元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

福岡地区大会初戦!





キキィーン!




今日は1回戦の竹葉戦。




俺は相手のシートノックの様子をじっくりと観察していた。




相手チームには俺のスカウトを断った選手が1人いて、1年生ながらエースとして試合に出て来ることになりそうだった。






右田菜々美みぎたななみ




俺が珍しくピッチャーでスカウトした選手で、カットボールの変化が鋭くほぼストレートと同じスピードで投げられて、女子中学生のカットボールとしては神業レベルのカットボールだと思ったのをよく覚えている。






「龍。あのピッチャーがカットボールのピッチャーだよね?」






桔梗がタメ口なのは、俺はベンチ入りしてるメンバーにとりあえず試験的にタメ口にしてみてちょっと様子を見てみようと思った。




桔梗は練習をじっとみている俺の元に現れた。




確か桔梗とはリーグが違ったのかまでは覚えてはいないが、知らないということは違うリーグだろう。




彼女は美咲と同じような境遇だった気がする。Princessリーグの弱いチームのエースピッチャーだったが、いい投手として個人では有名だった。






「そうだね。女性が投げれるレベルのギリギリのカットボール投げてくるし、ストレートもいいスピード出てるしね。」






「練習の時にも言ってたけど。龍もカットボール得意だったよね?」






「あのカットボールはやっぱり俺には投げられないねぇ。なんか変なカットボールなんだよね。フォームを何回かカメラで動画を見返したけど、メジャーの大投手のリベラって知ってるよね?あれを自分なりにアレンジしてるっぽいね。 あのキレであの速さは実際打席に立たないと分からないから気をつけてね。」






マリアノ・リベラ。


メジャーの最強の抑えで、カットボールと分かっていても打たれなかったカットボールをこんな島国の女の子が真似できるとは思えないが…。




「リベラのカットボールね。前も言ったけど流石に龍でもそれは言い過ぎと思う。」






「とりあえず、桔梗は空振りしてもいいからどちらかを狙ってガンガン狙っていけよ。出来れば一球ずつどちらかを狙うか勘で決めてもいい。」






「まぁ、コーチがそう言うならそうするよ。」




この投手がいるならやることは一つしかない。
全打者カットボール狙いする。
桔梗だけはストレートとの2択好きに打たせて、同じ1年生として格付けさせたいと思っていた。






打たれたのを怖がればこれからも有利になるし、意識してくるなら前後の打者が有利になるだろう。




いい投手と3年間戦う可能性があるなら、少しだけでもこれから有利になるようにするのが当たり前だ。




今日の白星高校のレギュラーメンバー。


1番セカンド四条
2番ショート大湊
3番サード末松
4番ファースト橘
5番レフト逢坂
6番キャッチャー三本木
7番ライト瀧上
8番センター北上
9番ピッチャー海崎






相手チームのメンバー表をもらった。


俺は相手チームの練習や試合を見に行ってある程度どんな選手かを確認してきていた。






投手の右田さんだけは今でも手強い相手だが、3年になった時には強豪校を脅かす選手になってるかもしれない。


だが、チーム力ではうちの方が上なのは間違いだろう。






『右田さん。橘桔梗という強打者が白星高校にいるというのを県下に知らしめたいからその礎になってくれ。』






心の中で桔梗が勝つことを信じていた。




桔梗には特別に彼女のカットボールは真似出来なかったが、できるだけ近い球を打つ練習を充分にさせてきたし、桔梗もかなり自信を持っていた。




桔梗も中学では有名だったが、高校でも華やかにデビューして有名になってもらいたい。


彼女を抑えられればこれから通用するという大きな壁になってくれれば、練習試合もできるだけいい投手に投げてもらえるかもしれないし、強いチームと戦うチャンスも増えるかもしれない。




試合前に両校の監督とキャプテンがバックネット前に集合して、しっかりと握手をしている。


ここでコイントスをして選択した面が出れば、先行後攻の選択権が選ばれる。




多分、キャプテンが選択権を確保した。
雰囲気が少し強気になったのでそう思った。






「私達は後攻だ!夏の大会初戦、私たち3年は負けたら引退。だから長く野球をする為、みんなと長く過ごすために絶対今日は負けられない。気合い入れていくぞぉ!」








「おぉーーー!!」






シンプルでわかりやすいいい鼓舞の仕方だ。


キャプテンはキャプテンとしてしっかりあろうという気概をずっと感じていた。


キャプテンとして満点かといえばそうでは無いだろうが、そういうキャプテンであろうという気持ちはしっかりと伝わってくる。




両校の選手たちがベンチ前にならんでお互いに気合いを入れている。
女の子達だから野太い声では無いのでまだ可愛らしく感じる。






「整列!」




その声とともにダッシュでホームベース上に集まる選手達。




大体並び順はチームによって違うが、キャプテンの隣は副キャプテン、その後はポジション順。


うちはそのようにしているが、相手の竹葉高校はキャプテンの後は身長順で並んでいる。


身長順の方が見栄えはよく見える。
うちはそこそこ身長の高いキャプテンの次が、150そこそこの海崎先輩に、キャッチャーの170cmある三本木先輩が並ぶとどうしても凸凹感が出てしまう。






かといって身長順なら1番後ろになるので、エースが一番端なのもどうかと思うが。






「礼!!」






「「よろしくお願いします!!」」








遂に全国高校女子野球選手権福岡大会一回戦が始まった。


選手たちは一斉に駆け出していった。
流石の桔梗もかのんも少しだけ緊張しているみたいだ。


海崎先輩は体はちっこいが、態度もデカいし性格は図太い。こういう時にはとてもエースっぽい風格にも感じる。






1番緊張してなさそうなのが俺の近くにいた。






「おい。氷、隠れて甘い物食べてもバレてるからな。」




「なぜバレた。少し小腹空いたからエネルギー補給に…。しゅん。」






「誰も怒ってないよ?別にコソコソせずに食べたらいい。けど、食べるのは今じゃないと思っただけだよ。」




ベンチの中はクスクスと笑っていてちょっとは緊張も解れただろうか?


監督は大切なプレーボールが近づいているのに美味しそうにお菓子を食べる氷を見て苦笑いしていた。






「プレイボール!」






海崎先輩はここまでふてぶてしいのかと思うくらい余裕の表情でサインを確認している。




少し高めに足を上げて、足を下ろすと同時に一緒に体を傾けて、鍛えられた背筋と足腰と、柔らかすぎるくらいの股関節でかなり大きく前に踏み込み、地面スレスレの右膝にはしっかりとしたプロテクターをしていて、たまに膝が地面に触れるほど上体をしっかりと落としている。




上半身は左手は後ろに大きくテイクバックして、投げる瞬間ギリギリまで体を開かずに、できるだけ前で地面から10cm前後のところからリリース。
投げた後の手は巻き付くようなしなりを見せる。


アンダースローを指導するのは俺にはできないと思うが、研究は沢山した。


海崎先輩のフォームになにか指導することなんて無かったし、出来るとしたら体の鍛え方とか細かい所しかないと思っていた。






「ストライーク!」




いいストレートがアウトコースギリギリに決まって、相手はスイングすることなくあっさりと見逃してきた。






リードはキャッチャーにある程度任せてるが、竹葉の相手バッターに対してのリードの組み立て方を教えておいた。


それを実践するかどうかは三本木先輩に任せることにしておいた。




もし、どうしても決められなかったが俺がサインを出す。




そうならないような展開になるといいのだが…。






カキィーン!






1-2から打ってきた打球はしっかりと捉えられて一二塁間へ。






「桔梗!任せて!」






桔梗はすぐに止まってファーストベースに戻って、追いつきそうにない打球にかのんは凄いスピードで飛びついた。






「ア、アウト!」






かのんはダイビングで追いついた後、投げる体制じゃないままとりあえず桔梗の方にボールを投げたというより投げ捨てたが、それを桔梗も落ち着いてキャッチした。








「ワンアウトー!」




ファインプレーのかのんが高らかにワンアウトとナインに向かって声掛けした。






「スリーアウトチェンジ!」




かのんのファインプレーの後は、海崎先輩があっさりとショートゴロ、サードフライに抑えてベンチに戻ってきた。






「かのん、やるじゃない。さっきのは褒めてあげてもいいわ。」




ヒットコースに打たれておいて偉そうな海崎先輩にかのんは何を言い返すのかと思ったが、特になんにも言わずに先頭バッターとして準備していた。








「かのん。出来ればカットボールを打って来てな。」






「うん?カットボール?カットボール!あぁカットボール打てばいいんだねっ!」






「かのん…ほんとに…。」






そう言い残して俺の言葉も聞かずにバッターボックスに向かっていった。






「よーし!カットボールホームランにしちゃうよー!」




普通にバットを高々と上げてホームラン予告するのに、口で狙う球を宣言してついでにホームラン予告までしてしまった。






「かのんー!いいぞー!」




ベンチの横から応援してる1年生達がかのんのことを応援をしてる?いや、面白がってるみたいだ。


俺もこうなったらかのんの自由にやらせるしかないし、監督とそれを分かっていて使っている。






「へいへーい!ピッチャーカットボールかもーん!」




あれ以上やったら審判に注意されそうだが、されたらされたでまぁいいかと思っていた。




相手は何を投げるのだろうか?
右田さんはストレート5割、カットボール5割で本当にたまにカーブを投げるくらい。


カーブは精度があまりよくないというか、投げ方が少しだけ変わるという致命的な弱点があるからなかなか使えないのだろう。




ほぼ2種類でカットボール投げろと煽っているバッターに投げる球は難しい。


50:50でどちらかに的を絞ってたら打たれる気がしてならないが、いつもそれで勝負しているというのを忘れてはいけない。






バッテリーがサインを決め、右田さんが投げた球はどちらなのか!?





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