小さなヒカリの物語

あがごん

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言ってズボンのポケットをまさぐるが、携帯はかばんの中に置き忘れてきたらしい。ヒカリの状態が心配だが、ここは仕方ない。教室まで戻ろう。
「ちょっと待ってろヒカリ、すぐ戻るから」
「待ってこーちゃん」
ヒカリの声に足を止める。
「そんなのいい、それよりカードを取って」
「カード?」
すぐにグラウンドにぽつんと落ちた一枚のカードを見つけた。
「これか?」
拾って、ヒカリの手に握りこませる。ヒカリは、
「顕現」
といつもとは違う弾まない声でカードを頭上に掲げた。
すると、ポンっという軽い音の後にヒカリの手の中に細長い注射器が現れた。注射器には緑色の液体が入っている。
「それ、どうする気だよ!?」
俺が言うより先にヒカリの腕には針が刺さった。その姿に圧倒されて、何とも知らない液体が流れ終わるまで二の句をつむげずにいた。流し終えるとヒカリは、
「大丈夫、直によくなるから」
ややかすれた声で言う。心配させないようにしてるんだろうか、無理に笑おうとしてる。人のことを心配してる場合じゃないだろ、馬鹿やろう。
「良くなるからって言ってもまだ血が出て……」
俺は言葉の途中で口をつぐんだ。見ると、ヒカリの腹部から流れ出てたはずの血が止まっていた。服ごと貫通した傷の断面も時間が経った後のように塞がっている。
「ねっ? だから、もう大丈夫、こーちゃんがそんな顔することない……っう、ぐっ」
無理に起き上がろうとするヒカリを慌てて抱え込むように支える。と、
「ふれ……られる……?」
ヒカリは驚きの色を瞳に浮かべた。何かをヒカリは口走ったが俺には聞こえなかった。ヒカリは俺の腕から外れようとし、再び苦痛に顔を歪めた。いくら傷が塞がったとはいえ、こんな短時間で治すのは体への負担が大きいに違いない。
「一度病院へ行ってちゃんと見てもらった方がいい」
取り返しがつかなくなる前に手を打たないと。後悔先に立たず。これでもしヒカリに何かあったら悔やんでも悔やみきれない。
「そんなの平気だよ、こーちゃんは気にしなくていいから。完全に回復するにはちょっぴり時間がかかるだけだから。それよりそろそろ授業に戻らないと怒られるよ?」



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