小さなヒカリの物語

あがごん

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せてななめに斬り上げる。が、剣は虚しく空を切り、手には何の感触も残らない。振り上げた直後の開いた体にオウムが突進してきた。
「うううううっ!」
普段は出ない声が出た。体を大きくねじり、体勢を立て直す。完全に避けたつもりでも脇腹をかすったみたいだ。衝突でそがれた部分に操力を補充する。少し当たってもこうして治せるが、もし大きな激突があれば体ごともっていかれる。けれど私は臆さない。もう一度オウムに向かって、
「くっ」
駄目だ。振りぬく前にオウムが体にぶつかる。最後まで剣を振り切りない。それぐらいのスピードをこのオウムは持っている。それなら。
高く跳躍して、オウムのリターンに合わせて剣を振り下ろす。だが、上手くいかなかった。オウムは瞬間的に加速して私の体に衝突した。左肩の骨が砕けたような鈍い音。
「うぐうぅっ!」
身を焼かれるような強い痛みがはしった。そこは操力で守っていたはずなのに。それなのに打ち破られたというのは、攻撃に対して纏う操力が薄かったということだ。でもそんなのはあり得ない。今まではこんなことはなかったはずなのに。
強い、速い、的確。総じて言えることは、このオウムはいつもの戦い方では倒せないということだ。今回のオウムは何かが違う。倒すのを急いだら、負ける気がする。だから基本は回避に専念して、隙あらば斬る。そうするしかない。最善の方法を戦いの中で選択する。それで結果を出せないと討魔師の場合はすなわち死につながる。
と、オウムからの風圧が顔に吹きつけた。オウムを避けた後でも追随してくる風によって後ろに倒れそうになる。手強い。さっきからそのことばかり思ってしまう。一つの動きから全てが分かる。
再び体を横に投げ出し、突進してくるオウムをかわす。素早く立ち上がって次の攻撃に備える。それを何度も繰り返す。無理な体勢からの回避。負担のない戦いなどあるわけがない。オウムの一挙一動に意識を集中させる。瞬きすることすら惜しい。避けて、体勢を整えて、相手の動向を見て。討魔師育成学校で受けた訓練を思い出す。みんなで支えあったからこそ乗り越えられたきつい訓練。
『プログラム通りあと一年訓練を受けていたら、もっと強くなれてたのかな?』
しーちゃん、まきちゃん、みさとちゃん、かい君、まさと君。ごめんね、一緒に卒業できなくて。約束守れなくて。あと一年なんて私にはとてもじゃないけど待てなかった。私はこーちゃんのいる区域内のオウムとこうして戦うことで償いとすることを望んできたから。だから私は負けられない。
「我に与えよ我に授けよ全てをちりと焼き尽くす力」
避けた後、隙をついて炎を放つ。
「……なんでっ!?」
核は狙った。直撃した。なのにじゅっ、オウムの表面を焦がしただけ。やっぱり何かおかしい。素早い動きでリターンしてくるオウムの表面は再生されてもう痕も残っていない。それならもう一度。



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