小さなヒカリの物語

あがごん

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「もうそろそろ親戚が集まりだすから、早くしないと願いそびれるかもだ」
赤くなった顔を悟られないよう、墓石のほうにヒカリの視線を移させる。熱が早くひかないかな。
「じゃあ、こーちゃんと私は今からお願いタイムだね。話しかけちゃ駄目だからね」
俺も父さんの墓石と向かい合う。願うことは既に決まっていた。
(ヒカリとの生活がずっと続きますように)
叶えてくれよな。俺、いい子にするからさ。
目を開けてヒカリを見ると、そりゃもう熱心に拝んでいた。
いったい何を願ってんだろ? こういうのってめちゃくちゃ気になる。今日の晩御飯のことか、ヒカリの将来の夢とか、はたまた俺と同じ願い事なのか。ヒカリはまだ目を開けない。
「ごめんなさい」
俺の頭がふっと持ち上がる。意識しなければ聞き取れないくらいに小さな声だった。ヒカリは今確かにつぶやいた。ごめんなさいってつぶやいた。どういう意味だよそれ?
と、ヒカリの目がぱちりと開く。俺は慌てて顔を反らすが、
「もう、見ないで。願い事してるとき顔見られるのはちょっと恥ずかしいから」
やば、ばれてたか。超高速で顔を正面に戻したが、俺の挙動不審さに気づかれたんだ。
「願い事はもう済んだよ。じゃ、行こう。こーちゃんのお母さんがジュース買ってくれるってさ」
ヒカリは立ち上がって俺に笑顔を向けた。
「あ、ああ」
俺も立ち上がろうとしたが、先に桶を片付けなければならない。余った桶の水を柄杓で掬い、陽の光で熱くなったコンクリートになげた。じゅっという音をたてて水は跡形もなく消えた。今日の陽射しは強いなと感じたが、ヒカリの言葉の意味を考えてたためあまり気にはならなかった。




「ふぁーあ」
今日は珍しくヒカリより先に起きた。ここ一週間はヒカリが先に起き、俺はヒカリに布団をはがされるのが一日のサイクルの一つだったから、どこか物足りない気もする。目をこすり、時計を見るとまだ六時半。休みの日はいつも昼過ぎまで寝てるので、今朝のことは俺の中じゃ快挙といえた。ベッドから降り、部屋を出る。トイレに行こうと階段をおりると、
「あっ、ちょうどいいところに」
声がかかった。母さんの声。見ると、母さんはパートで帰ってくる時の格好をしていた。
朝からそんな格好で何をしてんだ? 日曜くらいゆっくりすればいいのに、と思う。
「今から外に出かけてくるから。パートに欠員が出て、代わりに私が行くことになったの。ほら、覚えてるでしょ? この前かに缶詰め合わせを贈って下さった吉村さん。熱を出しちゃったみたいで、パートの帰りにもちょっと寄っていくわ。朝ごはんは用意してるけど、昼は用意できてないの。昼は自分た



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