元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
レクリエーション!
入学して次の週、俺たちは新入生オリエンテーション合宿として大分県の日田という水で有名な自然豊かな所に3泊4日で宿泊合宿に来ていた。
元女子校ということもあって新入生300人中男子は20人しか居ない。
学校では蓮司と他の男子2人と昼休みとかはよく話しているが、10分休みとかは席から立つのがめんどくさい時は隣の席の氷と話したり、女子達と話すことも多い。
夏実と円城寺は席が前後なのでよく話していて、蓮司がその後ろの席なので二人の会話に混ざっているのをよく見る。
柳生はクラスの明るそうなグループと仲良くしており、俺とは相変わらず話すことは少なかった。
レクリエーションでは親睦を深めるために山登りや自分たちでカレーなど外で出来る料理を班員と共にやっている。
山登りは結構な標高の山を麓から歩かされ、体力のない生徒は相当な重労働だろう。
みんなで一斉にスタートとしてゆっくり登るのもよし、とりあえずみんなで頑張って登りましょうという感じだ。
列の前、真ん中、後ろと色んなところに問題が起こらないように引率の先生達がいる。
派手目の女の子たちはだるいとかブツブツ言いながらも山を登っている。
そういう所にはちょっとチャラい男も集まってかなりワイワイ言いながら山を登っていた。
俺も蓮司と結構早いペースで歩いていたら、いつの間にか前の方の集団に追いついた。
そこにはいつも元気の良いメンバーが集まってどんどん前に進んでいた。
「あ、ししょー!一緒に山登ろーよ!」
彼女は四条さんではなくかのちゃんだ。
あの人はもう居ないんだ。
「あ、龍くん!女の子に歩くの負けたりしないよねー?」
「そうッスよ!私たちに負けるなんてコーチ失格ッス!」
かのちゃん、美咲、雪山の3人が1番先頭で歩いてるというかほぼ駆け足で山を登っていた。
この3人は元気もいいし、かなりスタミナがある。
練習でも結構走らせてもかなりピンピンしているタイプだ。
「ししょーの隣の人は前に話してた親友の蓮司くんって人ー?」
「そうだよ。初めましてかのんちゃんよろしくね!」
最初から普通にさりげなく下の名前呼びでかのちゃんも全然気にしている様子もない。
「よろしくっ!かのん達は1番最初に頂上まで行くからししょーたちまたねん!」
そういうとかのちゃんはダッシュして行った。
それを追うように2人とも目の前から消えてしまった。
「あの子たち元気いいな。龍も指導するの大変だろ?」
「まぁね。あの中で1番大変なのは雪山っていう馬鹿そうな子なんだよね。自分がどう見えてるか分からないけど、プレーの真似する度にこんなんじゃないッスー!って言ってショック受けては尻叩かないといけないからね。」
そういうと苦労してるんだなという顔で俺の事を見てきた。
俺も少し苦笑いで笑い返した。
頂上に着くとかのちゃん達がいた。
そこには車で人数分の弁当が運ばれていて、3人は景色のいい場所で早めの昼ごはんを食べていた。
俺達も景色のいいところに座って寝っ転がって昼寝でもしようとしていた。
うとうとしていると足を蹴っ飛ばされてた気がして目を開けるとそんな事しなさそうな七瀬が俺の前に現れた。
「起きた?ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「起こし方が女の子のそれじゃないよね…。」
「優しく起こしてくれるのは夏実とか月成とかだけだと思うけど。」
確かに今思えば、優しく起こしてくれそうな人と雑に起こしそうな人は結構はっきり分かれてるような気がした。
「それで起こしてまで俺に聞きたいことってなに?」
「キャッチング技術をもっと早く上手くなりたいんだけど、なにか練習方法ない?」
「ない。すぐにキャッチング技術を向上させるのは無理。というかプルペンキャッチャーちゃんとやってる?うちのチーム2~3年はかなり投手多いのにキャッチャー少ないよね。座りっぱなしは足腰疲れるかもしれないけど、積極的にプルペンでボール受けないとダメだよ。」
「プルペンでなら球受けてる。特に2年エースの海崎さんの球受けさせてもらってるし、3年エースの逢坂音々(あいさかねね)先輩の2人の球を受けてるし。」
「海崎先輩と逢坂先輩の球か。」
逢坂音々(あいさかねね)。
3年生の右のエースだ。
この先輩は優しい先輩で有名で俺に対しても特に文句も言うことも無いし、嫌がらせなもしてきたりしたことは無い。
とにかくコントロールが良くて、変化球もストレートもまぁまぁで大崩れはしないタイプで、試合を落ち着かせたり、安定した試合をしたい時には特にうってつけの投手だ。
多分、キャッチャー挑戦と聞いて練習に付き合ってくれているのだろう。
プルペンに入れば入るほど技術は向上するが、海崎先輩と逢坂先輩では彼女が思った成長は望めないだろう。
海崎先輩はアンダースローで下から上に浮き上がるようなストレート中心で、変化球もしっかりと制御していてワンバウンド投げるような投手ではない。
それは逢坂先輩にも言える。
もっとコントロールの悪くて変化球があっちこっち行く投手の方が練習にはなるのだが…。
「少し話はわかるけどなんで梨花の球受けないん?」
「え?それは彼女が受けて欲しいって言ってこないから受けてないけど?」
妙に納得出来た。
元々キャッチャーじゃなくて嫌々ピッチャーをしていたせいで分からないのか。
彼女からしたらキャッチャーは誰でもこれまでよかったのだろう。
だから、手が空いているキャッチャーを適当に見つけて呼んで受けさせたんだろう。
最近梨花のボールを捕っているのは、3年のレギュラー捕手と柳生が交代で受けている。
三本木創。
推定170cm70kgのとても体格がいい五番キャッチャー。
もちろんパワーはチームでもトップクラスで、肩が強いが、フットワークはそこそこで捕球もワンバウンドの球とかを捕球するのは上手いとは言えないが、体でしっかりと止める技術はある。
サバサバした性格で俺に嫌味を言うこともそんなに無い。
むしろ1年投手のことは最初に俺に色々と質問してきたくらいだ。
三本木先輩は梨花の投手としての才能と能力に気づいて球を受けているのだろう。
1年生でベンチ入りして登板する可能性がある投手として目をつけている。
柳生も次期エースとして早くからバッテリーとして形を作るために受けさせて欲しいと頼んでると思う。
柳生のことは想像だが、彼女ならそれくらいのことはやっていてもおかしくは無い。
「このままじゃ七瀬さんは上手くなってもレギュラーとれないかもね。」
「なに!?上手くなったらレギュラーとれるに決まってるでしょ!」
俺は彼女の意識の低さを指摘するか迷った。 
今はグランドの中じゃない。
「話は合宿が終わってからグランドでするから、今は俺の言った意味を考えて、キャッチャーに本当に重要なことを考えてきて。」
俺はそういうと七瀬さんが反論したいような顔をしていたが、無視してその場を立ち去った。
「なによ。訳わかんない。」
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