元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
突然の訪問!
ゴールデンウィーク3日目の5月3日。
春休みからゴールデンウィークの1ヶ月間スカウトを頑張ってきたが成果はゼロ。
思ったよりもスカウト活動はやりやすくなっていた。
男子中学生が女子中学生をスカウトしているという噂が監督から監督へと伝わっていき、今では監督さんに声をかけると君があの噂の子か!と言われるまでになっていた。
だからと言ってスカウトが成功するわけではなかった。
現実は厳しく、俺のお眼鏡にかなう選手にスカウトするがほとんど興味を示して貰えない。
思ったよりもみんな高校が決まってる子も結構多かった。
それよりも俺がスカウトしたいと思う選手が少なかったのだ。
自分が自転車で行ける距離のチームはほとんど見に行った。
後は結構遠くまで遠征しないといけなくなった。後は地区のチームを見に行かないといけない。
福岡地区、北九州地区、久留米地区、筑豊地区、筑後地区の5地区に分かれていた。
自分が回ったのは福岡地区。
福岡地区のチームで回っていないのは、全国大会に行けそうな強豪チームだけだった。
そこのチームの中には桔梗が在籍している博多プリティーガールズも入っていた。
桔梗のチームに行くの最後にしようと決めていた。
まだコーチになることは言っていないのに、急にチームに現れたらびっくりされるだろうし、何を言われるかも分からない。
だが、桔梗のチームには早く行きたいと思う気持ちもあった。
2人見たい選手がおり、どちらも内野手でデータを見る限り相当いい選手だろう。
データだけを見て、そこだけでかなり気になるといった選手は少ないので一目だけでもプレーを見て見たかった。
家から近くのグランドで練習してるので、見に行けばいいんだがどうしても桔梗のことが気になったのであと回しにすることにした。
ピンポーン。
「祝日の朝の8時から誰だ。」
「龍。おはよ。」
さっき自分の頭の中で話題に出ていた桔梗がこの前と同じジャージ姿で家にやってきた。
「桔梗ちゃん?こんな朝早くからどうかしたの?」
「今日昼からどうしても負けたくない試合があるの。だから、ちょっとこの投手のフォームを真似して私に打撃練習させて。」
桔梗からのこの手のお願いは小学生の頃に1、2回あったかな?というくらいで、わざわざ俺に頼みに来るということは結構切羽詰ってるんだろう。
「桔梗ちゃんあんまりお願いとかしてこないし俺で力になれるなら力になるよ。」
「ありがとう。ちょっとまっててね。」
ちょっとまっててね?
そう言い残すと桔梗は一旦玄関から出てどこかに行ってしまった。
「おはようございます!」
勢いよく玄関が開いたと思ったら見たことの無い女の子が家に侵入してきた。
「お、おはようございます。」
俺は流石に面食らってしまった。
少ししていたずらっ子っぽく後ろから桔梗がゆっくりと顔を出してきた。
「驚かせてごめんなさい!桔梗がやれっていうから仕方なく…。」
少しだけモジモジしながら俺に謝ってきた。
女の子らしい姿に少しだけ可愛いなと思いながら見てると、その心の中が桔梗には透けて見えたのかじっとこっちを見られていた。
「あ、桔梗と一緒にここにいるってことは一緒のチームメイトってことでいいんかな?」
「はい!東奈くんと同い年の玉城真由美です。今日はよろしくお願いします!」
「玉城さんね。知ってると思うけど名前は東奈龍。こちらこそよろしく!」
挨拶が終わると玉城さんの方から握手を求めてきた。
俺はスポーツマンらしいなと思いながらがっちりと握手をした。
彼女はプリティーガールズの俺が見に行きたい内野手の1人だった。
ここで恩を売っておけば、いつもの交渉材料のないスカウトよりもかなりマシだろうと思っていた。
「昼から試合よね?それならさっさと練習場に行こうか。」
とりあえず俺達は練習場に移動して、相手の投手のことを聞くことにした。
「この投手なんだけど…。」
藤里依紗。
俺はこの投手のことを知っていた。
だが、知らないフリをしながら相手の特徴を聞いていく。
2人のこの投手の攻略法と俺のこの投手の攻略法の意見は結構分かれていた。
2人の言ってる攻略法でも別に悪くは無かったから、俺はその意見を採用することにした。
この投手は俺がこの前スカウトした許斐さんのチームのエースピッチャーだった。
あの試合は6回コールドで試合が終わったが、その6回を無失点に抑えていたのが藤さんだった。
俺はバレないようにこの前とったデータを見返した。
藤里依紗。
投手能力
右投げ左打ち
最高球速 111キロ
コントロール 74
平均球速 104キロ
変化球 スライダー、シンカー
投球フォーム 
基本的にはサイドスロー。たまにスリークォーター気味に投げてくる。右打者に対してはかなりのクロスファイアーで投げてくる。
スタミナ 50から60
フィールディング 40
クイック 75
牽制の上手さ 30
女子中学生では結構珍しいプレートを踏む位置を右端にしたり、左端にしたりして毎回毎回打者から見てリリースポイントが変わってくる投手である。
もうひとつの特徴が、右打者に対してかなりインステップしてクロスファイアーで投げてくることだ。
このクロスファイアーは打つ練習をしっかりしていないと、かなり打つのが難しい。
この投球テクニックを使って藤さんは右打者をほぼ完璧に今のところ封じている。
玉城さんと桔梗はどちらも右打者で、玉城さんが3番で桔梗が4番を打っているみたいだ。
プリティーガールズの1.2.5番が左打者でチャンスで回ってきて2人がチャンスを潰す訳にはいかないという感じみたいだ。
俺はバッターのフォームを真似するのが尋常じゃないくらい上手いと自分でも思っている。
投手の方は打者ほどじゃないにしろ真似はできる。ただ、身長とかが違いすぎてそれだけはどうにもならない。
サイドスローの変則投手という投げ方はまだ真似できるが、球質を真似できるかは怪しい。
俺は桔梗達の撮った映像を見るフリをしながら、頭の中で投げ方のイメージを膨らませていった。
セットポジションからの投球で足を一旦少し高く上げ、もう一度下に軽く落として、投げる直前にもう一度軽く高く足を上げる。
足を下ろす時に左足はほぼ真っ直ぐに伸ばし、普通ならここからホームベースに向かって真っ直ぐ足を下ろして投げるが、ホームベースから見て真っ直ぐなる位置から更に30センチくらい3塁側に足を下ろし、右バッターに一瞬背番号が見えるくらい体を捻ってからほぼ90度くらいの腕の振りで投げる。
「んー。こんな感じか?」
2人は素振りをしたり、軽いストレッチをして打撃練習の用意をしていた。
俺はいつも使ってるビデオカメラ使って何球か投げた後にフォームが似ているかどうかを確認した。
70点くらいだが、大体の所は同じなのでもうそこら辺に文句を言われても逆ギレするしかないと心の中で思った。
球のスピードは問題なかった。
問題あるとしたらサイドスローからのシンカーの変化がイマイチというこの練習で最も致命傷だった。
「うーん。あんまりシンカーのキレがないね。」
「だよなぁ。投げてる俺でもあんまり手応えないから多分いい球行ってないんだろうね。」
サイドスローから2人に対してそこそこの球数を投げた。
ストレートは完璧でスライダーもよかったが、シンカーだけがよくなかった。
最初は2人ともストレートとスライダーに苦戦していたが、流石県内屈指の強豪チームのクリーンナップ。
すぐに修正して、ストレートは簡単に弾き返してきた。それから少しするとスライダーも弾き返した。
シンカーを投げたが、初球からこんなに簡単に打つかと思うくらい簡単に打ってきた。
「サイドスローはあれだけど、少し投げ方変えればシンカー少しはまともになると思うけどどう?」
「本当!?ならそうしてくれると嬉しいなっ。」
俺はサイドスローからスリークォーターに投げ方を変えて、シンカーを投げてあげた。
右投手のクロスファイアーは右バッターの背中からボールが来て、外に逃げていくのがスライダー。
背中から外側に逃げると思わせて、内にくい込んでくるのがシンカー。
2人は藤さんが右バッターにシンカーを投げることがバレていてもお構い無しに投げてくるシンカーを叩きたいらしい。
俺の見解は2人ともシンカー狙いもいいが、ストレートを3番の玉城さんが狙い撃って、ストレート狙いを相手にチラつかせ4番の桔梗がシンカーを一撃で仕留めるというのが出来れば、2打席目以降は楽なると思うけどそれは試合をする本人たちに任せよう。
なんだかんだ2人に対して1時間くらい投げ、時間ももう10時前になっていた。
「そろそろ終わろうか。汗流していきたかったら1階と2階にシャワー室と風呂があるからササッと汗流して試合に行けばいいよ。」
俺は2人を家の中に案内して、俺もかなり球数を投げたのでクールダウンをゆっくりと部屋のリビングでしていた。
「あ、あの!ドライヤー貸して貰えたら嬉しいけど…。」
玉城さんはほんとに汗だけを軽く流したのだろう。
結構早く風呂から上がってきた。
「えっとね。はい、これ。」
俺はドライヤーを手渡し、目の前で短めの髪を乾かしていた。
あんまりジロジロ見るのも印象が悪いと思ったので、彼女に背を向けてクールダウンをそのまま続けた。
結構早くドライヤーが終わり、少し髪の毛が濡れていたが試合会場はここから自転車で20分くらいのところなので、風に当たっていたら勝手に乾くだろう。
「東奈くん、いきなり押しかけて練習に付き合ってくれてありがとう。 決勝戦勝てるように頑張ってくるよ!」
「桔梗ちゃんの珍しいお願いだったからね。手伝ったついで試合に勝てるか見に行くよ。」
「うんっ!頑張る!」
二人で話していたら、かなり遅く桔梗が風呂から上がってきた。
姉の使っているシャンプーを使ってみたかったらしく、普通に風呂を楽しんでいたらしい。
「それじゃ、龍。頑張ってくるね。」
2人は決勝戦へ向かっていった。
俺もシャワーを浴び、桔梗達のいるプリティーガールズの試合をなんの不自然もなく観戦することに成功した。
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