小さなヒカリの物語

あがごん

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右手を電気の照明の下、高らかに掲げ、恐怖そのものからの降壇を選択した。この手は自由を掴み取った己の意志の表明。要は、逃げた。
「まさか逃げるつもりじゃないだろうな」
その言葉に一瞬身体が凍りついた。ドスの効いた低い声。
「そ、そんなわけないじゃないですか」
ヒカリは何も言われなかったのに、なんで俺だけ。
「……ノートを写してない奴は後で職員室まできちんと見せに来るように」
鉄拳は、今すぐ見せることを要求せずに、それだけ言い放った。全て見透かされてる気がする。いや、それでも幾らかましなほうなのか。後で英人にノートを借りて写して持っていけば、やり過ぎた愛のムチからは逃れるんだから。俺は早まる心臓の鼓動を隠すように教室を出た。
「ふぅー」
大きく息を吐き出す。あのガタイとドスの効いた低い声は、裏の世界の人として渡り合ったほうが良いと思うんだが。
時間稼ぎのために、廊下を出来るだけゆっくり歩こうと努める。帰ってきてもまだチェックがあってたら今の行動に意味がなくなるからな。
と、ばたばたと騒々しい音。階段をものすごい勢いで下る、激しい足音が聞こえた。周りは授業があってるのになんてはた迷惑と、階段の手すりに体を寄せて、下に降りていった奴を確認する。
「……ヒカリ?」
ほんの僅かしか見えなかったが、あの後ろ姿はヒカリだ。何か様子がおかしい。トイレなら、下の階まで行く必要はないはずだ。じゃあそんなに急いでどこに向かってるんだ? 好奇心が、とは言っても今は授業中だぜ?という理性的考えを制し、俺はヒカリの後をつけてみることにした。
 急いで階段を下りると、ヒカリが昇降口へ向かうのが見えた。外に行くつもりなのか? そうなるとますますどこに向かってるのか気になる。まじで授業中に何してるんだろ。
オウム……か? 最近何かあったらオウムだ!と反射的に俺の脳が結論を急いでしまう。
今朝もそれで勘違いしてしまった。遅刻をせずに済んだから結果オーライだけど。
 俺は靴を履き替えてヒカリの後を追った。ヒカリは振り向きもしない。最初から向かう場所が決まっているようだ。
と、グラウンドの手前のコンクリートでヒカリは足を止めた。俺も足を止め、柱の陰に体を隠してヒカリの行動を伺う。もし授業を抜け出して外に出たことがバレたら、説教? いやいや鉄拳制裁が下るだろう。それはなんとしてでも避けたい。
「天命を下せし君に誓う。我のために扉を開かれよ」
ヒカリの手のひらから風が吹き始め、俺は予感が的中したことを知った。髪も黒から金へと変わり、オウムの存在を警鐘している。すぐ様今の状況を確認する。武器は、ある。
教室に置いたら邪魔になるだろうと弓矢を傘立てに放り込んだことが功を奏した。粗雑とも言うが、

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