異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

運命は牛乳プリンとともに


「いや~ん、これ美味しすぎる~!」
「いやいや、こちらも美味しいですわ!」

 結局、リストルテとフランソワーズの二人は、移動することなく、ずっと異世界料理コーナーに張り付いて料理の数々に舌鼓を打っていた。当然全種類制覇するつもり満々である。

 あまりの鬼気迫る食べっぷりに、周囲の男性陣も声をかけることがなかなか出来ない。結果的にお互いにとって非常に有益なことであっただろう。

「うん、そろそろ甘いものに移ろうかな……」
「私、プリンを食べてみたのですが……うふふふ」

 よほど美味しかったのだろう。フランソワーズが幸せそうに思い出し笑いする。


「みなさま~、お待たせしました! 特製牛乳プリン出来上がりましたよ~!!」

 大きな銀色のトレイに乗って運ばれてきたのは、プルプルと揺れる白いデザート。可愛らしい仔猫獣人たちが、一生懸命運んでくる姿に、会場が一気に和む。

「きゃああああ!? なにあれ、牛乳プリン? 牛乳ってなにかしら?」
「プリンの仲間ですわね……ぜひとも入手するのです……」

 獲物を狙う肉食獣のような獰猛さで、仔猫たちに狙いを定める二人。幸いこの会場にいるような人間は、皆紳士淑女ばかり。先を争って殺到するようなこともなく、静かに仔猫たちが回ってくるのを待ち、丁寧にお礼をしながら受け取るのだ。まとめて10個取るような者などいない。

「はい、お姉ちゃんたちもどうぞ? 英雄さまの手作りですからおいしいのです」

 ようやく回ってきた順番。数が足りないということもなく、無事入手に成功する。

「うわあ、ありがとう。モモちゃん」
「ふえ? お姉ちゃん、なんでモモの名前知っているの?」

 驚くモモのモフモフな頭を撫でる。

「ふふっ、鑑定っていうスキルでわかるのよ」
「うわあ、すごい、お姉ちゃん、英雄さまみたいだね!」

 目をキラキラさせて尊敬のまなざしを送るモモ。

「ふふっ、そうでもないわ。ねえフランソワーズ? どうしたのさっきから黙って……ってなに泣いてるのよ!?」

 会話に入ってこないフランソワーズを訝しんだリストルテだが、泣きながら牛乳プリンを食べる姿を見て驚く。

「美味しくて……優しくて……思いやりの味がするのよ……胸が熱くなって、涙が止まらないの……」
「えへへ……あのね、私も泣いちゃったんだよ? お姉ちゃんも食べてみて?」

「う、うん……」

 リストルテは、その人生において食べもので泣いたことなどない。いくらなんでもおおげさだろうと思っていたのだが……。

「グスッ……ひっく、ひっく……美味しいよう……英雄さまあああ!」

 号泣である。モモとフランソワーズが引くほど泣いている。

「モモちゃん!!」
「ひ、ひぃう!? な、なあに?」

 突然両肩をがしっと掴まれて怯えるモモ。

「英雄さまに、どうしても牛乳プリンのお礼を言いたいの! お願い!」
「ふえっ!? そんなことなら、モモについてきて! 英雄さまのところへ連れて行ってあげる」

 モモは嬉しそうに胸をはる。

 案内しちゃいけないなんて言われていないし、モモからみた英雄カケルは、どんな時でも優しくて、誰に対しても悪く言ったりなんしない、そんな自慢の人なのだ。お礼を言いたいなら断る理由などない。

「ええっ!? 良いの?」

 あっさり了承されたので、思わず聞き返すリストルテ。

「うん、行こう、また牛乳プリンを受け取りに行かなくちゃいけないの……」

 その言葉で、モモの足止めをしてしまったことに気付き、慌ててモモの後から歩き出す二人。

「リストルテ、お手柄よ! おそらく唯一の抜け道を見つけたんだわ!」

 フランソワーズの言う通り、おそらく他のものに頼んでも、こう上手くはいかなかっただろう。結果的にリストルテの行動は、大正解だったのだ。


***


 モモの後ろから屋敷の中を進むと、甘い香りが漂い始めてくる。

「もうすぐだよ」

 モモの言葉に鼓動が跳ね上がる二人。いざ会うのが怖くなって、引き返したい気持ちが出てくるが、会いたい気持ちはそれ以上に強く抗いがたい。


「ただいま英雄さま。おきゃくさまだよ!」
「ん? おかえりモモ、ご苦労さま。お客さんがいるのか? 申し訳ないが少しだけ待っていてもらってくれ」

 カケルは、モモの方を見ないでそう答える。ちょうど仕上げに入っていて、手が離せないのだろう。なにせ、千人分の量を一人で作っているのだ。


「…………綺麗」
「…………まるで舞っているみたい」

 そこには無駄な動きなど一切なく、研ぎ澄まされ磨き抜かれた美しさが確かにあった。カケルの凛々しくも真剣な横顔に、そのたくましい背中に、二人は魅入られたかのようにじっと、ただじっと見つめていることしか出来なかった。


「お待たせして申し訳ない。初めまして、リストルテ、フランソワーズ。俺が異世界から来た英雄皇帝カケルだ」
「…………」
「…………」

 返事がない。まるで魂を抜かれた抜け殻のような二人。

 仕方がないので、カケルは二人の頭を優しく撫でる。いかなカケルとはいえ、いきなり抱きしめたりはしない。

「ふえっ!? あ、ああああの、英雄さま、わ、私……た、食べたいです」
「ひぇ!? あ、ああああの、私も英雄さまを食べたいです」

 極度の緊張と頭を超絶技巧で撫でられたせいで、二人の言動は意味不明なものとなった。

 だが、そんなものは英雄カケルには通用しない。どんな理不尽にも答えてみせるのが真の英雄なのだ。

「二人の気持ちはわかった。行こうか」

 二人をふわりと抱えると、カケルは異空間に消えた。


***


「あの……英雄さま? 食べられてしまったのだから、もうお嫁さんになるしか……」
「あの……カケルさま? 素敵でしたわ……もうお嫁さんになるしか……」

「ああ、俺も二人に食べられてしまったから……もうお嫁さんにするしかないな!」

「英雄さまああああ!!」
「カケルさまあああ!!」
 
 飛び込んでくる二人を抱きしめるカケル。

「よし、お嫁さんになった記念に、美味しいものたくさん作ってやるぞ」

 美味しいコーヒーと、特製デザートの数々。

 幸せな結末。二人の探検はひとまずおしまい。

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