元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
2人の目標!
朝から江波さんと七瀬さんのいるチームの試合を見に来ていた。
桔梗は練習だったらしいが、今日はサボって2人で試合を見に来た。
今日の先発ピッチャーは七瀬さんではなく、江波さんがピッチャーでキャッチャーが七瀬さんだった。
多分最後の大会で七瀬さんのキャッチャーを叶える形になったんだろうか?
あの時邪魔されて答えを聞けなかったが、七瀬さんはキャッチャーを高校をできればいいなと思っていた。
「ツーアウトー!バックアップよろしくね!」
江波さんは投手をしながらも積極的に声を出していた。
球は相変わらず遅いが、前よりは少しだけ早くなったようにも見える。
相手も強くないのか、遅い球でもポンポンと投げるテンポの良さと味方に1回1回声をかけながら投げる江波さんを捉えられてなかった。
多分、七瀬さんのリードも上手くはまっていて相性もバッチリという感じだ。
「よしっ!みんなナイス守備!今度は点とっていこう!」
ベンチに戻っても一人一人とよく会話をして楽しそうにプレーをしていた。
ピッチングはかなり調子よさそうにゆったりとしたカーブに、ほんのり速いストレートを投げて打たせてとってどんどん回が続いていく。
打者としては7番を打っていたが、2打席でセカンドゴロと三振。
今日は打撃は全然ダメそうな気がする。
「桔梗ちゃ…。」
桔梗はとても楽しそうにプレーをしている江波さんをじっとみていた。
桔梗は隣で何を思うのだろうか。
羨ましく思うのか、楽しい野球なんて馬鹿らしいと思うのか。
それとも今の自分に無いものに気づくのか。
試合は結局延長戦に入り、江波さんは降板してその後に投げた七瀬さんが初球を打たれて1球で敗戦投手になってしまった。
「負けちゃったね。」
「けど最後に相応しい、いい試合だったと思うけどね。」
江波さんは最後の大会が終わって、中学校での試合は最後になってしまった。
泣いているチームメイトを必死に励まして、泣かないように気丈に振舞っていた。
私生活では大人しそうな感じだが、グランドの中やプレー中にはハツラツとした印象のいい性格に変わるのだろう。
「桔梗ちゃん、江波さんを見てどうだった?」
「全力でプレーしてたね。実力はまだまだみたいだけど、自分が今できることは全てやろうって気合いが入ってるように感じたかな。」
「そうだね。俺は江波さんのあのひたむきにプレーしている姿に惚れたんだ。3年間指導しても今の中学桔梗に追いつけるかどうかも分からない。多分、追いつけないと思う。それでも彼女の想いには応えてあげたいとも思ってる。」
「龍らしいのかな。昔私がファーストでワンバンの送球を怖がった時に蓮司と龍と3人で毎日のように練習に付き合ってくれたよね。そのお陰で内野からの送球でエラーすることもほとんど無くなったよ。」
懐かしいな。
桔梗の為に蓮司とゴムボールを買ってきて最初はそれをワンバンさせて当たっても痛くないって思わせて、次がテニスボールとかどんどん野球のボールに近づけて練習したな。
学校の休み時間に運動場で隅っこの方で半年くらいは練習してだと思う。
それから桔梗はファーストの守備が上手いということでレギュラーになって、3人で全国大会優勝まで勝ち続けることが出来た。
「蓮司にも感謝しないとね。」
「蓮司も龍も何も言わずに野球辞めちゃった。私だけが野球をまだやってる。2人とも私の事を野球に誘っておいて勝手に2人とも辞めちゃうなんて。」
それに関しては蓮司も俺もなにも反論の余地もない。
「けどね、龍は光さんとは違うんだなって思って。女子野球部のコーチなんて普通出来ないよね。結果が出なかったら責められるのは天見監督だっけ?と龍なんだよね?それで龍が完全に野球を捨てちゃったりしないか心配で。」
彼女は彼女なりに俺のことを心配していたのだ。
蓮司の時はあんなに怒ってたのに、俺の時には何も言わなかった。
蓮司は大した理由もなく野球を辞めたと思ったんだろうか?
俺だって決定的な理由があった訳でもないし、姉が現役なら俺も続けていかもしれない。
それくらいの原因でこんなに桔梗のことを心配させていたのは申し訳ないと思った。
早くちゃんと話をしてあげるべきだった。
「ごめんね。心配させて。」
「うぅん。小さい時から、この前の大会前の練習もいつも野球の事で龍には助けてもらったし、色んなことを教えてもらったから。」
「そんな事ないよ。桔梗ちゃんはそれをしっかりと練習して身につけただけだよ。簡単に身に付くことではないのに、隠れてずっと練習してたのは知ってたからね。」
「うぅん。それでも教えてくれなかったら私はここまで上手くなれなかったよ。」
俺はその言葉になにも返さなかった。
押し問答になるだろうし、桔梗がそんなに俺に感謝してくれていたというのが分かっただけでも嬉しかった。
「昨日からよく考えて、試合中も江波さんのプレー見て考えたけど、私は齋藤さんに負けたくない。日本一のプレイヤーとか高望みはしないけど、彼女達には負けたくない。」
俺は言葉を遮ることなく桔梗の本心を聞いた。
「けど、それと同じくらいに龍のことを助けてあげたいと思ってる。だから、白星高校で甲子園に行くのを私はプレーで頑張る、龍は指導でみんなが甲子園に行けるように頑張る。私の目標は龍が叶えて。龍の目標は私が叶えてあげる。」
桔梗のいつもの何考えてるかわからない口調じゃなく、しっかりとした喋り方と声で明言した。
「わかった。俺が桔梗ちゃんの目標を叶えてあげる。その代わり俺を甲子園に連れて行って。」
俺がそういうと桔梗は安心したような顔をして、恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった。
そこからは特に2人で話すこともなかった。
2人が目指す道が一緒だと分かれば言葉を交わさずとも何時でも分かり合えるのだから。
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