究極の魔女はダンジョン系セラピスト

流川おるたな

マリムの出迎え

「......................」 

 マリムの姿を見たカミュは暫く言葉が出て来なかった。

 相談に行った時のマリムの言動の印象からして、彼女がこの場に居ることが信じられなかったからである。

「君!人がわざわざ出向いて訊いてるのよ。早く答えなさい!」

「あ、すみません!すみません!泊まる場所は決まって無いです!というかお金も無いのでどこかで野宿するつもりでした!」

 マリムが怖いのか取り乱して答える。

 「はーっ」と溜息をついてマリムが言う。

「君を見てると昔の私を思い出してしまうのよね...仕方無いわ。セラピストとしてで無く、一人の人間として話を聞いてあげるから取り敢えず私の家に来なさい」

 いつの間にか涙を流していたカミュが泣き笑いする。

「ほ、ほ、本当に良いんですか?」

「究極の魔女に二言はないわ。それと、男が簡単に涙を流してはダメよ。さあ私の後ろに乗るといいわ」

 マリムはそう言ってカミュの目の前に後ろ向きでスッと移動する。

 カミュは箒の柄の隙間にまたがり、マリムの腰に掴まった。

「しっかりと掴まるのよ」

「はい!」

 箒にまたがった二人の身体は地面から20メートルほど浮き上がり、「ビュウッ!」と音を立てて家に向かって飛んで行った。

 家に着いてマリムが玄関のドアを開けると、黒猫のレコが走って来て出迎える。

「無事に少年を連れて来れたみたいだね。良かった良かった」

 レコは、カミュがダンジョン係のティルミから説明を受けている間に、家へ帰りマリムに状況を報告していたのだった。

「レコ、少年の着替えとお風呂の準備はできてるの?」

「もちろん!バッチリ準備してあるよ」

 レコは自信満々に言った。

「君、そのなりを見る限り何日も風呂に入って無いんでしょ?この猫が案内するから先に風呂に入って身体を綺麗にすると良いわ」

「あ、はい!」

 カミュはレコに案内されてバスルームへと向かう。

 その間にマリムは一日の仕事の整理と後片付けを始める。

 この家のバスタブは楕円形の形をしていて、3人くらいは余裕で入れる大きさがあった。

 そのバスタブには暖かくて綺麗なお湯が張られていて、周りにはアロマポットが置いてありハーブの香りが漂っている。

「な、なんだか入るのが勿体無いんですけど...」

「そんなことは無いし、早く入らないとマリムに怒られちゃうよ」

「そ、そうですね!?では遠慮なく!」

 カミュはレコに言われると慌てて汚れた服を全部脱ぎ、急いでシャワーを浴びて「ザブン!」とバスタブに浸かったのだった。

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