小さなヒカリの物語

あがごん

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えたくない。よって、この話は一旦終了。生徒がちゃんと写しているか、先生がノートチェックを端から始めていることに気づく。
「全く写してない。どうすればいいと思う?」
英人にすがるような視線を送り、助けを求める。
「どうもこうも寝てました、って言うしかないだろ。俺はカモフラージュは出来ても二人分のノートを写すことは出来ない」
英人の冷たい対応に俺は嘆息する。
「お前はそんな奴だったんだな。やれやれだ。親友のピンチに正論を述べる、心の寂しい奴だったんだな。正直、がっかりだよ」
打開策の提示を期待した俺が馬鹿だった、なんて。自分が無茶を言っているのは分かっていたが、そうでもしないと自分を強く保てない。授業がもし現文や化学なら良かった。でも今は数学。先生は鬼の鉄拳だ。去年は高校三年生を担当していたようだが、体罰が問題になり、一年生の担当に下げられたという噂がもっぱらだ。本当じゃないにしろ、危ない先生というのは伝わる。
今更一からノートをとっても、とてもじゃないが写しきれない。死んだ。と、その時、
「すいません、トイレ行ってきます」
椅子がぞんざいな音をたて、その澄んだ声は耳の鼓膜を突き破った。まぁ、言うほど大きな声じゃなかったが、それでも俺の注目を向けるには十分だった。
「ううむ。そうか、行って来い」
先生の許可をもらい、小走りに教室を出る、俺の幼馴染。
恥ずかしくないのかなとか思ってしまう。そういうのに敏感なお年頃だ。
ヒカリの様子に瞬間びびっと閃きが疾った。
(俺もトイレに行く振りをしてやり過ごせば……!?)
善は急げ。考えを行動に移すことにする。先生が来るのを見計らって、トイレに行ってきますということ。そして、検査が終わった後に戻ってくること。これが今やるべき最善の方法だ。寝起きの割には冴えてるなと自分で自分を褒める。と、噂どおりの鉄拳が、同じくノートをのってない生徒に下った。これを見せしめとして他の生徒に恐怖が伝導したようだ。英人は動じることなくその様子を見つめている。英人のことだから、ノートを写さないで何を学びに来たんだ?とか言いそうだな。
「ノートを写さないで何を学びに来たんだ!」
鬼の鉄拳が生徒に向かって咆哮する。
「あひゃっ」
今食らったのは……鈴木。期待を裏切らない男として今胸に刻み付けられた。赤信号みんなで渡れば怖くない的心情。仲間がいれば、恐怖も少しは薄く削がれる。だが、目をつけられることに変わりはない。よって俺は、
「トイレ行ってきます」



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