小さなヒカリの物語

あがごん

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「猫耳、ナース服、巫女さん、何でも結構。そういう趣味がある女子は俺のところに来い。以上だ!」
と堂々と言い放った。
もちろん冗談&受け狙いのつもりなんだろうが、不運なことにそれを冗談だと思ってくれる人が一人もいなく、あえなく大惨事を招いた。
一人くらい笑ってくれる奴がいてもいいはずなのに、隣のクラスの声がよく聞こえるほどに教室の空気は静寂に包まれた。出会って早々非日常を持ち込むなよと心の中で突っ込みを入れる。本当は鈴木にしてみれば、声に出して欲しかったんだろうけど。
鈴木の自己紹介は事故紹介となってしまい、肩を落とし呆然とする彼の背中には哀愁を感じた。あいつ早速やってくれたなと苦笑する。取りあえずドンマイとだけ心の中でつぶやいておいた。
 自己紹介の後のホームルームも、インクの匂いがする出来立ての新しい教科書配布も終え、みんなが帰り出す頃俺はまだ教室に残っていた。教室の隅でうずくまっている悲しき人影はまだ落ち込んでいるようだった。負のオーラしか纏っていない。近づいて、耳をそばだてて聞いてみるとなになに。
「嘘だろぉ……自己紹介で外すとかまじねぇよ。そこは仏のような広い心で頼むよみんな」
泣きそうなくらい弱々しい声で鳴いている。なんて声をかけるべきか考えていると、英人がちょいちょいと肩を叩いてきた。何だろうと思い、振り向く。
「俺、今日鈴木と隣町のデパートに洋服買いに行くんだ。ほらあの、最近大幅に新装して今話題になってる日の丸デパート。ちょうど行きたいと思ってたとこに鈴木が誘ってきたから行こうかなと。康介お前はどうする? 俺たちと一緒に行かないか?」
「あー、ものすごく行きたい……けど」
ちらっとヒカリのほうを見る。まだ帰り支度の途中のようだ。英人の誘いは嬉しいけど、ここは我慢しなきゃな。
「悪い、今日はパスだ」
「……そうか、それは残念だ。じゃあまた今度な」
「おう、また違う時に頼むわ」
中学時代、英人と鈴木と俺の三人でよく遊んだものだった。何かあれば三人で出かけてということを繰り返していた。高校になってもその関係は崩すつもりはないが、今回ばかりは遠慮することにした。用事がない限り、俺はめったに誘いを断らないので、今日のことは珍しいと言えば珍しい。
「あの状態の鈴木を連れてくのは大変そうだな」
理由を言う代わりに話の方向を鈴木のことに向ける。見れば、鈴木は釘を打ち込むような勢いで机に頭を叩きつけていた。マゾヒストでもこうはせんだろうってくらいにがんがんがんっ。けっこう音が響くので悪目立ちしている。
「この調子じゃ結構長引きそうな予感。ちゃんと立ち直れるのかどうか若干心配になってきた」
「あいつが先に誘ってきたんだから約束は守らせる。無理にでも連れて行く。洋服選びで他の人の意見も一応聞きたいしな」



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