元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
夏のメンバー!
「いえーい!4連勝!」
1年生試合から約2週間が経ち6月1週の土曜日になった。
土日はほぼ練習試合をこなしていて、再来週に俺と桔梗世代の最初の夏の大会が始まろうとしていた。
1年生試合はこれまで負け無しの4連勝で勝ち続けていたが、俺はチームの未完成さにずっと違和感を覚えていた。
と言ってもこれまで負け無しで来ていたので、深くみんなに問いかけることもなかったし、俺もその正体に気づくことも出来なかった。
「みんな、今日もお疲れ様。夏の予選が再来週から始まるのは知ってるよね?明日予選の抽選会があるから私と末松さんと猫田さんの3人で行ってくる。午前中は東奈くんと教頭先生が練習を見てくれるならちゃんと言うことを聞くように。昼からは練習試合で飯塚西高校が来るからそのつもりで。」
監督は言わなかったが、練習試合の後で夏のメンバーの発表が始める。
俺監督にメンバー推薦も一緒に決めようと言ってきたが、1年をどうしても少しでも入れてあげたいと思ってしまって贔屓で選んでしまうと思い、今回は監督に全てをお願いした。
次の日の午前中もあまり厳しい練習をせずに、怪我に気をつけてチーム全体の練習を行っていた。
ここまで来るとあの意地悪をしてきた北上先輩も高橋先輩も大人しくなっていた。
やりすぎて目をつけられてメンバーから外される可能性もあるからだ。
最近は練習が終わったあとに監督と話すことが増えた。
昨日も練習試合の後に監督と1時間くらいミーティングをして、車で家まで送ってもらった。
「龍くん。うちのチームで今足りないものってなんだと思う?」
「足りないものですか?いくつかあると思いますけど…。」
「それなら聞き方を変えるけど、勝つにはどうしたらいいと思う?」
「監督ならわかってると思いますけど、海崎先輩と逢坂先輩と梨花の使い方じゃないですかね。投手が全てです。打たれなければ負けないし、崩れればその分をリカバリーする野手の能力の高さが要ります。」
「そうだね。けど、うちにはそのリカバリーする野手の能力が足りてない。」
「そういうことですね。これを2週間でどうこうするのは無理です。後は3人の投手を上手く起用するしかないと思いますね。最小失点で抑えて勝つ投手戦に持ち込んで、打撃戦になったらほぼ運だと思います。その時は選手たちにお祈りすることにしましょう。」
「はは。さすがに甲子園までは無理だと思ってるけど、3回戦突破して準々決勝までは進みたいと思ってるけど、行けると思う?」
「シード校といつ当たるかによりますが、3回戦までなら現実的だと思いますよ。」
「それなら作戦とか考えようか…。」
昨日こんな話をしたのを思い出した。
今選手たちはシート打撃を行っていた。
ピッチャーが投げてバッターが打つまでは同じだが、ちゃんと打ったバッターがファーストまで走る。守備もちゃんと実践と同じようにプレーをする。
ちょうど今、かのちゃんが右中間に鋭いライナーを放って俊足を飛ばして三塁打を狙っている。
センターの北上先輩から高橋先輩に中継してサードに送球するが間に合わずに三塁打。
次のバッターの月成はシート打撃だったが打たずに初球からスクイズを敢行して、余裕でスクイズ成功した。
月成は周りをみて隙をつくようなプレーが上手い。
いまさっきもシート打撃だからスクイズしてこないという守備位置を見ていて、初球からスクイズしにいったのでろう。
「月成今のはいいスクイズだった。かのんも上手くカーブを打ったな。」
いい結果を出した選手はしっかりと褒めて、上手くいかなかった選手は怒らずにこうしたらよかったと親身になって話をする。
大会前の今調子を落としたり、気分が落ちたりするのが一番まずい。
出来るだけ気分を上げて調子を上向きにしてもらうことが勝つ秘訣だ。
先週くらいから少しだけピリピリすることが増えた。
試合で少しミスでも試合後にネチネチ言って、それに腹を立てた選手と喧嘩をしたりすることが増えた。
レギュラー争いもあるだろうが、やっぱりストレスや不安もあるのだろう。
少しでもそういうのを排除するために雑用をこなし、いつもなら突っぱねるようなワガママも聞いてあげることにした。
「四条!あんた少しは大人しく出来ないの?うるさいし目障りなんだけど。」
「なんですかー?声出しして、きびぎび動いてるのに言いがかりつけられても困りますー。高橋先輩こそこの前から上手くいかないからって八つ当たりばっかりしてますよねぇー?みんな迷惑してますよ?」
同じポジションのかのんと高橋先輩がまた言い合いをしている。
4月に1度レギュラーを2年生に取られた高橋先輩だったが、レギュラーを奪った2年の先輩が打撃の大スランプに陥ってしまってセカンドのレギュラーの座が何もせずとも戻ってきた。
このままセカンドのレギュラーを不動のものになると思っていた高橋先輩だが、かのんという不思議な物体が現れて急に熾烈なレギュラー争いに引きずり込まれていた。
他にもレギュラー争いしているポジションも多い。
エース争いで、
3年安定感抜群の逢坂先輩。
左のアンダーで完成物高い2年の海崎先輩。
チーム1の速球を持つ1年の梨花。
ショート、レフト、センターもかなり1年から3年まで争っている。
1番おかしいことをやってる選手が1人だけいた。
元々投手の美咲が持ち前の守備の上手さでショート、レフト、センター、ライトの4ポジションでレギュラー争いをしていた。
だが、瀧上先輩という完全に美咲より外野が上手い選手がいた。
こんな感じで1年もレギュラー争いに加わっていて、チームもピリピリするのも仕方ないことだった。
俺も大会のことや作戦のことなどを考えていると午前中の練習も終わり、監督たちも帰ってきた。
みんなお昼ご飯休憩をしていた。
 
「ご飯食べながらでいいから聞いてね。1回戦の相手は竹葉学園。2回戦は順当にいけば青藍高校。3回戦はほぼ間違いなく福岡国際高校と試合になると思う。」
組み合わせを監督は発表した。
俺の知る限り青藍はそこまで強くはないが、竹葉の方が少しだけ名前を知ってるということは強いのだろう。
3回戦の福岡国際高校はいまのうちのチームでは勝つのは厳しいだろう。
絶対に勝てないとは言えないが、よくて10%、悪く考えたら2.3%あればいいだろう。
福岡国際のエースピッチャーは今年のドラフトの上位確実というのを雑誌で見た事がある。
名前は覚えてないが、絶対的なコントロールの良さが売りで分析力に長けている福岡国際はそのコントロールを生かして相手の苦手得意を把握してリードをデータ化して打ち取ってきたのだろう。
対戦表をみんな食い入るように見つめて、三者三葉の反応を見せていた。
福岡国際と当たることを嘆く人もいたが、どの道準々決勝になればどこかしらのシード校と当たるのでそんなことを言っても仕方ない。
「末松キャプテンお疲れ様です。」
「あぁ。お疲れ様。私のくじ運はどう思う?」
「いいと思いますよ。一、二回戦は油断せず全力で行けば80%くらいは勝てると思います。」
「それならよかった。あと少しだがみんなの練習を見てやってくれ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
俺はこの時やっとキャプテンに認められたんだなと感じたが、同時に遅すぎるとも思った。
3年に対しては雑用をしてあげただけで、何も教えることも出来なかった。
まだ引退する訳じゃないが、もうやってあげられることなんてたかが知れてる。
午後からの練習試合は飯塚西高校と1試合行い、3対1で勝利した。
そして、ダウンも終わりグランド整備も終わり後は解散いうところで監督がみんなに集合をかけた。
「みんな集合。みんな緊張してる顔してるね。お察しの通り今から夏の大会の予選のレギュラーとベンチ入りメンバーを発表します。」
そう監督が宣言すると空気が一変した。
1年生達もこれまでレギュラー発表とかを幾度となく経験してきただろう。
だが、この独特の緊張感は中々慣れるものでは無い。
レギュラー確約されているような選手以外は呼ばれるまでは分からないのだ。
「ちなみに最初に言っておくけど、今回のベンチ入りメンバーは東奈コーチの意見は入ってないです。みんながどんな癖や特徴や弱点があるかもしっかりとこのリストに書いてある。」
そういうと俺が全選手のプレーを見て作った能力査定リストみたいなものをみんなに見せていた。
「それって私たちに見せてもらえるのですか?」
どこからか2年か3年生の声が聞こえてきた。
「だめ。大会にこれを見せて変に直そうとすると逆に悪化しちゃうから。 みんなにはプライドが合って出来なかったかもしれないけど、このリストは入学式には東奈コーチから提出されてきた。監督に自ら弱点を克服してきた人に、自分の代わりに指導してあげて欲しいって言ってね。」
みんな監督の話を真剣に聞いていた。
俺も隣にいるので、選手たちの視線が突き刺さるようだった。
「聞きに来た選手は少しだけだったから教えてあげたけど、1番はこれを書いた東奈コーチにから指導してもらった方がよかったと思う。」
「あ、こんなことは後で話せばよかったね。それじゃ名前を呼ばれた人から東奈コーチから背番号を受け取ってねー。」
遂にきた。
みんなから殺気に近いほどの緊張が俺にも十分に感じ取れた。
俺も誰がレギュラーに選ばれて、誰がベンチ入り出来なかったのかを俺も知らない。
俺自身も結構緊張しているのを必死にで押し殺していた。
「背番号1番、海崎詩音。」
周りよりも小さい体でも堂々とした声と態度で俺の前まで来て背番号を貰いに来た。
「エースとして頑張ってください。」
「ふん。当たり前よ。」
「背番号2番、三本木創。」
正捕手は三本木先輩だろうと思っていた。
柳生もいい線行ってたと思っていたが、打撃が高校に入ってイマイチでそれも足を引っ張ったのだろう。
「正捕手頑張ってください。」
「ありがとう。任せて!」
「背番号3番、橘桔梗。」
やっぱりファーストは桔梗だった。
2年の先輩を完全に実力で抑え込んでのレギュラーを獲得。
高校に入って春からここまで4本のホームランはチームトップ。
「桔梗おめでとう。レギュラー取ったからといって手を抜くなよ。」
「ありがとう。わかってるから大丈夫。」
いつもは表情に出ないがやはり高校初レギュラーは嬉しいのだろう。
「背番号4番、四条かのん。」
「はーい!やったぁ!」
かのんは高橋先輩とのレギュラー争いにギリギリで勝ったのだ。
守備、打撃であんまり差は感じなかったが、足の速さがかのんをレギュラーに押し上げたのだ。
「あの約束覚えてるよね?自由にしたいならみんなに信頼される選手なるって。」
「覚えてる。大会は絶対に負けない。」
「背番号5番、末松澪。」
ここは絶対にキャプテンなのは間違いないと思っていた。
1年の円城寺や美咲が3年で1番上手いであろうキャプテンには勝てるはずもなかった。
「キャプテン、頑張ってください。」
「あぁ。頑張るよ。」
「背番号6番、大湊聖。」
ここで俺がほとんど会話したことの無い大湊先輩。
最近は1番として高い打率を誇っている。
守備も安定して、足もそこそこ早い。
野手として見出した監督の目は確かなんだろう。
「大湊先輩、頑張ってくださいね。」
「あんがと!今度私の指導でもしてね。」
「背番号7番、逢坂音々。」
ここで3年エースの逢坂先輩がレフトとして選ばれた。
肩の強さも打撃の良さも野手としても問題ない。
レフトのレギュラーだが、時と場合によっては登板することも普通にあるだろう。
「逢坂先輩、頑張ってください。」
「はぁい。頑張るねー。」
「背番号8番、北上沙羅。」
センターはくい込むことが出来る唯一の場所かと思ったが、そのまま北上先輩がレギュラーを死守。
凛では無理だと思っていたが、ワンチャンス美咲も有り得るかなと思ったが無理だったようだ。
「頑張ってください。」
「どーも。」
「背番号9番、瀧上舞。」
瀧上先輩なら仕方ないだろう。
彼女の守備能力は他のメンバーを寄せ付けないレベルだった。
「頑張ってください。」
「うん。任せておいて。」
「背番号10番、西梨花。」
第2エースの背番号をとされている10番を梨花が取った。
エースの座もそこまで遠くないと俺は思っている。
来年は1番を取っている姿を見てみたい。
「次はエースナンバー取れるように頑張れ。」
「あぁ。次はワシがエースナンバーじゃけ。」
そこから名前が呼ばれずに番号だけがどんどんと過ぎていく。
流石に現実は甘くないということだ。
「背番号17番、時任氷。」
ここで多分代打の切り札の氷がベンチ入りしてきた。
ここ最近5試合で1番打率がいいのは氷だった。
打つことに関しては特に言うことの無い氷だが、早く守備とかをどうにかしないといけないと思っていた。
「氷、代打だろうけど頑張れ。」
「頑張る。ぴーす。」
周りからは見えないように小さくピースしてきた。
「背番号19番、柳生愛衣。」
ここでキャッチャーの柳生がベンチ入りできた。
キャッチャーの能力は高いものはあるが、打撃が高校に入ってからイマイチ過ぎたのでこの番号なんだろう?
三本木先輩にアクシデントがあっても柳生ならどうにでもするだろう。
「柳生、おめでとう。」
「ありがとう。選ばれないと思ってたから嬉しい。」
柳生は珍しく凄く嬉しそうな顔をして見せた。
「背番号20番、月成姫凛灑澄。」
ここでまさかの月成がベンチ入りに選ばれた。
美咲か七瀬が選ばれると思っていたが、月成がここで選ばれる結果に。
高校に入ってからハイアベレージをキープして打率も4割近く打っているのも選ばれた要因なんだろう。
「月成おめでとう。頑張ってね。」
「が、がんばりますっ!」
レギュラーとベンチ入りメンバーを全て発表した。
監督が美咲と七瀬を外した理由は分からないが、これも野球の厳しさなのだろう。
「この20人で夏の大会は戦っていく。レギュラーは精彩をかいたプレーをしたら普通にベンチ入りメンバーと交代させるからそのつもりで。 それじゃ、今日は解散!」
「「お疲れ様でした!」」
個人個人思うところはあるだろうが、この結果をうけて真摯に野球にまた向き合っていくしかないのだ。
俺はベンチ入り出来なかった選手たちを見て心の中でエールを飛ばし続けた。
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