小さなヒカリの物語

あがごん

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深呼吸し、目を閉じ心の一点に意識を集中させる。イメージするのは波。ゆらゆら穏やかに揺れる悠然とした流れ。そこにイレギュラー因子を介入させる。ほんの小さな渦。時間が経つにつれ渦は大きくなっていく。最後には全てを巻き込む竜巻となる。誰にもそれは止められない。
終末暴虐破壊崩壊暴力的に爆発させる。
矢を射る。射る。射る。射る。射る。
「あれっ?」
数撃ちゃ当たるってわけではないらしい。矢は全部外れた。


「これで二百本目だね」
ヒカリから今まで射た矢の本数が公表される。
そんなに動くわけじゃないから客観的に見ると体はきつくないのかもしれない。しかし精神的にはホールインワンを狙っている感じに近いあのどうしようもなさ。順調に精神が磨り減ってるみたいだ。こういうのはどうしても顔に出る。弓道は精神状態が結果に大きく影響するスポーツだ。
どうしよう。全然当たる気がしない。あんなこと言ってこのままおめおめと終われはしない。
「今日はここまで。始めるのが遅かったし続きはまた明日にしよっ? ねっ?」
ヒカリが俺の冴えない(いつもかもしれないが)様子を見て練習終了を告げる。
「ほら、最初から出来ないのは当然。別に最初から出来なくたっていいんだよ。少しずつ上手くなれば」
ヒカリがおっしまいっ、と帰路へ足首をひるがえす。あれだけやる気だったのに、ヒカリの言葉に素直に頷いている自分が情けなく思う。正直なところ二百本も矢を射て一つも当たらないってのは、次の矢で当てるぞっていう向上心に欠ける。腕に自信があってしかも自分から言い出した分、この結果はかなりショックだ。
「それに私一人でも十分戦えるから、こーちゃんはそんな無理しなくても大丈夫だよ」
「お、おう……」
これは事実上のリストラ宣告だ。いや、まだ働いてない面接の段階で落とされたのか。
アニメの主人公が突然秘められし力を発揮するように俺もそうあって欲しかったが、素人が横から口を出せるほど世の中甘くないって思った。




 今朝は床に頭をぶつけずに済んだので、昨日とは違ってだいぶ目覚めも良かった。
しかし、だ。その精神良好な状態が続いたのは学校に着くまでの間だけで、着いてからすぐに打ち消されてしまった。
「何……これ?」
「ん?」



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