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霊能者、異世界を征く!~奴隷からの出発、魂の能力継いで下剋上。

るう

ヨルゴ

ガタッ! と激しく椅子が倒れる音がした。
他人ごとのように驚いたが、勢いよく立ち上がったのは俺だった。当然ながら、これは俺の意思ではない。さっきの商人の時と同様、ティムの感情に引きずられてのことだ。エセ婚約者の登場に、思わず興奮してしまったに違いない。それにしても、こうまで霊の感情に引きずられるとなると、正直いろいろ不安になってくる。

「なんだ、お前? ふん、奴隷か! しつけがなってないな」

まるでゴミでも見るように見下して、そのあと同席しているヤトたちに目をやって、なぜか少し怯んだ顔をした。けれど、すぐに気を取り直したように、ことさら気障な仕草で肩を竦める。

「見たところ金狐族のようだが、冒険者ってことは食い詰め者といったところか。関係ないのなら、その奴隷を連れて、さっさと席をはずしてもらおうか。そもそもドリスは俺の婚約者なんだ、それをティムが横槍を入れた。むしろ、被害者は俺なんだからな」

金狐一族は、獣人族にとっては上位種であるのだそうだ。そして人族、魔族なども含めた世界機関においての重職にも、その一族が占めているとのことだ。
もっともヤトは、自分にはもう関係がないとか言ってたけどな。
それ以上は掘り下げて聞かなかったが、少なくとも偉そうなこの男を、一瞬とはいえ怯ませるだけの効果はあったという事だろう。

「婚約はそもそもそっちが勝手に言っていた事だろう。姉貴たちはキチンと教会に認められて結婚したんだ。もう、この事実は変わらない」
「俺とドリスの婚約は祖父が認めた、この村では絶対だ。まあ、教会で結婚を強行することで、それを破棄としたわけだが、それもティムが生きていればこそ……」
「……ど、どういうことだ」
「あいつは死んだ」
「なに!? そ、そんなばかな……いったい誰から」
「誰だっていいだろ、そんなことよりお前からもドリスを説得してくれよ。俺に嫁げば、身重の身体で畑に出なくても済むぜ。ああ、腹の子はうちには入れるつもりはないが……なに、子なら俺がいくらでも仕込んでやるさ」
「……っ!」

メキメキメキ……!
レオが激高するより早く、俺の握りしめたこぶしの下のテーブルが、不気味な音を立て、その脚が細かい振動にカタカタと鳴る。
怒りに震えるとは、まさにこのことだと思った。
俺の右手の下あたりに、細かいヒビが入ったと思った途端、テーブルが不自然な壊れ方をした。これはティムの力というより、この「手」の仕業に違いない。なにしろ粉々に粉砕したからだ。

「な、な、何のつもりだ、奴隷! そもそも卑しい奴隷が、なぜ俺たちと同じ目線で座っているんだ。地べたを這いずってろ」

壊れたテーブルに気を取られていた俺は、ヨルゴが手を出してきたのに咄嗟に気が付けなかった。いきなり首輪を掴まれ、そのまま下に引きずり落とされた。もちろん抵抗しようとしたが、ここでも重力先生がしっかり仕事をして、俺は思いっきり床に転がった。
なんとか腕で頭を庇ったが、運悪く左側に傾いたため肘を強打して危うく意識が飛びそうになる。こういう時こそ、右腕の出番じゃないのかよ!?

「ちょっと、マヒト大丈夫? うわ、血が出てるよ」

すぐに妹ちゃんが駆け寄り、俺を起こしてくれた。
ヤトたちといると忘れがちだが、やはり奴隷ってこんな扱いなんだな。ちくしょう、ルルゥの優しさが目に染みる。今朝は、ちょっと感じ悪いとか思ってごめん。

「……うわっ! な、なにをっ」
「なにを、だと? 先に手を上げたのはそちらだろう」

ヨルゴの胸倉を掴み、ヤトは二十センチもの上空から見下ろすように顔を近づけた。

「ど、奴隷だろうが!? 第一奴隷の不始末は飼い主の不始末! 抗議すべきは俺……うっ」
「さてな、どっちが咎められるかな」
「き、金狐族だからと言って……」
「身分など関係ない。お前がやったことは、他人の財産の損壊だ。訴えられるのはどっちだ?」

これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、ヤトは、今の現状をあえてヨルゴが理解できる言葉でねじ伏せた。一般的に奴隷は主人の持ち物だ。それを害すれば、現代風に言えば器物損壊にあたるのだ。
ルルゥに助け起こされる俺を見て、ヨルゴは分が悪いと思ったのか「こ、後悔することになるぞ」と、ありふれた捨て台詞を吐き捨てて、何もないところに蹴躓きながら走り去っていった。
ちなみにヨルゴの後方にいた男たちは、俺たちとのゴタゴタにはこれと言って手を出すことはなく、始終様子を見ていただけである。
俺が転ばされた時、とっさに男たちが動いたのが見えたが、むしろヨルゴを止めようとしていたように感じた。
俺もあまり余裕がなかったので、本当にそうだったのかはわからないが、あの二人は用心棒というよりも、どちらかというとお目付け役といった役回りのように感じた。

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