小さなヒカリの物語

あがごん

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そいで、エスカレーター式の中高一貫校に通ってたはずじゃ。ここにいる意味が分からない。
「あれっ? こーちゃんのお母さんから話聞いてない?」
「かえってすがすがしいくらいに何もな」
尊敬かつ敬愛している最愛のお母様の口からはヒカリの名前さえ出ていない。母さんは人にはあれこれ言うくせに、自分に対しては結構アバウトな面があるからなぁ。
またか、と嘆息しているとヒカリの声が俺の意識に割って入る。
「私ね、こーちゃんと同じ学校に通うことになったんだよ!」
そう言ってヒカリは似合ってるかなーと体をくるりと回転させた。制服を見ればこの学校の生徒と分かるが、声にして言われることで初めて気づくということもあったりする。
「え、え、か、通うって、この町に引っ越してきたのか?」
ヒカリはふふんと鼻をならし、
「そうだよ。けっこう町並み変わったよねー。三軒連立してたコンビニが一軒になってたし」
ヒカリは昔を懐かしげに、だけどどこか寂しそうな表情で思い出に浸っている。
「ちょっと待ってくれ、そういう話は後だ」
これがもし映画ならそのまま過去の回想に入るシーンなんだろう。だが、小学校以来あっていない幼馴染と運命的な(奇怪な)再会を果たした以上、すぐに適応して過去を郷愁するなんて無茶な話だ。俺はとりあえず今の感情を整理しようと気持ちを落ち着けることにした。
「大きい十字路を右に曲がったところのパン屋さん。店長さんの作る、口の中でとろける絶妙な甘さのクリームパン。私、大好きだったなぁ」
じゅるるとよだれをすするヒカリに待ったをかけて、今の状況を理解することに全力で努める。
「えーっと、先ほどの金髪の方は……」
「それは操力解放状態の私だよ」
「だよな」
聞き慣れない単語は取り敢えずすっとばしてヒカリだったということへの確認に重きをおいたせいで、結果変な受け答えをしてしまった。まぁ、いいや。さっきから変な現象ばっかり続いてるんだ。いまなら、何があってもすんなりと受け入れてしまいそうな気がする。
「こーちゃんには先に言っておくね。私、中学の三年間、山にこもって怪物退治の訓練をしていたの」
さすがに無理だった。受け入れるには俺が狭量すぎる。そうなんだ、とは流せずにその勢いに今出せるすべての体力を加えて、心の底から再びシャウト。
勢いだけなら、そのままおなかに手を当てて血が大量に出ていてもおかしくないくらいだ。
なんじゃこりゃーと山びこが返ってくることはなかったが、突然の大声にヒカリは体をびくっとさせた。……かわいい。変態チックな気がしてすぐさま自重する。
「こほんっ。今までの話をまとめると、ヒカリは……三年にも及ぶ特訓の末に……怪物を倒せるくらいの力をつけて、空間とか移動できるようになって、この町に戻ってきたと。つまりはそういうことなの



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