元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
好きな物!
「おはよ。わざわざ付き合ってもらって悪ぃな。」
「おはよう。俺も1人で広島ぶらぶらしてもなんか虚しいし。」
俺は完全に今日はフリー。
たまには旅行気分で1日ゆっくりしたらいいと勧められてゆっくりするつもりだったが、地元の西さんに主導権を取られ完全な言いなりになるんだろう。
「聞きたいことがあるんやけど、ワシのことスカウトに来てるっちゅーとったが、訛りとか話し方聞いてると九州からわざわざ来たんよな?」
「中ば強制的にここまで行かされたんやけどね。広島まで行けと言われたらどんな選手おるかと思ったけど、西さんはいいピッチャーやったよ。」
「ほんまか?じゃけど、素行が悪いとかでどっちみちスカウトせんのやろ?」
「どうだろう。俺はスカウトするつもりだけど、素行は良くないのは認めるんやね。別に性格を変えろなんて言うつもりもないし、仲良くしろとも言わないけど、野球人としてチームメイトを認められるならそれでいいと思う。その人達と友人になるかどうかは成り行きじゃないか?」
西さんはふーんという感じでそれについてはなにも答えることは無かった。
分かっているか分かっていないかは分からないがちゃんと話は聞いていたみたいだ。
「ちょっとくさいセリフになるけど、俺は西さんのこと嫌いじゃないよ。選手としてもプレーにこだわりが見えるし、上手いからって理由で偉そうにしてる訳でも無さそうだしね。とにかく俺は友人として上手くやっていけると思うよ。」
「ふん。口説くにしても説得するにしてもそんなんじゃ喜びもするわけないじゃろ。」
俺の言葉はあっさりと切り捨てられたが、聞いてもらっているってだけで少しはマシな気がした。
そういえば、桔梗たちは九州大会準優勝で全国大会が今年は広島でやると言っていた。
中学女子硬式野球全国大会は女子プロ野球かプロ野球の本拠地があるところで基本的には行われる。
それで選ばれたのが広島県である。
俺はこれはチャンスじゃないかと思って、すぐにトーナメント表を見たがプリティーガールズの試合は明日の朝9時からで今日からではなかった。
「うーん。惜しいな。」
「なにが?」
「明日の朝9時から白星高校の特待生の1人が全国大会に来てるんよね。それでもしよかったらその試合を見に行きたいなと思って。」
「明日の9時か。まぁ練習はどっちみち夕方からじゃけ明日は龍に付き合ってやるよ。」
そして俺はバスに乗せられて今どこに行こうとしているのか。
昨日来た道を戻ってるということは市内の方に行ってるのだろう。
「おい。これから行くところについてなんにも言うなよ。」
『えぇ…。一体俺はどこに連れて行かれるんだ。』
30分くらいして着くと、そこそこ人の並んでるオシャレなカフェみたいな所に着いた。
お客さんは女の子はがりと思っていたが、思ったよりも男の人が多い。
というよりカップルまみれなんだがどういう事なのか…。
多分この事について何かを言うと怒られるんだろう。
人前で痴話喧嘩と思われても嫌なのでそのことについては完全無視することにした。
「この店ってカフェ?俺、そういえばこういうオシャレなカフェ来たことないからちょっと緊張するな。」
「そうか?龍もこういうのには弱いんだな。」
いかにも行き慣れるてる感じを出しているが、緊張しているのが俺に伝わってくる。
ここは何も言わずに従っておこう。
どうにか話を合わせて不機嫌にしないようにしよう。
列が進んで最前列までやってきた。
カップル限定!
特製あまーいチーズタルトケーキ。
後ろからは見えなかったが、彼女の目的は絶対にこれだ。
俺はどうしても言いたかったが、ぐっと言葉を飲み込み続けた。
「俺、甘い物好きだから何食べようかな。なんか西さんはオススメとかある?」
「んなことも決められないのかよ。じゃったら、店内に入ったらワシが決めてやるわ。」
俺に悪態をつきながらもとても嬉しそうに話している姿をみると、同級生の女の子っていう感じだ。
私服は体のラインがよく分かるTシャツにジージャンを羽織って、ズボンもタイトなジーンズでその鍛えられて無駄な肉のない体がよく分かる。
頭には黒のサングラスをかけて、ポーチを持っていたが結構可愛らしいものを使っている。
顔は性格の感じのようにそこまでキツい顔はしてない。
童顔ではないが、幼さも少し残っており目元はメイクでややつり目に見えるが美人な部類であろう。
それよりも足の長さと引き締まった体でとても凛々しく見えた。
「スカウトしに来てんのはわかるけど、あんまり人の身体をジロジロ見るんじゃねぇ。」
思わずその身体に見惚れていたが、流石に視線に気づかれてしまい少しだけ恥ずかしそうにしていた。
「おふたり様ご案内しまーす!」
俺たちは窓際の1番人目につかなそうなところに案内された。
これなら少し怒られても最小限の被害で済むだろう。
「えっと、このチーズタルトを2つください。」
流石に店員さんに頼む時は普通に高圧的な態度でもないし、大人しい。
周りから見ればクールな感じの女性に見えるだろうが、口を開くと暴言を吐かれるのではないかと心配になる。
「チーズタルトかぁ。どんな味なんだろうか?あんまり食べた記憶とかないからわかんね。」
「そりゃ美味いに決まっとるやろうが。」
少しして店員さんがやってきた。
「あの…大変申し訳ないんですが、チーズタルトがあと1つになってしまいまして…。」
やばい!
すぐに対処にしないとだめだと思っていたが、そんなことはなかった。
「そうですか。わかりました。」
ちょっとだけ残念そうな顔をしているが、彼女にこれを譲って俺はなにか別のものを頼もう。
「それじゃ、この生チョコケーキを貰ってもいいですか?」
「はい!生チョコケーキですね!すぐお持ち致します。」
彼女から何か言われる前に先に俺は注文した。
変に気を使わせても仕方ないと思ったのだ。
その後も野球の話しやら、福岡のことについてやら、白星高校についてなど話題は絶えなかった。
それまでとても美味しそうにチーズタルトを頬張っていたが、残り二口、三口くらいで手を止めてコーヒーを飲んでいた。
「お、おい。」
「ん?なに?」
「龍の分1口やるよ…。チーズタルト気を使ってワシにくれたんじゃろ?」
俺は急にデレた?彼女にドキッとした。
貰おうと手を伸ばしたが、向こうからタルトにフォークを突き刺して慣れない様子で俺の方に差し出してきた。
向こうも緊張しているのであろう。
チーズタルトを軽く刺せばいいものをそこそこの勢いで刺し、勢いそのままで俺の方に差し出してきた。
「あ、ありがとう。」
そういうと一口だけ貰おうと口を開けた。
「ばーか。お前にやるケーキなんてないんじゃ!」
そういうと自分でケーキを食べてしまった。
お約束といえばお約束なんだろうが、不慣れな感じであそこまでやって来てお約束されるとは思っていなかった。
けど、彼女は自分が受けてと思った恩はしっかりと返してきた。
人生初あーんかと思ったが、ひと口残っていたお皿を俺の方に渡してきた。
「食べていいん?あーんは?」
少し意地悪っぽく聞いてみたが、鼻で笑われてなにも返事してくれなかったのでそのままチーズタルトを食べた。
これまであんまり食べたことないチーズタルトだったが、これならまた食べたいなと思いながらお会計を済ませて店を出た。
「美味いもんも食べたし、呉に戻ってワシの趣味にちょいと付き合え。」
「わかった。たまには野球から離れて他のこともしたいしね。」
そういうと直ぐにバスに乗って呉に戻ることにした。
バス停から歩いてすぐの所に西さんの家はあった。
家の前で待ってろと命令されたので、番犬のように日陰に隠れて暑さをしのいでいた。
「うーし。釣りに行くぞ!」
「釣り?」
「龍…。もしかして釣りもしたことないとか言うなよ?あんなに面白くて生産性のある趣味なんてないぞ?」
俺は昨日の最初から比べると西さんの口調が少しずつ和らいでいるような気がする。
警戒したり、あんまり好意を持っていない相手には関西弁やら広島弁が混ざって攻撃的口調になるのか?
近くの防波堤のある綺麗な海に釣りをしに行くことになった。
その途中で餌を買っていって、海に着くと釣りの道具を開いて仕掛けやらなんやら俺の分までささっと終わらせてしまった。
「手際いいね。俺の分までわざわざありがとう。」
「素人にやらせたら何時まで経っても終わらん。じゃワシがした方が効率的と思うやろ?」
そういうと俺に餌までつけてくれた竿を俺に渡して、リールの使い方、投げ方を教えてくれた。
「運動神経いいだけあるな。やっぱり要領がいいんやろな。」
初めてにしては竿の使い方も上手いらしい。
投げては戻して投げて戻しての繰り返した。
「初めてやるけど案外釣れないもんなんやね。」
「そんなボコスカ連れてたら漁師なんて要らねぇしな。まぁ気長に待つだけ。」
俺はとりあえず彼女の隣でゆっくり釣りをしていた。
特に話すこともないし、こうやって竿の先についている鈴を眺めたり、海に向かって真っ直ぐ伸びる糸を眺めたり。
1匹は釣るぞと思ってたが、近くの日陰になるところで西さんは気持ちよさそうに昼寝してた。
釣りというのは釣るだけじゃなく寝たい時に寝ることも出来るんだと思いながらも、俺はなんだかんだ釣りに没頭していた。
少しすると何事も無かったように起きてきて、そのまま釣りを始めた。
すると、それまでの沈黙が嘘のように釣れ初めて2時間位でに10匹くらいのキスを釣り上げた。
「お前、キス好きか?」
「特に嫌いな食べ物ないから大丈夫。」
「ほいじゃ、今から練習に行くから夜そんまま家にきんさいな。 キス天ぷらでも作るわ。」
「お邪魔してもいいん?」
「どっちみちスカウトするなら話せんと行けん人もおるじゃろ。」
なるほど。
スカウトの話をご飯ついでにさせるつもりか。
実力は大丈夫だが、周りと上手くやれるかだけが心配だ。
釣りをしている間、彼女は一切声を荒らげたり、文句を言うことは無かった。
これまでの印象とは全く別で明鏡止水の境地のようなピタリと動かずに話したりもしない。
「ねぇ、釣りの時は全然怒りっぽくないんやね。」
俺は怒られそうな質問をしてみた。
「そう思われてもまぁ仕方ねぇよな。いつもはあんだけ短気なのは本人がよく理解しとるわ。周りには悪いことをしてるって自覚もあるし。」
本人はちゃんと理解していた。
だが、なにか理由があってこのような性格になってしまったのだろう。
「そっか。」
俺はそれ以上何も言わなかった。
自分で言っておいてそれ以上掘り下げることもしなかった。
「あ、こっから走っていくから急がねぇと普通に練習間に合わん。」
2人は釣りを終えて急いで釣ったキスを持ち帰り、ユニホームに着替えて走って練習場まで向かった。
今日は特に彼女のプレーを見るところもなかったので、監督さんと話した結果1年生達の指導をすることになった。
基本的なことを教えた。
キャッチボールの重要性と上半身の使いかたを体に覚えさせるやり方、体重移動を覚えるキャッチボールのやり方などちゃんと意識ながらやればそれだけ上手くなることを伝えた。
次は本当に基本的な打撃について。
中学校になって変化球をはじめて体験する選手がほとんどだ。
実践しながら、変化球の打ち方を教えてあげた。
あくまでも俺の方法なので、みんなの役に立つか分からないが待ち方とか見極め方は何となく頭には入れてもらうことは出来たみたいだ。
「こんなところかな。素振りはバットを振りまくればいいって訳じゃないからね。ちゃんと自分の理想のスイングが出来るようになる為に素振りをするんだよ。」
「「「はーい!ありがとうございました!」」」
元気よく挨拶して練習の片付けをしに行った。
彼女達の中からいい選手が出てくることを楽しみにするのであった。
練習が終わり、帰るだけだったが家までももちろん走って帰宅することになった。
そして、彼女の性格のルーツが分かることになった。
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