元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
スポーツショップ!
桔梗達の試合を見終わって、まさか齋藤さんが姉のフォームの真似をするなんて思わなかった。
完成度でいえば60%くらいだったが、桔梗は明らかにスイングが崩れていた。
ストレートをあんな打ち方していたらよくてヒット、ほとんどは凡打に終わるだろう。
「桔梗。まだまだだったやね。」
俺は桔梗に少しだけ同情したが、投手と打者との勝負で相手を動揺させて打ち取った齋藤さんの方が実力というよりも野球人として上だったんだろう。
勝負は時の運というが、今の打席だけでいえば齋藤さんは桔梗に勝つべくして勝ったという感じだ。
桔梗のインタビューを見たが、姉を相当リスペクトしているという記事を見た。
そういう事前情報やコース別の打率とかをしっかりとチェックしていたんだろう。
桔梗はインコースを打つのが相当上手いが、自信があるのかインコースの変化球を上手く打とうと意識があるのかもしれない。
2球目のくい込んでくる見送ればボールの球を確かに上手く打ってはいたが、あれをインフィールドに打ち返すのはかなり難しいと思う。
こればっかりは癖というか潜在意識の中にあるものだろうから、そこを見抜かれてやられた。
俺は西さんと会場を後にした。
声をかけようかと思ったが、1番その事をわかっているのは桔梗自身だと思い何も言わずに立ち去ることにした。
そのまま俺は福岡に帰る為に広島駅までバスに乗ろうとしたが、西さんが見送ると言ってくれたので折角なのでついてきてもらった。
駅の近くでお好み焼きを2人で食べて、なんの憂いもなく広島から帰る用意もできた。
「龍。試験の時にそっちに行くと思うけ、そん時はワシのこと福岡案内してくれや。」
「西さんもあんまり問題起こすんじゃないぞ?それは任せておいて!美味い食べ物でも食べよう。」
「西さんってのなんかむず痒いからやめろ!梨花でええよ。」
「あはは。梨花、また今度ね。」
「龍、またな。」
今回は握手することも無く、別れの挨拶をするとあっさりと梨花はそのまま人混みの中に消えてしまった。
短かった広島でのスカウト活動も終わり、今のところスカウト成功したのは4人。
江波夏実、四条かのん、月成…さん。西梨花。
いいんじゃないだろうか?
後は監督が連れてきた4人。
柳生結衣、愛衣。加賀谷鈴音、時任氷。
今のところ、投手2人、捕手1人、内野手3人、外野手2人。
14人フルでもし集めるとしたら投手2〜3人、捕手1〜2人、内野手5〜6人、外野手4人。
やっぱり野手が足りない。
けど、もうスカウト出来るような選手がいない。
1人だけ気になる選手がいる。
その選手に最後のスカウトをしてもいいかもしれない。
俺は新幹線の中でスカウトする選手最後の1人のデータを確認して、全然確認していなかった白星高校の試合を動画配信サイトで福岡県大会の試合を見てみることにした。
流石に勝敗とスコアとスタメンの選手くらいは把握している。
結論からいえば2回戦敗退だった。
1回戦は7-1で危なげなく勝っていたが、2回戦には姉の在籍していたシード校の城西高校に2-8で敗北した。
『悪くない選手もいるし、弱い高校の割にはまだマシな気がする。』
俺が見学した時に気になった、現在1年の瀧上さんと海崎さんはどちらも1年でベンチ入りしていて、海崎さんは1回戦で2回を投げて無失点に抑えていた。
瀧上さんも1回戦で打席は回ってなかったが、守備にはついていた。
天見さんの監督として初めての夏の大会は2回戦敗退。
秋の大会。
つまり春の甲子園の予選はまだ望みはあると思うが、新チームのエースになるであろう海崎次第なところもある。
逆に言えば海崎さんがなぜ白星高校に来たのだろうか?
もしかして門司の後輩という可能性もあるが、中堅校でも余裕で先発を任されるくらいのレベルにはなれるだろう。
ただ、体が小さいのが少し残念なくらいだ。
試合を見てどんな試合をしていたか見ていたらあっという間に福岡に帰ってきた。
博多駅を出てそのまま家に帰ろうとも思ったが、コーチになるということでノックバットでも見に行こうと思い、姉のスポンサーになっているスポーツショップに行くことにした。
店の中にはとあるメーカーの道具をほぼ無料で提供してもらえる権利があった。
勿論そこは姉のことを1番支援しているスポンサーだ。
この店は昔から姉と通っており、店長さんとは姉が有名になる前から通っていて、この店を厚意にしていた。
姉は女の子たちを応援キャンペーンとして、女子プレイヤーが他の店よりも安く道具買えるために女の子たちに人気でよく繁盛していた。
「いらっしゃいませー。」
女の子の選手たちが多く訪れる為、スポーツショップにしては多くの女性店員がいる。
あんまり男性にユニホームのサイズとかスポーツブラなどを聞くのも躊躇われるだろう。
「あの、店長さんいらっしゃいますか?」
「えっと。東奈の弟と伝えてくれたらわかると思います。」
「あ、東奈さんの弟さんですね!今呼んで来ます!」
俺は待っている間店内を軽く見渡していた。
やっぱり女性店員が多く、客も女の子ばかりだった。
野球関係だけではなく、バレーやサッカーなど女の子なら平等に安くしてあげないとというのが姉のモットーで、野球だけじゃなきゃダメなんておかしいという一声でこのような経営になったらしい。
そこに顔も見えないが、どこか既視感の感じる女の子がいた。
こんな店内でもフードを被り、今日は私服用なのかフードに犬の耳みたいなものが付いている。
俺はとりあえずは放っておくことにした。
そっちに目を奪われているうちに店長が俺の元に現れた。
「おー龍くん!久しぶりだね!」
「お久しぶりです。ちょっとオススメのノックバットとかないですか?出来れば重いヤツがいいんですけど。」
「重いノックバット?龍くんが理想としてるようなノックバットはないと思うね…。」
「けど、1番重さがあって龍くんが振りやすそうなのをちょっと見繕ってくるね。」
店長は商売上手でもあり、その人の実力を見定める能力がとても高い気がする。
人によって出す商品が違う。
初心者なら1番使いやすくて汎用性のあるもの。
上級者なら少し変わり種を交えて、いろんなタイプのものを提供する。
俺は4本のノックバットを軽くスイングして、1本気になったバットを選び少しだけ試打させてもらった。
「うんうん。これは打ちやすくていいかも。」
「それが気に入りました?中々上級者向けだと思いますが、龍くんなら上手く使えるでしょう。」
一般的な金属バットではなくて木製のノックバットを買うことにした。
「それではこれ買っていきますね。」
「いつもありがとうございます。いつもみたいに光ちゃん払いにしておくね。」
ここの店で買い物する時は姉のツケにしてもらっている。
その買った分は姉が払っているのかスポンサーが払っているのかよく分からないが、姉がそうしろと強く念押ししてきた為そうしている。
「あ!龍くん!」
「やっぱりそのフード被ってたのは美咲だったか。」
「公園に2ヶ月くらい来てないんじゃない!?そろそろ野球教えてくれてもいいんじゃないの!?」
「まぁそのうちね。」
軽く指導の話を流してしまったが、まぁ気が向いたら行こう。
美咲は相変わらずフードというか被り物が好きなのか私服でもフードを被ってるとは思わなかった。
「今日は柴犬ちゃんパーカー!フードに柴犬の顔と耳あるの可愛いでしょ?」
「まぁ、確かにそのフードは可愛いと思うぞ。」
「てことは私がブスだって言いたいの!?流石に龍くんそれは酷いよ!」
その場で暫くどうでもいい話をしていたが、美咲の手にはバットが握られていた。
「美咲、そのバット買うのか?」
「うーん。それがね、振りやすいバットはあるんだけどどんなバットを選ぶか迷ってて。」
「それって練習用?試合用?」
「バットなんて練習用と試合用なんて分けられないよ!」
「なら少しだけバット振ってみて。」
今持っているバットを美咲に振らせることにした。
スイングで何となく合ってるか合ってないかはなんとなく分かる。
「美咲、身長何センチで体重は何キロなんだ?」
「なー!体重を乙女に聞くなんて最低なんだよ!」
「それならその持ってるバット買っていったらいいよ。」
そう言って帰ろうとしたら、いつもみたいに首根っこを…とはいかずにちゃんと服を掴むようになっていた。
「161cm、57kgです…。」
美咲は体型隠しにパーカーを着ているようには見えないし、あんだけハードなトレーニングしているなら身体は結構筋肉質なはず。
「何恥ずかしがってるんだ?野球とかスポーツしてて細すぎる方がどうかと思うけどな。」
「そ、そう…。それで!バットはどうしたらいいの!」
バットは重さや長さや太さがメーカーによっても、同じメーカーでも全然違う。
それは好みになってくると思うが、1番重要なのが重さだと俺は思う。
女子用のバットは男子用に比べてかなり軽い。
男子の硬式金属バットは900g以上じゃないといけないが、女子は680gから800gまでかなり広めの重さがある。
800gとなるとかなり女子にしては重いが、かなり高反発のおまけ付きだ。
680gは軽くて振りやすく非力な女の子はほとんどこの重さのバットを使っている。
後、バットには重心がある。
これもかなり重要で主には、
先端に重心があるトップバランス。ヘッドが効きやすい為飛距離を出しやすいが、先に重さがあるせいでヘッドが下がるという弱点も生まれやすい。
真ん中に重心があるミドルバランス。
これはその名の通りで、最も使われて最も振りやすいバットである。
スラッガーからアベレージヒッターまで広く使える。
グリップ側に重心があるのがカウンターバランス。
主にはアベレージヒッターが使うバットと言われている。重心が手元なのでバットが振りやすいとされている。
美咲のバットは84cm、760gのトップバランスだった。
「このバット中、長距離ヒッター用だけどこれでいいのか?ホームランバッター目指してるのか?」
「えっと、長打をもっとたくさん打ちたくて…。」
「バットなんてカウンターバランスを使ったら長打が出ないとかホームランが打てないっての間違いだぞ?しっかりとしたフォームで強いスイングが出来るんだったらどんなバットでも長打打てるから。」
「うーん。そうなの?」
「トップバランスはトップに重心があるから下手に使うとスイング開始から打つまでに自分が想像したよりもヘッドが下に下がる。それ自体は低めを打つ時はベッドは下がるがそれ以上に下がると良くない。」
「まぁ詳しい話はいいとして、美咲はスイングスピードも早くなってるみたいだし、ドアスイングも直ってる。そういう時に挑戦して難しいバットを使うよりも、このバットなんかいいと思う。」
俺が選んだのは83cm、700g、ミドルバランス。
「うーん。少しだけ軽い気がするかな?」
「片手で持っても軽く感じるか?」
「片手だとほんの少し重く感じるかな?」
重さを上げて720gのバットを持たせた。
「さっきよりはちょっとだけ重たさを感じるかな?」
「とりあえずそれで何回かスイングしてみて。」
美咲は結構綺麗になったスイングで何回か素振りを繰り返した。
「これまでのバットより少しだけ重いけど、振りやすくていい感じ!」
「トップバランスが長打を打てると言われてるが、間違いではないけど幻想だよ。自分の体格にあっていて振りやすいバットが1番ヒットも長打も打てる。」
「ならこのバットの…この赤色のバットにする!」
美咲は満足そうにバットを買い行った。
バットはバランスなど考えずに1番振りやすくて打ちやすいやつを選ぶのが1番だ。
「ねぇ。このバット思ったよりも高くてお金足りない…。」
俺はこっそりと店長に対して姉の権限を行使してギリキリ美咲が足りる額にしてもらった。
「龍くんって交渉も上手いんだね!すごく助かったよぉー。私で出来ることあるなら力貸すよ!」
「それなら美咲の野球の腕を俺に見させてくれないか?」
「へ?野球の腕を見せる?」
俺は公園のフード少女美咲の実力を試すことにした。
俺の目が確かなら打撃はそこそこ出来るはずだが…。
「家に練習場があるから今から来てもらうけど、いい?」
「え…家に行くの?夜の野球をするんじゃないんよね?」
「なんだ夜の野球って。正真正銘野球の実力を俺に見せてもらいたい。合格すれば美咲を高校の特待生としてスカウトするぞ。」
「特待生として何?本当に龍くんって何者?」
俺はバットを大切そうに抱えている美咲を誘っておきながら、半分置いて行こうとしていたがなんだかんだ後ろからパーカーと同じように犬みたいに付いてきていた。
「電車に乗るけど、お金はあるのか?」
「ないですっ!」
仕方ないので往復の切符を予め買ってあげて地元に戻ることにした。
「バッティングセンターかと思ったらこんなにおっきな室内練習が!」
「ここが練習場だからとりあえずは運動出来そうな格好用意するから待ってて。」
姉が昔使っていたであろう練習着やらなんやら使えそうなものを持ってきて上げた。
「これ女の子用?結構大きいけど。」
「つべこべ言わずにはよ着替えてこい!」
「はいー!ただいま!」
そういうと持ってきたスポーツできる洋服たちを持って着替えに行った。
3分もするとすぐに戻ってきた。
姉の練習着だからサイズは大きかったが、問題ないだろう。
シューズも靴紐をしっかりと締め直し、脱げたり転けたりしないように時間をかけて準備してあげた。
「よし。今から美咲テストを行う!」
「はいっ!頑張りますっ!」
広島から帰ってきて早々公園の不審者をテストすることになった。
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