小さなヒカリの物語

あがごん

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自己暗示。自分を鋼だと思い込む。鋼の体には鋼の心が必要だ。何をされても動揺しない精神が戦いには要ると、知らないなりに分かろうとした。自分がぶれてちゃ何も出来ない。
そして槍など恐れず前に突っ込む。オウムのインパクトの瞬間だけ後方に跳んで、
「ゼロ距離射撃、ここなら外さねぇ!」
この少しの時間で閃いた、確実な勝利方法を実行する。恐れを捨てた、攻撃的な弓のスタイル。簡単に言えば、超近距離射撃。矢から手を離す。
赤い炎を纏った光の矢はオウムの黒い心臓を貫き、そのままの勢いで青空を駆けた。中心部から広がるようにして、黒がかった青色の光が放出され、数秒後には欠片さえ残らなかった。
ふーっと悪い空気を肺から押し出す。張り詰めた心の糸を積極的にたるませる。そうでもしないと身がもたない。ほっとするとどっと疲れが出てきた。時間自体はあまり経ってないが、なんかこう精神的に疲れた。息をする度に力が抜けていく。へたっとその場に座り込む。
「やった、やったぞ……」
強く握った右手を太陽にかざし、喜びをかみ締める。が、そうしている己の愚かさに気づいた。オウムは倒しても、ヒカリはまだ倒れたままだ。急いでヒカリの元に駆け寄る。
「ヒカリ、しっかりしろ!」
腹部からは大量の血が流れ出ていて、見るからに危険な状態だった。顔面蒼白で生気が感じられず、目から白い流れの筋が出来ている。
「……こーちゃん……」
ヒカリの口が、搾り出すように自分の名を呼んだのが聞こえた。
「ヒカリ? そうだよ俺はここだ」
「……こーちゃん……」
「もう大丈夫だ。心配すんな」
「……こーちゃん……」
「……?」
ヒカリはうわ言のように名前を呼んでいるだけでどうやら意識はない。揺り起こしでもしないとこのまま一生目を覚まさない気がした。俺は制服の黄色のタイをつかみ、
「目を覚ましてくれ! お願いだ、早く」
意識を取り戻して欲しくてヒカリの体を揺らした。少々強引でもいい。ほんの少しでもいいから俺は安心したい。ヒカリは生きてるってことを確認したい。と、
「う、ううっ」
一瞬ヒカリの体がびくっとなって、それからヒカリの目が徐々に徐々に開かれ、黒い瞳が覗き込む俺を見た。
「……こー……ちゃん?」
「良かった目を覚まして。待ってろ今すぐ救急車呼ぶからな」



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