異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

特級搾乳師


 モフキャットを仲間に加えた俺たちは、アルゴノートの王都サファリで、クロエたちと合流する。


「あらあ~、ご主人様あ、お久しぶりです。クルルです」

 待ち構えていたのは、クロエの母で、アルゴノート王妃クルルさま。

「ごめんなさい御主兄様。どこからか嗅ぎ付けてきたみたいで、バレちゃいました」

 申し訳なさそうに謝るクロエだが、バレてしまったものは仕方がない。

「あらあら、大丈夫ですよ。ほかの人には話していませんからね」

 クルルさまは、クロエを押しのけると、胸板に顔を埋めてすんすん匂いを嗅ぎ始める。

「ふわあ……この匂い……好きです……うふふ。そういえば、聞きましたよ、搾乳師を探しているとか?」


 くっ、クロエそっくりな顔で、モフ度が3割増しのクルルさまの破壊力はすさまじい。しかも、さりげなく俺の手を取り、きわどい部分をモフらせるあたり、経験のなせる業としかいいようがない。

「はい、実はそうなんです。もしご存知でしたらご紹介いただきたいのですが……」
「うーん、そうですね。私のお願いを聞いてくれたら、協力して差し上げますが」

 にっこり微笑むクルルさまがちょっと怖い。

『私、知っているんですからね。アストレアのベルファティーナとガーランドのマーガレット。二人がご主人様のお屋敷に住んでいるってことを……』

 そっと耳打ちしてくるクルルさま。ちょっと待て、どこからその情報が……いや、それより住んでないから!? 国際会議まで滞在しているだけだから!? そう……だよね? いやいや、っていうかクルルさまのご主人様呼びもおかしいでしょ!? 最初にツッコまなかった時点で手遅れだけどね。

『だから……私もご主人様のお屋敷に住まわせてください』

 うえっ!? どうすんのこれ? 俺は全然構わないんだけど……クロエ?

「仕方ありませんね……私からもお願いします、御主兄様」

 クロエがそういうなら別に良いか。ベルファティーナさまたちも喜ぶだろうし。

「わかりました。さっそく今夜から来ていただいて大丈夫ですから」
「今夜……かしこまりました。クロエとともにご奉仕させていただきますね、ご主人様」

 あ、いや……そういう意味で今夜って言ったわけじゃないんだけど……!?

「ふふっ、でも楽しみです。ベルファティーナとマーガレットと一緒にお泊りなんて、学院以来だから」

 また勇者学院か。どうやら、この3人は同級生だったらしい。俺の子供たちも勇者学院に通うことになるのだろうか? それもなんか悔しいな。別枠で英雄学園でも作るかな。


***


「初めまして英雄様。私が王宮専属の特級搾乳師、シボレーです」

 恭しく頭を下げるのは、妙齢の牛獣人女性。特級搾乳師という輝かしい称号をお持ちだ。俺の英雄と交換してもらえないだろうか。

「こちらこそ初めまして。英雄のカケルです。お忙しいのに申し訳ない」
「いいえ、搾乳の時間はもう終わっていますから、意外と暇なのですよ」

 シボレーさんは牛獣人にしては小ぶりな胸を揺らしながらくすくすと笑う。

 でも面白い……牛獣人なのに搾乳師として働いているんだな……

「ふふっ、牛獣人にも色々いるんですよ? そもそもの話ですけど、搾乳師には牛獣人が多い、といいますか、他の種族はほぼいないですね」

 シボレーさんの話によると、搾乳師になる牛獣人の多くは、彼女と同じコブリン族が多いらしい。ゴブリンではない、コブリンだ。牛乳があまり多く出ないので、自然と働き者になっていったのだとか。

「ちなみに、俺や美琴は搾乳師になれますかね?」

 やる気はある。美琴はともかく、俺は一度見れば技術的には問題ないはず。

「……無理……でしょうね」
「「な、なぜです!?」」

 俺と美琴の悲鳴が重なり虚空へと消えてゆく。頂点を極めたシボレーさんに否定されるということは、搾乳師への道が閉ざされることと同義だからだ。

「搾乳師になるための大前提。それは、搾乳時に一切の邪念を持たないこと。失礼ながら、貴方がたにそれができるとは到底思えません」
「「ガハァッ!?」」

 シボレーさんの言葉のナイフが、俺たちの急所を正確に貫き、そして容赦なく抉る。

「シボレーさん、ところで俺たちが雇えそうな搾乳師に心当たりはありませんか?」

 逃げたのかって? その通りだ。なんとでも言うがいい。もちろん明鏡止水の境地に至れば可能かもしれない。だけどさ、それじゃあ楽しくないじゃん!! 意味ないじゃん。

 俺たちにとっては、呼吸をするなと言われたようなものだからな。今後は趣味として続けていこうと思っている。

「そうですね……ちょうどフリーランスの凄腕搾乳師が王都に滞在しています。お会いになりますか?」

 おお、なんか凄そうな人だ。できれば雇いたいものだが……。

「ぜひ、お願いします!!」


***


「どうぞ、ここが私の家です。今、呼んできますね!」

 シボレーさんに連れられて来たのは、彼女の自宅。なんでも、彼女の娘がその凄腕らしい。そして、やってきたのは、茶髪の若い牛獣人。なぜかめっちゃ睨まれているんだが?

「この子が凄腕の搾乳師サクヤ、まだ上級ですが、実力は間違いなく特級並みです」
「どうも……サクヤです」

 とてもきれいな挨拶をするサクヤ。どうやら目つきが悪いだけなのかな?

「さっそくなんだけど、サクヤ、君を雇いたいんだ。条件ならできる限り対応する用意がある」
「すいません……お断りします」

 検討すらしてもらえず、あっさり断られてしまった。

「サクヤ、いくらなんでも英雄様と勇者様に失礼よ。この国を救って下さった恩だってあるのに」

 母親の言葉に少しだけ考えるサクヤ。ややあってから、ゆっくり口を開く。

「そうですね。ただお断りするというのもさすがに失礼でした。ですので、条件をクリアできれば考えましょう」

 条件付きではあるが、少しでも可能性が広がるのはありがたい。

「それで、条件というのは?」

「……私から牛乳を出すことが出来たなら合格にしてあげますよ」

 不敵に微笑むサクヤに、思わず息をのむカケルであった。
 

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