元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
特守!
3泊4日のレクリエーション合宿も無事に?終わり、学校に戻ってすぐに練習ではなく、今日は解散となった。
あの練習の後、みんなは桔梗の部屋に行き謝りに行ったらしいが少しだけ怒られたらしい。
まぁ何も言わずに無視されるよりは普通に怒られた方がみんなの気持ちも楽だろう。
「龍、一昨日の約束だけど、今からちょっとスポーツショップに行って新しいバット見繕って欲しいんだけど。」
「それがお願いってことね。流石にバット買ってやったりは出来ないよ?」
「そんなこと頼まない。一旦家に帰ってから着替えてから付き合って。」
俺と桔梗は2人で帰ることにした。
蓮司は俺の音楽を早く奏でないとと意味わからないことを言って部活に出かけていった。
家に帰って着替えたりしてたら、なんだかんだ5時過ぎにはなっていた。
「桔梗ちゃん、夜ご飯どうする?結構腹減ったから飯でも食べたいよね。」
「そうだね。スポーツショップの近くに美味しそうな洋食屋さん出来てなかったっけ?」
「んー。覚えてないけど、そこに行ってみようか。」
桔梗は少し嬉しそうに頷いて、2人で電車に乗ってスポーツショップまで行った。
「ここで美咲に3回目か4回目かに会ってテストしてさ…。」
「ふふ。そうだったんだね。だからたまに公園少女って呼んだりしてたんだ。」
俺と美咲が出会って、最初は首根っこ引っ張って暴力を振るわれたと大袈裟に笑いながら話していた。
桔梗のバットはメーカーも変えずに、長さとバランスもそのままに10gだけ重さをあげて84cm740gのミドルバランスのバットを購入した。
どうせだから姉と俺の共通知人だから安くしてくれないかと交渉したら少しだけ値切りに成功した。
バットも買い終わって、バッティンググローブもついでに購入して満足そうにカバンの中からバットケースを取り出して大事そうにしまっていた。
「話してた洋食屋さんはあっこ。雰囲気も良さそうで美味しそうじゃない?」
「スポーツショップ行ったあとはこっちの方に来ないから知らなかったよ。」
俺たちは2人で【ペンギン食堂】という名前のその洋食屋さんに入り、2人の共通の好物のオムライスを頼んだ。
「うわ!これ美味しいねっ。」
「卵もトロトロだし、デミグラスソースが美味しい。」
俺たちは値段もそこそこ安くて、これだけ美味しい洋食屋を見つけてとても満足してお店を出た。
「あの二人って東奈と橘じゃない?」
「そうやね。個人的にあんなデートみたいなことしてるなんてね。」
俺たちは次の日にあらぬ疑いをかけられることになってしまった。
土曜日の午前練習前にグランドの外でなにやらみんなが騒いで話していた。
俺の雰囲気を感じる能力が久々にここまでの強い悪意を感じるのは久しぶりだった。
話の中心にいたのはやはり高橋先輩と北上先輩がいた。
「ねぇ、コーチ。橘と付き合ってるの?橘ってS特待って噂も聞いたし、幼馴染を贔屓してるんでしょ?」
そう言われると昨日洋食屋をでて楽しそうにしている桔梗と俺の写真を携帯のカメラで撮られていた。
しかも運悪くか見ようによっては俺が桔梗の肩を抱いてるように見えなくもない。
「昨日、2人で出かけたのは否定しませんが付き合ってたり、贔屓したりはしてないです!」
「そんなこと信じられないんだけど?明日の試合橘は一軍に帯同して試合に行くんでしょ?それもコーチが監督に口添えしたって聞いたけど。」
聞いたと言っているが、多分話のでっち上げだろう。
俺の事を陥れようとするのはいいが、桔梗まで一緒に巻き込むのは俺は許せなかった。
近くにキャプテンの末松先輩が何も言わずにこちらを見ている。
彼女からは特に疑いも信頼も感じないのは多分俺がこの場をどうするかを見たいのだろうか?
「もし、そうだったと仮定しても橘の実力は誰も疑わないと思いますがそれはどう思いますか?」
「橘の実力?そんなの私たちは知らないけど。」
「そうね。中学で活躍してても高校では全く通用しないとか普通にあるけど?そもそも実力なんて見てもらったら覚えないし。」
『くっそ。何言っても無駄じゃないか。』
桔梗の実力を見せるには、桔梗自身で結果を出すしかないが明日の試合で絶対に打てというのも流石に厳しいだろう。
そもそも俺はグランドの中で1回も桔梗に指導してないんだぞ。
段々怒りがこみ上げるが、ここで怒ってもなんにもならない。
「朝から何話してるかと思ったら、くだらねぇことばっかり話やがって。」
そこに現れたのは梨花だった。
手助けに来たのか、機嫌が悪いのかは分からないが口を挟んできた。
「西、あんたには関係ないでしょ。」
「ワシが関係ってないって言うなら先輩たちは関係あるんっすか?先輩たちは橘とはポジションも違うし、同じポジションの2.3年が言うならともかく私が関係ないって言い張るなら先輩たちも黙ってたらどうすっか?」
これはやばい雰囲気だ。
梨花は別に喧嘩売っても気にはしないだろうし、本人が関わってないからあんまり問題にもならないだろう。
けど、関係ない梨花まで巻き込むのは良くない。
「梨花、もういい。」
俺は一言だけそういうと一瞬で興味のなさそうな顔になり無言でグランドの中に入っていった。
「コーチ。私に他の誰も耐えられない練習をやらせてください。誰が見てもこの練習は私にしか出来ないって思えるくらいの厳しい指導をお願いします。」
桔梗が現れるとすぐ気は俺にそう言って頭を深々と下げた。
俺と桔梗は多分昔のことを思い出していた。
小学生の時にこんな感じの出来事が一度だけあった。
こんな感じでチームメイトに責められていた訳では無いが、桔梗が上手くなるために自ら厳しい守備練習をしてくれと言って聞かなかった。
俺と蓮司は困っていたのをよく覚えている。
流石に男2人で女の子に厳しいノックを打ちまくって、ヘトヘトになって泣いている桔梗にノックを打ち続けないと行けなかったからだ。
あれが練習になっているかは微妙だと今でも思っている。
折れない心とか諦めない心とかの精神的なことは鍛えられるかもしれないが、上手くなるかは当時の俺も今の俺もとても疑問があった。
軟式から硬式になって、怪我するリスクも打球が当たった時の痛さも洒落にはならない。
俺も桔梗も少しは大人になって、手加減が出来ないと言う状況になってるというのはお互いにわかっている。
「分かった。監督にも話しをしておく。」
そういうと先輩たちは少しニヤニヤしていた。
それに俺も桔梗も気がついていたが、そんなことはもはやどうでもよくなっていた。
これからやることはお互いに心を強く持たないといけないのだ。
俺はオフシーズンにならと少し考えていた心を折りに行く特別守備練習、(特守)を行うことにした。
練習が始まり、桔梗は周りから少し白い目で見られながらも怪我をしないように慎重に丁寧にアップをしていた。
「龍くん。話は聞いてたけど、夏の大会もそう遠くない今に怪我するリスクのある練習をするのはコーチとしてどうなの?」
ベンチの中で監督と俺は二人で話していた。
心の中ではもう俺も桔梗も決心していた。
「僕が決めたことでは無いです。彼女が俺に頼んできたことなので断る事は出来ません。」
そうきっぱりと言い切るとまだ監督はなにか言いたげの様子だったが、言葉を飲み込んで了承してくれた。
キャッチボールも終わり、最初に全体守備練習を行うことになり、桔梗には全体守備を少しだけ先に受けてもらい、半分くらい経ったら特守を行うことを伝えた。
雪山と夏実の2人に特守を手伝ってもらうことにして、一般生は全体ノックの手伝いをしてもらうことにした。
時間は丁度10時になったところで特守を始めることにした。
「桔梗!いまから特守だ。」
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