小さなヒカリの物語

あがごん

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体を包む操力を一旦両足にためて、高く跳躍する。その時、黒い影が一瞬視界に入った。
「えっ!?」
どすっという音が遠く聞こえた。急な胸の痛み。
体にぽっかり穴が空いたように激痛がはしり、途端に呼吸が苦しくなった。空に向けて跳んだはずの体は重力にそって地に落ちてゆく。理解できない現象に、遅れていたのは自分の思考回路だと気づくのは、落ちていく体にオウムの突進が見舞ってからだった。
「うっ、げほげほげほっ」
大量の血が口から吐き出た。腹部から地面に赤い体液が流れている。跳んだ時、オウムから細長いものが伸びて体を貫いたのが見えた。そこでやっとこの違和感の正体が分かった。
あれは……このオウムはスペルナルティ。初めて相対する高位のオウム。
血が肺に入り、強く咳き込む。搾り出すように喉からせりあがる血の残滓が辺りに飛び散る。急激な鼓動の衰弱を感じた。気を失いそうになる痛みに耐えながら、ポケットからカードを取り出す。急いで修復しないと手遅れになる。顕現しようと声を出した瞬間、
「うぐっっっ」
背中に鈍重な衝撃が駆けた。体はスローモーションのように空中に投げ出され、地面との摩擦でようやく停止した。のどから血が湧き起こり、地面を赤く染める。
地面に膝を着いた状態から目線を上げると、カードは数メートル先に落ちていた。吹き飛ばされた時に手から滑り落ちてしまったらしい。あれがないと今の負傷状態からすぐに回復できない。
と、オウムの接近が見えて、ぎりぎりのところで体を横に投げ出した。無理にひねったせいで傷口からは大量の血があふれ出た。痛覚神経が激しく刺激され、口から言葉にならない悲鳴が漏れでた。傷口を押さえた手が赤に染まりきっていることが、自分の状態を再認識させる。


このままだと私は……どうなるの?


討魔師の道を歩み始めてから今日までずっと。覚悟していたことだけれど、どこか遠いことだと思っていて。だから急に近づくとこんなにも胸はざわめいて、焦燥が心を支配して、体が痛くて。死ぬことに対して考えが甘かったのかもしれない。視界がぼんやりとしてきた。
「……こーちゃん」
ほぼ無意識のうちに口が動いた。自分が死んだらこーちゃんはなんて思うだろう?
痛みで薄れゆく意識を無理やり蹴り起こして、オウムの動きだけを見る。
「まだ死にたくない……」
私はずるくて、独りよがりだ。私は自分勝手な方法で罪を償おうとした。償えるものだとして三年間どんなことにも耐えてきた。けど今、自分の決めたことも途中で破ろうとしている。
死にたくない。己の非力さに悔しくて唇を噛む。つ、と血が流れ出てすぐに吐き出た血に混じった。

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