小さなヒカリの物語

あがごん

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「靴下も4足セットで298円!これは買うしかないよ!」
「おお、でもこっち方が凄いぞ! このジャケットがなんと300円……すまん、3000円だった。まぁ、それでも十分安い!」
安いだけじゃなくて品物もなかなかに良い。服のタグにはオール日本産の表記。ここまでくると色々と余計な、業界の裏側の心配をしてしまいそうだ。そういう考えはよくないな。
「ねぇねぇこれとかどう思う?」
「すごくいいと思う」
ヒカリが着るならどんな服でもかわいい、とは口が裂けても言えない。ヒカリは一人で洋服を次々に物色している。これかわいい、安い、ねぇこーちゃんなどと、ややテンションのあがったヒカリが店内を行ったりきたりしている。女の子の買い物にはどうしても長いイメージがあるが、買い物かごにどんどん突っ込んでいくヒカリを見ると、実はそうでもないのかもしれないという気分になる。はてさて、俺もプレゼント用の服を選ばないと。
「おっ、これもいい。このピンクのやつも似合うと思うが9800円!? 無理だ。俺には高くて買えない。もっと安くてそれでいてヒカリに似合うもの……」
と、女物の服をつかんで一人ぶつぶつ言っている男をはた目から見ると、単純に危ないなぁという客観的思考が働いた。誰も見てませんようにという願いを込めて俺は辺りを見回す。
が、みんながみんな自分の服探しに熱中していて、他人のことに干渉する暇はないといった感じだ。よかった。自分もこのまま女物の服を物色していて大丈夫だと安心した時、
『ねぇ、ママ。なんかこの人危ないよぉー?』
『だめよ、見ちゃいけませんっ!』
振り向けば、そこには自分を侮蔑の目で見る女の人とその子供が立っていた。あからさまに避けるようにして自分から離れていく。めちゃくちゃショックだ。そこまでしなくてもっていう正直な感想。犯罪を犯してるわけじゃないんだから、もっと自分の行動に自信を持とう。あれ、涙が出てきた。
気持ちのやり場のないやるせない事件に、精神的に影響されながらも、俺はその後も女物の服を物色していた。周りの目なんか気にしないというスタイル。実際変な目で見られたのはあの一回きりで、買う服は順調に絞り込めた。二回もあんなことされたら途中で心折れてただろうけど。プレゼントの服をレジできれいな包みに包んでもらって、あとはヒカリが買い終わるのを待った。五分もせずにヒカリが大袋を持って近づいてきたので、俺はプレゼントを差し出した。
「はい、これ」
「えっ?」
「今日はヒカリの誕生日だろ? 俺なりにヒカリに似合いそうな服を選んでみた」
言うと、ヒカリは目をふるふるさせて俺を見上げた。
「お、覚えてくれてたんだ! もう忘れちゃってると思ってたのに」
「忘れるはずがないだろ。昔って言ってもずっと一緒にいたんだから」



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