小さなヒカリの物語

あがごん

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ていた。少し楽しそうでもある。比べて俺は激しく憂鬱な気分だった。反省文を書かされたことも一つの原因だったが、多くは窓から見えた鮮やかな色彩が心の不安程度を加速させていた。




『ヒカリのことが好きでひぃた。僕と結婚してくだしゃい!』
ふと苦い思い出が頭の隅をよぎった。急な目眩に頭がくらくらする。
忘れられない記憶に、込み上げてくる自責の念をのどの下に強引に押し返す。
「こーちゃん? 顔色悪いよ?」
ヒカリが心配そうにこちらを見るのが分かった。安心させるために何でもない風を装う。
「ん、そうか? 気のせいだろ」
「……そう?」
ヒカリはやや不信そうな顔。そんなに見つめられると本当のことをしゃべってしまいそうだ。
うぅ。くそっ、足元がふらつく。手が汗でべたつく。自分でも精神が不安定なのが分かる。
夕焼けはきれいで懐かしい感じがするから好きだ。これは小学三年生まで思っていた夕焼けに対する感想。夕焼けは心を追い込むから嫌いだ。これは今思った感想。夕焼けとは相性の悪い体になっている。何度も何度も刷り込まれるから心は勘違いしたんだと思う。分かっていても変えられないのは自分から変えようとしなかったから。いつの間にかそれが日常の一部になってしまっていたから。だからヒカリと離れ離れになると分かった時でさえ、大事なことは何も伝えられずにただ手を振るだけだった。罪を犯してしまった時点でもう自分には権利なんてないのだ。
「ねぇ、ねぇってば」
「え? あぁ、なんだ?」
「だから今夜のおかずは何だろうって話だよ。もう、ちゃんと聞いてた?」
「あ、おう」
やばい。全然聞いてなかった。自分の世界に完全に入り込んでた。
ヒカリは意地悪げにつんと口を尖らせ、俺の顔を覗き込んできた。
「その反応あやしー。ねぇ、何考えてたの?」
「べ、別になんでもない」
顔がやたら近いのはどうにかして欲しい。違う理由で呼吸困難になりそうだ。
「ますますあやしーなー。悩み事なら相談のるよ? 言った方が楽になるって。ほらほら」
「えっ?」
昔の思い出がフラッシュバックする。小学三年生のヒカリ。オレンジ色の夕焼け。空は夕陽に染まっている。そしてそれは今と同じ。服を引っ張るその動作まであの頃と同じに再現されてるみたいで。
激しい目眩に襲われ、視界がぐらぐらと揺れた。呼吸が速くなる。
「ほらほら言っちゃいなよ!」



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