝っている時に理由なく下ろそうとすると、頑なにマウンドを降りずに審判が注意しにきてこちらが諦めたことが2回くらいあった。
「代打!遠山苺!」
逢坂先輩がピッチャーの時にレフトのレギュラーの遠山先輩が北上先輩に代わりに打席に向かう。
北上先輩よりは遠山先輩のが間違いなく打撃力では上だろう。
ブンッ!!
「ストライクツー!」
カットボールとストレートを連続で空振り。
先週の練習試合と練習を見る限り調子は良さそうだったけど、全然タイミングがあってない。
打席を出て1回、2回と素振りをしている。
俺はマウンド上の右田さんをじっと観察していた。
「彼女は俺が思ったよりいい投手だったかもな。」
「ストライク!バッターアウト!」
遠山先輩は為す術もなく三球三振。
「海崎先輩。打つ自信あります?」
「目の前であんな三振見たら打てる気しないね。」
監督もかなり悩んでいるようだ。
氷なら50%以上はヒットを打つんじゃないかと俺は思っている。
打撃練習でもストレートにツーシーム、カットボール混ぜてもバットの軌道を少し変えつつ右に左に打ち返される。
カットボールかストレートの右田さんみたいな投手は氷のカモと言っても過言じゃない。
ワンアウトランナー無しで出すような打者ではないと思ってるが、打撃があんまりよくない海崎先輩に変える選手もいない。
ベンチには博打的な2年生が1人だけいる。
円城寺に似てるバッターだが、あの筋肉ウーマン円城寺よりもパワーがある。
剣崎香奈。
同級生からは剣ちゃん。
上級生と桔梗たちからはおかわりちゃん。
食堂で毎日お昼に丼を食べたと思ったら次にまた違う丼を食べることから、おかわりちゃんらしい。
氷もややふっくらしてるように見えるが、それどころの話ではない。
何部かと言われればまずラグビーか柔道の重量級にしか見えない。
167cm.80kgの恵まれた体からとんでもないパワーでボールを飛ばしているが、弱点がある。
ほぼど真ん中付近しか打てないし、ここまでインコースに弱いのかというくらいインコースに弱い。
アドバイスをしたことが1度あるが、改善されてる様子もないしそもそも俺の事が好きじゃなさそうだ。
「コーチ。剣崎代打どう思う?」
「悪くないと思いますけど、今の右田さんの球が打てるとも思わないですけど。」
「私に任せんかい。ホームラン打ちゃいいんだろ?余裕でかちこんできたる。」
「そのとんでもないエセ関西弁やめてもらえませんか…。」
周りから聞いても恥ずかしいレベルの関西弁をいつも話している。
チームに関西人が居なくて良かったと思うレベルなのだ。
「はぁ…。海崎。ここまでお疲れ様。」
「代打。剣崎香奈!」
ネクストバッターズサークルにいた海崎先輩に声をかけて、体の小さい海崎さんはゆっくりベンチに戻ってくるが隣を同じ女の子と思えない剣崎先輩がその隣をすれ違っていく。
「がはは!任せんかい!」
「はぁ。いつもみたいに馬鹿な三振してこい。」
海崎先輩は自分の代打が剣崎先輩なのが嫌なのか、あからさまに剣崎先輩に毒づいている。
「ストライク!バッターアウトォ!」
「あいつやるな!まぁ次回ってくればホームランなんて余裕やで!がはは!」
「あんたみたいなのが守備につける訳ないでしょ?さっさと荷物まとめて帰れ。」
「なんだとチビ助!こんなに小さくて細いと背番号1じゃなくてランドセルのがええんとちゃうかー?がはは!」
「死ね。このパワーしか脳にない動物。野球は動物には出来ないの知ってる?あー。動物だから退部届が書けないのよね?私が書いてあげるからさっさと失せて。」
「なんだとこのガキ!」
手に持っていたコップを投げ捨てて海崎先輩に詰め寄った。
海崎先輩と剣崎先輩は本当に仲が悪い。
試合になったらとかじゃなく、海崎先輩が剣崎先輩を完全に拒否してる感じだ。
「2人とも!喧嘩するのはいいけど、試合に影響を及ぼすのは忘れないで!出来ないならベンチから出ていきなさい!」
あんまり注意しない監督でも今日の言い合いはかなり酷いレベルだ。
2人はもう出番が終わったからいいだろうが、周りに影響出るならベンチから出ていってもらった方がいいかもしれないと俺も思っていた。
「すいませんでした…。」
ベンチで揉めてる間、かのんの打席を見ていたが2打席目はゲッツーだったが当たりは強烈だった。
そのタイミンクバッチリのかのんがカットボールを空振りしている。
「きたーー!カキイィーン!!!」
「ストライク!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」
「あれ?」
かのんの口から球場に響き渡る大きな声の擬音だったが、実際はバットにボールが当たらずあっさりと三振してしまった。
「これはまずいな。」
5回を終えて1-0。
この回の右田さんをみて俺は嫌な感覚が拭えなかった。
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