元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

テスト&テスト!





1週間後の午前9時。
夏休みに入って一番最初の土日だった。




桔梗達はプリティーガールズは今年の九州大会の会場である長崎県へ遠征に行った。
桔梗達は強豪の沖縄代表と試合をするのは準決勝らしいので、順当に行ってそこまで勝ち抜ければ全国大会に出られるだろう。






俺は城南中央中学校に来ていた。




監督にもしっかりと挨拶をして、白星高校からも学校に連絡を入れてもらったので簡単に学校に入れてもらうことが出来た。






俺はスカウトに行く時は動きやすい格好と、キャッチャーミット、グラブ、バット、スパイク等の一式は持っていってる。




あとは双眼鏡とストップウォッチ、スピードガン、あと1番重要な俺のこれまで作り上げたボロボロの資料たち。






後輩が引退する先輩を送り出すという送迎試合というやつだ。


リクリエーション的な感じもあるが、流石に3年が負けるとちょっと情けなくはある。
まぁ忖度もあるだろうから、3年生達は負けないとは思うが。






「おはようございます、東奈さん。送迎試合で申し訳ないですが、いい試合をできるように頑張りますので。」




「おはようございます、こちらこそ呼んでいただきありがとうございます。そうさせてもらいますね。試合頑張ってください。」






同級生なのにあれだけかしこまられると俺も思わず敬語になってしまう。






「こちら、今日のメンバー表になってます。」




「わざわざありがとうございます。後、聞きたいことがあるんですけど、このチームに黒髪の少し髪が長い大人しい子居ませんか?」






「あぁ。月成さんのことですね。今日3年生チームで8番ショートを守ってますよ。」






ショートか。
スタメンではないってことはどうだろうか?
男子に混ざってショートのスタメンを張るというのは簡単なことではないので、仕方ないかなと思った。




それにしてもあの何とも言えない雰囲気。




暗いと言われればそれまでだが、それだけじゃないと俺の勘がそう俺に告げている。






それにしても俺が何も感じられない人か…。




俺はスカウトとして何となく選手を見る目が少しずつ肥えてきた気がする。
試合前の練習と試合を1試合まるまる見れば、誤差はあるにしろ大体は俺の想定の範囲内には収まっていると思う。






円城寺緒花えんじょうじおはな




打撃能力


長打力 70〜80
バットコントロール 40
選球眼 20
直球対応能力 75〜80
変化球対応能力 20〜25
バント技術 90


打撃フォーム 
スタンダード。
バットを構える位置が高く、バットも真っ直ぐ立ててピタリと固定されている。
打つ瞬間に高く足を上げて勢いよく踏み込みスイングする。
こういうフォームは変化球を打つにはかなりコツがいるが、フォーム自体は綺麗だ。






守備能力


守備範囲 30〜35
打球反応 40
肩の強さ 65〜70
送球コントロール 30〜40
捕球から投げるまでの速さ 20
バント処理 不明
守備判断能力 30
積極的にカバーをしているか 90




走塁能力


足の速さ 20
トップスピードまでの時間 30
盗塁能力 不明
ベースランニング 15
走塁判断能力 50
打ってから走るまでの早さ 10
スライディング 80〜90






俺が思ったよりもかなり尖った選手であり、変わった選手だ。




ざっくりと総称すれば筋肉系金髪美人お嬢様。
おしとやかな感じなのにプレースタイルはパワー系そのものだ。




足が遅くて、パワーがあるぽっちゃり系の女性選手に多いのだが、見た目は細そうだがあのユニホームの下は凄い筋肉が待ち構えているんだろう。




ポジションもあんまり合ってないと思う。
これだけパワーがあるなら5番とかが合っているのだろうが、性格がチームの勝利優先なんだろうか?






ホームランを打つ素質があるのにとてつもなくバントが上手いのもかなり変わった選手だなというのを感じさせられる。






もう1人の月成さんは逆にあまりにも普通過ぎた。




どのプレーもある程度こなせてるが、どこが特徴かと言われたらどこも特徴はない。




全てが40点を切ってくるくらいか?
ちょこちょこ50点近いところもあるが、ほぼ35から40点くらい。






一つだけ特徴があるとしたらショート、サード、ライトの3つのポジションを無難にこなしていたが守備がすごく上手い訳では無い。






「うーん。円城寺さんはスラッガーの素質あるけど、あんだけ足が遅いとそれはそれで大変だろうな。 月成さんは思ったよりもまとまっているけど、どれもこれもちょっと能力が足りてないな。バランス的には江波さんよりは上手いと思うけど。」






俺は1人で資料に目を落としてペンをくるくると回しながら、独り言をブツブツと言っていた。








「お疲れ様です。試合どうでしたか?ちゃんと評価してもらえましたか?」






「お疲れ様でした。評価はちゃんと終わりました。円城寺さんは…。」






俺がメモしたことを本人に伝えた。
もちろんウィークポイントの足が遅いことも、それによって守備が少しだけ不安があることも。








「なるほど。間違っていないと思います。あたしは小さい頃身体が弱くて、無理言って野球を始めても最初はバッティングとかしかやらせてもらえなかったんです。走らなかったせいか足が速くならないんです。」






俺はそういう事情があったのかと納得した。




ある程度まではフォームとかをしっかりすれば速くなるだろうが、短距離などの瞬発系の足の速さは結構才能がものをいう。


彼女は走れる環境じゃなかったことに加えて短距離の才能もあまりなかったんだろう。




だが、あのスイングスピードはかなりいい物を持っている。
セカンドは無理だが、サードとファーストなら十分にスタメンに入れる可能性はある。






「円城寺さん。よかったら白星高校に特待生として来てもらえませんか?そのパワーは素晴らしいパワーヒッターになる可能性を秘めています。」






「ありがとうございます。即答で返事は出来ませんが、前向きに検討させていただきます。」






俺は思ったよりも好印象なのにびっくりした。
両親ももしかしてほとんど女子の白星高校の方が安心するのだろうか?
少しだけ箱入り娘な感じもするし。






「あたしをテストしたということは、あたしが東奈さんをテストしてもいいですよね?コーチとして相応しいか能力を見せてもらいたいのです。投手ならあたしがバッターボックスで打ちます。野手ならあたしのチームメイトの球を打ってもらいます。」








なるほどな。
俺がテストしたんだから、俺がテストされてもおかしくは無い。






「俺はどっちでもいいですよ。円城寺さんと戦うって意味では投手でテストしてもらっていいですか?」






「はい。それでは沢山勝負したいので出来れば10打席くらい勝負して貰えますか?」






10打席は多くないか?と思いながらも折角スカウトを前向きに考えてくれている人の提案を断ることは出来ない。






「はい。わかりました。それでは10打席勝負しましょうか。途中に少しだけ休憩入れても大丈夫ですか?」






「大丈夫です。半分終わったら少し休憩にしましょう。」






俺は円城寺さんに逆にテストされることになってしまった。




それくらいなら問題ないかなと思い、バックの中から今日使うであろう普通のグラブとスパイクを取り出してアップをしようとした。








「あ、あの!ボクもテストしてください!」






月成さんが俺の前に現れて急に大きな声でテストをして欲しいと言ってきた。






「月成さん!いきなりどうしたんです?今からあたしが彼をテストするんですが…。」






「ならそれに混ぜてくれませんか?ボクが円城寺はんよりももし打てたら、白星高校の野球部に入れてください!特待じゃなくて推薦でもいいので!!」






見た目の大人しい感じとはうってかわって結構大胆な行動を起こしてきた。
しかも、一人称ボクっていう女の子いるんだなと少しだけ感動した。




どうでもいい話だが、蓮司がボクっ子なんて居ないって前に言い張っていたが俺はいると思うというどうでもいい議論をしたことがある。






『蓮司、いたぞ。』




俺は蓮司の悔しがる姿が目に浮かんで少しだけ笑ってしまった。








「東奈さん、どうしましょう…。」






「自分は構わないですよ。月成さんがそこまで自分をアピールしてくるならテストしましょう。それよりも円城寺と月成さんの勝負になりますがどうしますか?」






「10打席でヒットを多く打った方にしましょう。月成さんもそれでいいですよね?」








「うん。大丈夫。」








テストをされるはずいつの間にか月成さんの乱入によって勝負することになってしまった。









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