小さなヒカリの物語

あがごん

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「……大丈夫、まだあと二発ある。それまでに決めればいいんだろ」
瞼を閉じ、呼吸を整えて心の調律を図る。安定したところで目を開き、今の状況を冷静に確認する。まだヒカリはオウムの体当たりを避け続けている。反撃は一度もしていない。斬るチャンスを虎視眈々と伺っているのかもしれないが、こういう時こそ俺の出番だ。
間違ってもヒカリに当てないよう、オウムがヒカリから離れたところを狙って今度こそ、行けっ!
「当たってくれーっ!」
今度は音控えめに鋭く尖った光が風光を疾駆した。矢はオウムの横をすり抜けて、どすっと公園のベンチに突き刺さった。惜しい。あともう少しだったのに。
残りの矢はあと一本。どうしたらいい? 俺は。一発目より軌道修正は出来たが、当たらなければ何の意味もない。次で当てないと、俺は何をしにきたんだってことになる。と、
「きゃっ」
オウムがヒカリの脇腹をかすめた。その声がいっそう焦りに拍車をかける。
早く早く早く! 脳がヒカリを助けろと考えを巡らす。固定された的だったら簡単なのに。あぁーもう! じれったい! 止まれよお前! 気持ちが空回りして解決策が浮かばない。……認識が甘かったか? 動く的を射抜くなんて、小中の練習メニューにはなかったし。
と、ヒカリは地面を蹴りだして剣を横に薙いだ。ひしゅっと音をたて、オウムの下半分が削れた。しかしその部分は瞬く間に再生され、何事もなかったかのように振舞われる。
「……そうかっ!」
じっと見ていると規則性こそないが、オウムの動く軌道には必ず通る点があることに気づいた。ヒカリがいる方へ必ず向かってくるのだ。逆にそれを利用してヒカリ周辺に向けて射れば。
……いや、流石にそれは危険だ。もしヒカリに当ててしまったら、俺は役立たずどころじゃ済まなくなる。
「でもっ……!」
何かしたい。しないときっと後悔する。ヒカリを手伝うと決めたのは俺だ。俺がここにいる理由を思い出せ。再確認する。それだけで十分だ。
「今だけは神様を信じてやる」
弓を限界まで軋ませ、タイミングよくヒカリめがけて矢を放つ。手元から離れていく矢の軌道はどんぴしゃだった。そして俺の思いをのせた一筋の光は、ヒカリの前方まで迫ったオウムにそのまま突き刺さった。
「おっしゃあーー!!!」
これで戦いは終わる、ヒカリの手を煩わせずに自分の手で。そう思ってガッツポーズを決めるが、おかしい。オウムの動きが止まらない。確かに当たったはずだ。当たったところを俺はこの目で見た。現に今も刺さっているのだ。止まらないはずが……いや、確かにオウムは止まらないが、動きは格段に落ちた。ということは俺の矢は追い詰めただけで決定打ではなかったらしい。



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