異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

奇跡の花を求めて


 カケルノ帝国帝都となったセレスティーナには、連日多くの移住者が殺到し、今や人口十万人を超える大都市へと変貌している。

 このペースで人口増加と周辺開発が進めば、いずれは大陸屈指の都市となるのは間違いないともっぱらの噂だ。

 なにせ充実したインフラ、清掃の行き届いた清潔さ、夜中でも安心して出歩ける治安の良さ、美味しい名物料理に大陸中から集まった有名レストラン。最先端のファッションを取り扱う服飾店も軒を連ねており、日々進化してゆく街の変化そのものが人々を魅了し続けているのだ。


 街の中心部に位置する冒険者ギルドには、昼夜を問わず仕事を求めて多くの冒険者たちが集う。


「あっ!! カタリナさーん、セシリアさーん!! 丁度よかった!! 指名依頼来てるわよ~!!」


 ギルドに入るなり、受付のリースが声をかけてくる。


「……相変わらず無駄に元気ね、リース」

 気怠そうにあくびをするカタリナ。

 彼女は大抵昼過ぎまでラビの布団で惰眠を貪っているので、まだ完全には覚醒していない。

「よう、朝食ぶりだなリース。指名依頼だって?」

 かたやセシリアは、早朝から鍛錬を重ねているので準備万端だ。瞳を輝かせながらリースに迫る。


「ち、ちょっと!? 近い、近いわよ。ええ、そうよ、A級以上が推奨されている『スターフラワー』の入手ね。お願いできるかしら?」

 リースの言葉に目を細めるカタリナとがっかりするセシリア。

「……スターフラワー!? また厄介なものを……」

「何だよ、せっかく戦えると思ったのにお花摘みかよ?」 


「セシリアさん……スターフラワーは、瘴気の谷底にしか咲かない希少な花です。十二分に危険な依頼だと思いますよ」

「ほほう……瘴気の谷か!! 一度行ってみたかったんだよな。よし、引き受けよう!!」

「ち、ちょっとセシリア勝手に決めないでよ!?」

 慌てて止めようとするカタリナだったが、乗り気になったセシリアは聞く耳をもたない。

「はあ……仕方ないわね」

 最後はカタリナも渋々了承する。


「気をつけていってらっしゃい!! 今夜の晩御飯は要らないって伝えておくわ~」
 
 満面の笑顔で見送るリースにため息をつくカタリナ、意気揚々と手を振るセシリア。


******


「……なあ姉貴、よりにもよってスターフラワーの採取とか馬鹿なの?」

 勝手に依頼を引き受けてくるのは慣れっこのパーティメンバーだが、さすがに黙ってはいられないと、カタリナの弟でサブリーダーのアーロンが呆れながらツッコミを入れる。

「私に言わないでよ。セシリアが強引に引き受けてしまったのだから」


「なんだなんだ? たかが花の採取ぐらいでぶーぶー文句言いやがって? 別に来たくない奴は参加しなくても良いぞ? ただし、報酬は白金貨50枚だがな」 

「「「「なっ!? 白金貨50枚っ!?」」」」


 セシリアの言葉に固まるパーティメンバーたち。それはそうだろう。なんといっても報酬が破格すぎる。白金貨50枚となれば、余裕で一生遊んで暮らせる金額だ。全員妻子持ちのメンバーにとっては、魅力的すぎる。


「姉貴、それにしたって報酬が破格過ぎないか? 何か裏があるんじゃ?」

「うーん、それはわからないけど、依頼主は大手商会の御令嬢だし心配ないと思うわよ?」 

 
 結局、全員参加で瘴気の谷へ向かうことになったカタリナたちウサネコパーティメンバー。


 瘴気の谷は、人が住まない人外魔境と恐れられる絶望の地にある。セレスティーナからは遠く、馬車の移動では往復だけで半年はかかるだろう。カタリナたちが嫌がったのも無理はない。


「…………姉貴……本当にこいつに乗ってゆくのか?」
「仕方ないじゃない。移動に半年もかけたくないでしょ?」

 白毛のグリフォン、フリューゲルを前にするパーティーメンバーの顔色が悪い。(理由に関しては、本編42部分 快適な空の旅を参照) 


「……安心しろ、今回はちゃんと背に乗せてやる。嫌がるようなら鷲掴みで連れてゆくが?」

 そうにらみつけるフリューゲルの言葉に慌てて乗り込むメンバーたち。グリフォンの鉤爪で鷲掴みされるのはトラウマ以外の何物でもない。


「でもカタリナ、よくフリューゲルがOKしたな?」
「ふふっ、まあね。カケルくんをエサにしたら二つ返事でOKだったわよ」

「……ちゃんと約束は守ってやれよな」




「……ここが絶望の地……酷い環境ね……」

 草木一本生えていない荒れ地が続く死の大地。到底人が住める場所ではない。

 そして、その中心部に位置するのが、瘴気の谷だ。


「この世に蔓延する負の感情は、やがて瘴気となり、この地へと流れ込んでゆくと云われているわ。そして瘴気は魔物を生み出し続けているの」

「なるほどな……道理で魔物の数が半端じゃないわけだ。クククッ、ワクワクするなカタリナ?」

「……いや、まったくしないけど……」


 瘴気の谷へと到着した一行は、ゆっくりと谷底へ向かって降下する。

 フリューゲルがいなければ、数日がかりの命懸けの行程だ。


「おおお…………」

 全員息をすることすら忘れるほどの絶景が、そこには広がっていた。

 夜空に輝く星をそのまま地上に降ろしたような様々な色の花。


――――『スターフラワー』

 瘴気を養分にして育つ魔性の花。高濃度の瘴気がなくては育たず、入手の困難さ、効果のすさまじさも含めて、『奇跡の花』と呼ばれる。


「……浮かれている場合じゃないわよ。ほら」

 いつの間にか無数の魔物に囲まれている。瘴気が濃いせいか、強力な魔物ばかりだ。ちなみにスターフラワーは、魔物にとって猛毒なので、食べられてしまうことない。


「くそっ、早く採取してくれよ姉貴!!」

 魔物を蹴散らしながら叫ぶアーロンたち。

「えー? 無理よ。月の光を浴びた瞬間に採取しないと意味がないのよ。それまで頑張りなさい」

「そ、そんな……!?」
「そうか、じゃあ楽しませてもらうぜ!!」

 絶望するメンバーたちとはしゃぐセシリア。



 数時間後、月の光で浄化されたスターフラワーをカタリナが丁寧に採取する。この状態でないと、抜いた瞬間に花が枯れてしまうのだ。



「……なあカタリナ、結局、スターフラワーってどんな効果があるんだ?」

 帰り道、フリューゲルの背の上でたずねるセシリア。思う存分戦えたとあって、すっかりご満悦だ。


「……ずいぶん今更な話ね。スターフラワーで作った香水を身にまとっていると、意中の人に愛されると言われているの。まあ惚れ薬みたいなものね」

「ふーん? ずいぶんと面倒くさいことをするんだな……」

 すっかり興味を失って上空からの景色を楽しむセシリア。


「そうね……貴女には縁がない話かもね」

 苦笑いするカタリナ。


「……でもね、それでも人は愛してほしいと思うものなのよ。たとえそれが偽りのものであったとしても、一時的な安らぎでしかなかったとしても……ね」  

   

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