元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

本当の姿!







「俺は七瀬さんの弱点を知ってるよ。」






俺のその言葉に唖然としていた七瀬さんがキリッとした顔で俺の事を少し睨んできた。




勝負すると決めた俺はそんな睨みなんかに屈したりはしない。






「真似した俺のスイングを見て、自分の弱点が分からなかった?大きな弱点ではないけど俺にはすぐに分かった。」






「なに?私の弱点って。」




少し焦らした言い方をする俺に対して、少しだけ苛立ったような口調になる七瀬さん。






「教えてあげてもいいけど、七瀬さんがさっきから感じてた違和感の正体が弱点だよ。」






「うーん…。」






そういうとまた少し考え込んでしまった。
時間はもう8時を過ぎる頃で、バーベキューもそろそろ終わりの雰囲気だった。






「今日はもう遅いから、俺は帰るよ。」






「な!ちょっと待って!帰るなら弱点を教えて帰りなさいよ!」






「なんでも聞けば教えてあげる訳では無いよ。ちゃんと考えてみて。それでも分からなくて、どうしても知りたいなら明日も俺はここに来るからその時に教えてあげる。」






ちょっと煽りすぎたかなと思ったが、これくらいしっかりと意識させないと勝負にならないかと思った。






「………。」






「それじゃ、今日はこの辺で帰るわ!七瀬さん、玉城さん、江波さんまた明日ね。お疲れ様。」






「はい。お疲れ様でした!」




江波さんだけが俺に元気よくお別れを言って送り出してくれた。








「なによ!あの態度は!少し物真似が上手いからって調子に乗って!」






歩き出して少し経った後に、俺に聞こえるような大きな声で俺に怒りをぶつけていた。








『女の子ってやっぱり怖いよな…。』






俺は少しだけビビりながら家に帰宅することになってしまった。








「東奈くんか。桔梗は幼なじみってだけしか教えてくれなかったけど、謎もあって面白いことが見れそうだし私は好きだな。」






そして、次の日。




俺は昨日のように朝早くに用意をして自転車で合同練習に向かった。
向かっている途中、改めて見るものないよなと思いながらもペダルを漕いだ。






今日は特に見るものは無いと思いながらも、江波さんの献身的なプレーをまた目の当たりにしてこんな気の抜けたことじゃダメだと気合いを入れ直した。






気合いを入れ直した俺は、昨日のように色々なところのチームを見に行ったが、やはり気になる選手はいなかった。








「みなさんお疲れ様!今回の経験を生かして今度の夏の全国大会予選を正々堂々と戦いましょう!」








今日は日曜日ということもあり、昨日よりは早く練習が終わって、玉城監督が2日間の合同練習の終わりの宣言をした。






俺は来るかどうか分からなかったが、昨日別れたあの場所で待っていることにした。






………。








どれくらい経っただろう。
携帯を開いて時間を見て見た。






「まだ15分しか経ってないやん…。」








「あ、あの!こんにちは!」






俺の目の前に現れたのは七瀬さんじゃなく、江波さんだった。


俺は七瀬さんじゃないことにがっかりする訳でもなく、むしろ江波さんには興味があったので普通ににっこりと返事をすることにした。






「こんにちは。そういえば、江波さんと昨日全然話せなかったから少しだけ話したかったんだよね。」






「えへへ。ほんとに?私と話したいなんて変わってる。」






江波夏実。




打撃能力


長打力30
バットコントロール15
選球眼20〜25くらい?
直球対応能力60
変化球対応能力ほぼ0
バント技術50〜55
打撃フォーム 


ややオープンスタンスで、バットをかなり垂直位まで寝かしている。 癖なのかタイミングを取るのがかなり早く、早いストレートにはかなり対応出来ているが、変化球はバットに当たる気がしなかった。


守備能力


守備範囲 30
打球反応 30
肩の強さ 20
送球コントロール 60〜65
捕球から投げるまでの速さ 60
バント処理 外野手の為不明
守備判断能力 80
積極的にカバーをしているか 120




走塁能力


足の速さ 35
トップスピードまでの時間 50
盗塁能力 たぶん50
ベースランニング 55
走塁判断能力 70
打ってから走るまでの早さ 60
スライディング 40






投手能力


最高球速100キロ
コントロール
平均球速96キロ
変化球カーブ、チェンジアップ、スライダー?
投球フォーム オーバースローで結構体を大きく使って投げている。
スタミナ 不明
フィールディング 不明
クイック 不明
牽制の上手 不明点






-東奈龍メモ-


献身的なプレーが印象的。


守備能力は平均的だと思う。
詳細な声出しと指示出し、カバーともにこれまで出会ってきた選手の中でも前例がないくらいに素晴らしい。


打撃能力は案外パワーはあり、速いストレートにも負けていなかったが、とにかく変化球を打つのが絶望的。2日打撃を見たが、変化球がバットに当たったのが1回しか確認できなかった。


走塁能力も目立ちはしなかったが、思ったよりは悪くない。






「ちょっと聞くの怖いけど…。東奈くんが昨日から練習を見てたよね?私、視野だけは凄く広いからメモしながら私の事とか皐月ちゃんのこと見てたの気づいてたんだ。」






やっぱり気づいていた。
何となくそんな気はしていたが、外野からホームの方を見ているんだから気づいてもおかしくない。






「それで聞きたいことって?」








「うん…。」






江波さんは元々大人しめの性格なんだろう。
なにか聞きづらいことを聞こうとしているか、かなり歯切れが悪い。




『多分、野球の実力のことだろう。だが、聞かれ方によってはちゃんと伝えないといけないが、どうしようか…。』






「だめだ。やっぱり聞きづらい…。」








こういう時に俺が蓮司だったらなにかいい言葉も出てくるんだろうが、こういう時どうしたらいいか蓮司教えてもらおうと心に強く誓った。








「うーん。もしかして野球の実力のこと?」






「分かってるよね…。それでね、私ものすごく球が遅いは知ってるよね?それなのに投手なんかたまにやってるけど、到底私には無理…。皐月ちゃんはどうしても投手したくないみたいだし…。」






「盗み聞きしたかった訳じゃないけど…監督から七瀬さんをピッチャーにしたらレギュラーにするって話をしてたの聞こえちゃったんだけど、江波さんはどうするん?」






俺は彼女の野球の実力のことには答えずに、昨日のあの話について聞いてみた。


逃げたと言われれば逃げたんだろうが、この話も聞いておかないといけないと思ったのだ。






「あ、監督のあの話聞かれてたんだ…。」




少しだけ下を俯いて、少しだけ悲しそうな雰囲気を出していた。






「私は、皐月ちゃんにピッチャーは勧めないよ。皐月ちゃんがピッチャーになって私がレギュラーを取ったとしても、誰も喜べないと思うんだ。」




これが彼女の素直な答えなのだろう。




「昨日はレギュラーになれるならって思っちゃったけど、やりたくないピッチャーをやらせて、私は元々レギュラーだった人の代わりに試合に出られる。そんなんじゃ、私が好きな野球を裏切っちゃう気がして…。」






江波さんの目からは涙が溢れていた。
下を俯いたまま、両手はユニホームのズボンをギュッと握っていた。






その姿を見て俺は自分の中で自問自答した。








スタートラインに立てていない選手を冷たい言葉で切り捨てて、才能があるものをだけを優しい言葉で助ける。








これまで俺のスカウトはまさにこれなんじゃないか?








桔梗や玉城さんのように才能のあるものは助けて、目の前の誰よりも野球の一つ一つを大切にしている江波さんは才能がないから切り捨てるのか?






そもそも俺はスカウトとして白星高校に行くわけじゃない。
甲子園を目指す女の子達を限りなくサポートし、選手たちを育てるのが俺の与えられた役目。








「俺はスカウトじゃない。俺はコーチになるんだ。」








俺は自分が本当にやるべきことを再確認した。








「え…?東奈くん。どうしたの?」






俺は急に自分を鼓舞するように言った言葉だったが、江波さんにはちんぷんかんぷんだったんだろう。


泣いている女の子に逆に心配されてしまった。






「江波さんは野球が好きなのはよく伝わった。けど、好きだけで終わってもいい?」






「え?好きだけじゃダメってこと?」






「そういう事じゃないんだ。野球を愛するってことは野球の全てを追求しないといけないんだよ。 難しい言い方ばっかりで分かりづらいと思うけど、簡単に言うと、野球をやるんだったら上手くならないといけない。」






「野球は上手くならないとだめ?下手くそじゃ野球はやる資格はないの…?」






「違う!野球も自分も友人も裏切りたくなかったら、どんなにキツくても辞めたくなっても努力してでも野球を上手くなるしかない! 江波さんにはその覚悟がある?」






「私は、覚悟が…。」




さっきまで流していた涙を必死に堪えている。
その眼差しはじっと俺の事を捉え続けていた。












俺は過去の自分のことを思い出していた。


姉の為に、自分の為に、チームメイトの為に。
今考えるとよく体がぶっ壊れなかったなと思うくらい死に物狂いで練習し続けた。




今でも練習は続けているが、なんの為か分からなくなっている。




だが、彼女には野球も自分も友人も裏切りたくないという強い眼差しが俺の直感に訴えかけてくる。






なら俺がしてあげれることはただ一つしかない。






「江波さん。白星高校に来ないか? 君が野球を裏切らないように俺が野球を教えてあげる。」






彼女はなんのことか分からずに少しぽかんとしていた。


俺がスカウトということは知ってるんだろうか?




知らなくても話して白星高校に来てもらおう。




今は確かに江波さんは野球は上手くないが、俺がコーチなんだ。




江波さん1人を上手く出来ないでなにがコーチなのか。








「分かりづらかったかな?俺は白星高校のなんだ。江波さん、俺が野球を上手くしてあげる。だから、俺と一緒に白星高校に来てくれないかな?」






江波さんは今の状況を整理しているのだろう。
考え終わったのか、顔をゆっくりと上げてこちらをじっとみてきた。




少し涙を目に溜めながらも満面の笑みで答えた。








「はい!よろしくお願いします!東奈コーチ!」










俺も安堵と同時に絶対に裏切れないという責任感が生まれたというのを実感した。








「あぁ。一緒に頑張ろう!改めてよろしく。」






俺達はこれから本当の友人として、コーチと選手として本当に固い握手を交わした。






この2人はこの固い握手よりも固い絆が生まれることをこの時はまだ知る由もなかった。









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