小さなヒカリの物語

あがごん

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もと俺は討魔師の家系なんだからそんなの逆に有利だろ?人々に犠牲が出らずに済む!って言い返してやった。そうなの?と首を傾げたから、俺はそうだよと何度も言った。
 俺の罪も告白した。夕焼けが怖いということも伝えるべきことは全て言った。ヒカリはよく頑張って探してくれたねと微笑んでくれた。そして、私を助けてくれてありがとうって頬にキスされた。めちゃくちゃ焦った。なんとか普通を装ったが、顔の赤みで動揺してるのが丸分かり状態。ヒカリに指摘されてさらに恥ずかしくなったが、悪い気はしなくて、むしろ嬉しいとさえ思った。罪のことなんて忘れてしまおう。他愛無い日常が続けばそれでいい。心の底からそう願っている。けれど、そんなに人生上手くいかない。人間の心の構造は自分でどうこう出来るほど簡単に出来ちゃいない。深い場所に積もった感情を罪と呼んでいたのだから、そんなにすぐに忘れることは出来ない。
今は学校の帰り道。夕焼けが空一面を埋め尽くしている。まだやっぱり少し抵抗がある。めまいもする。けれど、ヒカリと一緒に歩くことで、今を楽しく生きることで、少しずつ治していきたいと思う。おくびにも出さないが、ヒカリもそう思っているはずだ。
「……この坂道疲れるね……」
「日陽坂、苦悶坂、地獄坂……いや、今は帰りだから逆なのか。ってことは地獄坂、苦悶坂、日陽坂の順か」
ヒカリがはっとした表情で俺のほうに向き直った。
「ねぇ、こう考えるとどうかな。つらい経験をして、死ぬほど苦しんで、そして最後には太陽が私たちを照らすの。眩しいくらい力いっぱいに。でも全然悪い気がしなくて。最後には今までのことがすべてが報われるの。そう考えるとなんだか今までの自分を少しだけ許せる気がしない? たぶんそうやって少しずつ元に戻っていって、そしていつかお互いに過去の自分を許せる時がきっと来るよ。だからこの坂道は私達自身。毎日一緒に登下校しないといけないんだよ。二人揃わないと効果無いからね。抜け駆けはなしだよ」
たまにヒカリはすごいことを思いつく。
「そういう考え方もあるかもな」
ヒカリの言葉は言い得て妙だ。俺は夕焼け空をもう一度見上げる。
くしくも今上ってる坂は日陽坂。
「太陽が私たちを照らす、か」
そうだ、いつかは苦しみも解放されるときがくる。それまではとても苦しいが、いつかはその苦しみにも日が当たる。
決して傷は治らないわけじゃない。それまでの記憶を引き継いで、新たな傷を作っているだけに過ぎない。傷はかきむしらなければいつかは治る。だから、これから忘れてゆこうと思う。今までの罪を。ヒカリとともに。この、陽のあたる坂道の上で。<了>



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