小さなヒカリの物語

あがごん

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「えっえっ?」
ヒカリの腕をつかみ、大股歩きで廊下に誘導する。ドアを閉め、周囲に聞こえないように辺りを十分確認してから、
「オウムはもう倒したのか?」
声を潜めて、ヒカリに事態の説明を求める。
「オウムを倒した? なんのこと?」
あれ? 予想外の答えが返ってきた。ヒカリの表情を見るにとぼけているような様子はない。
「いや、だから今朝オウムを倒したのかっていう」
「けさ? 朝は何もなかったけど?」
ヒカリのあっけらかんとした口調にきつねにつままれたような心地になる。
「あれ? じゃあなんで何も言わずに先に出て行ったんだ?」
頭に自然と浮かぶ疑問。自分を待たずに先に行ってたもんだから、ヒカリに何かあったと思ってしまったのだが。
「何度も揺すってやっと起きたと思ったら『お……起き……る。起きる……けど眠い』って言ってそのまま眠り込んじゃったじゃん!」
記憶にない。
「そろそろ登校しないと時間もぎりぎりだったから、お母さんに頼んで起こすようにしてたんだけど」
「……そうか」
俺の単なる勘違いだったか。杞憂だったか。息子が遅刻しそうなんだから起こしてくれよ母さん、と思う。もしかしてこれはいちいち口を出さないってことで言わなかったのか? もしそうなら自己責任ってのは思ったよりも難しいことなのかもしれん。
「おい、そこ。教室に戻れ。ホームルームを始めるぞ」
担任の先生が教室に入れと言ったので、話を中断して教室に戻る。
「きゃっ」
ドアを開けた途端に短い悲鳴があがった。
「……きゃ?」
なんだよそれ? どことなく教室の空気がおかしい。
「……なんか注目されてるな」
クラスの奴らとやたら視線が合う。時間ぎりぎりに来て、女の子を廊下に連れ出したという行動が変に映ったのだろうか。目立つのはあまり好きじゃないんだが。
「あっ、こーちゃん……まえ……」
「まえ? ……ふぉっ!」
ヒカリの指摘に目線を下げると、窓が開いていた。社会の窓がいっそすがすがしいくらい全開で。慌ててチャックを引き上げるが、時既に遅し。オープンザプライスで俺にもたらす利益は¥0で精神ダメ



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