小さなヒカリの物語

あがごん

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けれどよく分からない。
『父さんのようになって欲しくない』というのが『死んで欲しくない』という意味なら、なぜ今そんなことを俺に言うのか。父さんがどれだけ人々の安全を考えていたのか直接は知らないが、俺は正義感とやらで自分の命を失う真似はしない。
高校だって人の意見に流されて決めるぐらいだし、俺は正義を語れるほど出来た人間じゃない。だから、母さんが心配しなくても最初から自分には関係ない話だ、とは思うもせめて忠言だけは心の隅に収めておくことにした。
 俺は片腕だけテーブルに突っ伏してテレビに電源をつけた。
ヒカリが帰ってくるまで適当に時間をつぶせればいい。
一通りチャンネルを回してから一番良さげなものに固定する。地域密着番組『ここくる』で今日ヒカリと行ったデパートが紹介されていた。新装開店してからまだ二週間も経ってないが、すでに超大型デパートという風格がある。今はリポーターが店内に潜入し、お客さんから感想を聞きだしているとこだ。取り上げられた店の名前はダイアリー柏崎。あれだけ安かったんだ。しかも質もいい。そんなのを話題好きであるメディアが放っておくはずがない。また買いに行こうかな。
そう言えば、だ。あの時ヒカリは〝かわいく思ってくれるような服を買いたい〟って言ってたよな。変な言い回しだったからよく頭に残ってる。やっぱりそれって特定の人物をさしてることになるんだろうか? もしそれを無意識のうちに言ったのだとすると、その人物とは、深層にまで入り込むくらいヒカリと親密な関係の奴になる。そういうのは直接聞いてもたぶん教えてくれないだろうな。幼馴染としてはすごく気になる所なんだけど。
 違和感と言えば、あの時もそうだ。繋いだ手を離した時も感じた。
「ごめん、こーちゃんは先に帰ってて。私は今からちょっと用事が出来たから」
とそれだけ言って、ヒカリが自分のもとからいなくなった時。何か引っかかったが、俺は何も言わなかった。言わなかったせいで今、俺とヒカリは同じ場所にいない。すぐに帰ってくるというなら、もう玄関のドアが開いてもおかしくない頃なのに。
妙なじれったさが心に不安を生む。ヒカリには用事があって、少し遅くなっているだけだと短気な頭に言い聞かせる。
「用事があったんだから仕方がない」
声に出して自分を納得させる。……あれ? 違う。そうじゃない。
『用事が出来たから』
あの時ヒカリは確かにそう言った。そこは〝用事がある〟じゃないのか? 出来たっていうのは緊急の時に使う言葉だろ? 小さいようでとてつもなく大きい認識のズレ。浮かび上がった疑問が不安を加速させ、思い出させる。そうだ、そうだった。俺は言わなかったんじゃない、言えなかったんだ。ヒカリの足の速さが見て分かるくらい異常だったから。
これまでヒカリの様子がおかしいと思うことは何度かあった。ただの勘違いから正夢的直感まで。そ

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