小さなヒカリの物語

あがごん

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この際全部スーパーポジティブシンキングだ。わざわざ教室まで戻らずに済んだ。
下駄箱の横に置かれた傘立てから、弓のケースを引っこ抜いてグラウンドに向かう。着いて見上げると、空中には例の物体が浮かんでいた。前に見たのと比べて黒味が増しているように見える。浮遊しているその状態にもどこか、なんとなくだが違和感がある。ヒカリの姿はグラウンドの左中央にあった。
「我に与えよ我に授けよ全てをちりと焼き尽くす力」
戦いが始まった。ヒカリの手から、青い炎のたまがぼうっ、と飛び出してオウムに直撃した。
ヒカリは直撃に合わせて地面を蹴って加速をつけ、跳躍する。力のこもった声とともにオウムに大剣を振り下ろす。しかし瞬時に避けられ、オウムの体当たりがヒカリの華奢な体に直撃した。
「ヒカリ! 大丈夫か!?」
戦いの最中だからかヒカリに声は届かない。
ケースのジッパーを引きおろし、弓と矢を取り出す。戦況を見つめながら、弓に矢をセットする。
ヒカリは立ち上がり、追い討ちをかけるように二撃目を狙うオウムを跳んでかわした。抉り取られた地面はオウムによる破壊の印。生身の人間がくらったら死んでしまう。
ヒカリは操力があるから、とは言っても何度もくらったら流石に危険だ。
そうなる前に俺が撃ち抜いてやる。オウムに照準を合わせ、弓のつかをしならせて放つ。
……おかしい。矢はオウムを貫通したのだが、仕留めたっていう感触がまるでない。核に当たってないとはまた少し違う。狙いは悪くないはずだ。問題なのは……
「あっ、あああああああああああああああ」
彼女とデートする日を一日勘違いして、後ですっぽかしたことに気づく彼氏の焦りに近い、急激に体温が下がってゆくあああ。
最悪だ。矢に力を注いでもらうことを忘れた。昨日かえってすぐにしてもらうべきだったのに。朝は寝坊したから、言う暇なんてなかったし。
ここでヒカリに声をかけて集中を途切れさせることはしたくない。そんなのは論外だ。どうしよう。俺、ここまで用意して出番なしなのか? いや、もともと俺がヒカリのしていることに介入する余地はなかったんだ。俺の助けは要らない。何よりヒカリ本人がそう言っていたじゃないか。
満足しないのは俺だけで、今ヒカリは自分の命をかけて戦っている。そして操力の施されていない俺に出来ることは何もない。俺に出来ることは何もないんだ。




 不意に首筋にぞくぞくという寒気がはしった。授業中になるのは当然考えていたけど、そうは言っても初めてのことなので、驚いた分普段より強く寒気がした。大事なことは、焦らず、慌てず、やるべきことをやり遂げること。私は手を挙げて、前々から考えていた、こういう時の対処法を実行する。
「すいません、トイレ行ってきます」



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