異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

共に世界のために


『コーヒーをどうぞ、イソネさま』

「あ、ありがとうございます……」

 ヒルデガルドの美貌に見惚れているイソネ君。無理もない。俺だって、いつもチラ見しているぐらいだからな。

 俺たちは今、異空間に来ている。

 イソネ君の仲間たちと街の人々は、キタカゼたちが受け持ってくれているので安心だ。

 ここでなら、邪魔が入らない形でゆっくりと話ができる。時間もほとんど経過しないしな。


「う、美味い……何ですかこれ?」

 ヒルデガルドのスペシャルブレンドと、俺が焼いた焼き菓子の美味さに驚くイソネ君。

「だろ? ヒルデガルドのブレンドは世界一だからな」
『ふふっ、カケルさまの焼き菓子こそ宇宙一です』

 赤い顔で後頭部に柔らかい物を押し付けてくるメイド長。これこれ、客人の前だぞ? まったくけしからん。イソネ君が困っているじゃないか。

「は、ははは……と、ところで、カケルくん。あらためて、礼を言わせてください。何度も助けてくれてありがとうございます。本当に感謝しています」

 深々と頭を下げるイソネ君。

「気にしないでくれ。俺は俺で世界の為に動いただけだ。結果的に力になれたのなら嬉しいよ。他に困ったことはないか? 今ならなんでも引き受けるぞ?」

「困ったこと……ですか」

 真剣に考え始めるイソネ君。

 彼なら自分の為に俺の力を使おうなんて夢にも考えないだろうけどさ。

 せっかくなんだから、もう少し自分自身のことも考えて欲しいとも思う。いつもこんな感じだとすれば、きっと、周りの人たちは、イソネ君のことが心配でならないだろうから。


 しばらく黙って考えていたイソネ君がゆっくりと口を開く。

「うーん、それなら、人身売買組織がですね――――」

「ああ、それなら潰したぞ。さっきのデメテルが幹部では最後の生き残りだ」
 
「…………マジですか!? そ、それなら、実は背後にグリモワール帝国が――――」

「ああ、それも解決済みだ。もうちょっかいかけてくることはないから安心してくれ」

「…………えっと、そうだ! 実は人探しをしていて――――」

「ああ、ウルナなら、先日救出して向かわせたから、今頃クルミちゃんと再会していると思うぞ」

「…………カケルくん、いくらなんでも規格外にもほどがありますよ?」

 呆れたように文句をつけるイソネ君だが、表情は明るく心底嬉しそうだ。良かったな。

「他には何かないのか? 金には困っていないと聞いているからな……」

「あっ! 実は、この街の騎士団長さまの奥さまが領主さまの妹なんですけど、不治の病で苦しんでいるらしいんです。カケルくんならもしかして……?」

 まったく……どれだけお人よしなんだか……自分の両親が行方不明だというのにな。

 イソネ君とリズちゃんの両親が行方不明で、その消息を探るために王都へ向かっていると、キタカゼからは聞いている。我慢している素振りもないし、本当に自分のことより他人優先なんだな。

「ああ、問題ない、後でこっそり治療しておくから、適当に誤魔化しておいてくれ」

「誤魔化すって……ちゃんとみんなに紹介したいんですが?」

 なぜそんなこそこそするのか不思議そうなイソネ君。

『イソネさま……カケルさまと出逢ってしまえば、どんな女性でも耐えることは不可能なのです。例えそれがイソネさまの婚約者であれ、母親であれ。悪いことは申しません。今はまだ早計かと』

 ずいぶんな言い方だが、間違っていないので何も言えない。

「な、なるほど、止めておきます……」

 どうやら察してくれたようだな。本当に賢くて素直な若者だよ……同じ年だけどさ。


「それより、イソネ君とリズちゃんのご両親の行方を心配した方がいいんじゃないのか?」

「……そんなことまでご存じなんですね!? はい、もちろん心配です。特にリズには絶対に両親と会わせてあげたい……」

 そうだよな……俺だって、出来ればもう一度会いたいよ。

「まあ、ご両親の行方は、俺の方でも探してみるよ。あ、あと、クルミちゃんのご両親も無事保護したぞ」
「ええ!? クルミの両親って生きていたんですか? 物心ついた時からウルナさんに育てられたって聞いてたから、てっきり……」


「イソネさん、クルミは私の従妹で、トラキア王国の第一王女ですよ」

「え? クルミ!? ……じゃない? え? 王女?」

 突然現れたクロエに困惑するイソネ君。

「私はクロエ。御主兄様の最愛の妹にして専用メイドのお嫁さん。アルゴノート王国王女でもあります」

「……ごめんなさい、クロエさん。半分ぐらい意味がわからなかったんですが……しかも、なぜ王女が一番おまけみたいな?」

 気にするなイソネ君。全部クロエが悪い。君が謝ることじゃあないんだ。

「クルミは、トラキア王国に嫁いだ私の叔母の娘。国が人身売買組織に乗っ取られそうになったとき、逃がされたのです。ウルナは側付きの侍女ですね」

「そ、そうだったんですね……でも良かった。クルミにも両親が、帰る場所があるなんて! こんなに嬉しいことはないです!!」

 我がこと以上に喜ぶイソネ君。なんだか俺もうれしくなってくるよ。

「良かったな、イソネ君。今回の件が無事終わったら、みんなをトラキアへ連れていくことを約束するよ」 
  
「本当ですか! えっと……今回の件というのは?」

「あれ? 何も聞いてないんだっけ?」

「あ、何か俺のスキルしか通じない敵がいるとかなんとかだけは聞いてますけど、その件ですか?」

 ああ……そういえば詳しくは俺からって言ってあったんだったな。

「イソネ君……」
「……はい」

「一緒に邪神と対決しようぜ!!」
「…………え!? じゃ、邪神!? 魔王とかじゃなくて?」

「魔王なら俺の嫁だ。ああ、間違いなく邪神だな。かなりヤバい奴だ」

「魔王は嫁なんだ…………あの、断るという選択肢は?」
「残念だけど無いな。その場合は世界が滅ぶだけだからな」

「…………勝算はあるんですよね?」
「当たり前だ。俺だってまだ死ぬわけにはいかないからな」

 さわやかに伝えたつもりだが、イソネ君は恨めしそうにジト目で俺を見てくる。

 悪いな。どうあっても、イソネ君の協力が不可欠なんだよ。
    
「わかりました……俺にできることであれば、協力しますよ。この世界のために」


 共通の目的のために、がっしりと握手を交わすカケルとイソネであった。 

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