異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
リーニャの覚悟と手に入れたもの
「リーニャさん、いや、義母上、遠慮なく吸っていただいても大丈夫ですよ。まあ、その必要もないとは思いますけどね」
一体いつからここに居たのか? まるで気配がなかった。この私が気付かないなんて。
黒目黒髪の青年は、まるでお日様みたいな優しい魔力……いいえ、これは魔力じゃないわね?  もっと純粋な力の根源。高位の精霊さまに似ている不思議な力で私を包み込んでくれている。
こうしているだけで、力が戻ってくるなんて……信じられない。夢でも見ているのかしら?
「ハクア、もう大丈夫だ」
半透明だった私の身体が、完全に実体化している。
黒目黒髪の青年の言葉を聞いて、泣きながら抱きついてくるハクア。
ふふっ、大きくなってもやっぱり子どもなのね。本当に泣き虫なんだから。
娘以上に号泣している自分自身については全力で棚上げしながら、愛する娘を抱きしめる。
失った時間は戻らない。でもそんなことは一瞬でどうでもよくなってしまった。
私の決断は間違っていなかったんだ。そう確信が持てたような気がして、勝手に報われた気持ちになる。
ごめんなさいねハクシ。もうしばらく貴方のところへは行けそうにないわ。
そんなことはわかっているさ、とでも言いたげな彼の笑顔が心地よい。本当に優しい人ね。大好きよハクシ。
ずっと待ち望んでいた家族の時間。命懸けで繋いだ未来への希望。今はただ、この温もりに浸っていたいのです。
***
「初めまして、異世界から来た英雄で、ハクアの婚約者カケルです」
黒目黒髪の青年は、なんと異世界の英雄さまで、ハクアの婚約者だった。
それにしても本当に格好良いわ。もう魅力が人の形を成しているのかと思うぐらい。そばにいるだけで、魔力が完全に回復するなんて……もはや意味不明ね。
「婿殿は、フェリスと、フェリルの妹で現聖女のアリエスさまの婚約者でもあるけどな?」
ハクシがにやにやしながら、そんな意地悪な事を言う。うーん、そうなると、彼は、息子であり、義理の兄でもあり、甥っ子でもあるのかしら? まったく面倒な話ね。
でも全然不思議な事じゃない。私だって、ハクシがいなかったら……なんて考えてしまうぐらいだもの。なるほど……だから英雄はノーカンっていう慣習が世界中にあるのね。納得だわ。
「義母上、先に言っておきたいことがあるのですが……」
「……なにかしら」
カケルくんの表情が真剣なものに変わる。
「まず、ハクアの『リャナンシーの宿痾』については、無効化したので心配ないです」
「……は?」
思わずまぬけな声が出てしまった。それほどカケルくんの言ったことは荒唐無稽だ。そんなことが本当に出来るのだろうか?
「ハクアは俺の眷族になったことで、無効化できました。もし望まれるのであれば、義母上の『リャナンシーの宿痾』についても、眷族化はさすがに出来ませんが、消すことならできますよ?」
眷族化? 消すことが出来る? もしそうなら、どれだけ素晴らしいことだろう。
「……ちなみに、なぜ私は眷族化できないのかしら?」
重要な事だから確認しておきたかった。ただそれだけだったのだけれど。
「あ、あのですね……実は……」
「ふえっ!? そ、そそそうなの……そ、それじゃあ仕方ないわね!」
気まずそうなカケルくんが、こっそり耳元で教えてくれた。まさかそんな条件があるとは。
年がいもなく赤面してしまう。別に私は気にしないのだけれど。ふふっ、カケルくんたら本当に可愛いわ。
なるほどね……ということは、ハクアとはもう……そういうことなのね。
「もし、消すことが出来るならば、お願いしたいです」
偽り無き本心だ。おそらく相当な代償が必要なのだろう。彼の真剣な表情を見ればわかる。
「もうこれまでと同じような生活はできなくなりますよ?」
当然そうなるだろう。一度は死を覚悟したのだ。今更失うものなどない。
「ハクシに負担がかからなくなるのなら、どんな代償でも構いません」
私の覚悟を見て取ったのだろう。カケルくんが、言葉を続ける。
「生気を吸うことが出来なくなりますから、人族のように食事が必要になります」
「……それは当然なことね。むしろ、私にとってはご褒美だわ。それで代償は?」
「え? それだけですけど……」
「…………へ?」
そんな馬鹿な、それではデメリットなど無いではないか。
「本当にそれだけなの?」
「はい、それだけです。今すぐやりましょうか?」
カケルくんの瞳に嘘の色はない。なんて綺麗なのかしら、吸い込まれてしまいそう。
「あ、あの……義母上、近いです」
あら、あぶない、あぶない、キスしてしまうところだったわ。ふふっ。
「お願いしていいかしら?」
「もちろん、そのつもりで来ましたからね。シグレ!!」
カケルくんの右手に見たこともないような、禍々しい武器が握られている。
ま、まさか……あれで私を斬るつもりじゃないでしょうね!?
「すぐ終わりますから、動かないでください」
言われなくても、恐怖で動けないわよ!!
「行きますよ、えいっ!!」
可愛い掛け声で武器を振り下ろすカケルくん。
「ぎゃあああああ……って痛くない?」
「はい、これでもう大丈夫です、義母上」
むむむ……何だか私だけ怖い思いをしたみたいで悔しいわね。
「カケルくん、義母上はちょっと……ママって呼んでいいのよ?」
ちょっとだけ意地悪してみた。こんな可愛い子に、言われてみたい気持ちもある。
「うえっ!? えっと……もう大丈夫だよ、ママ?」
いやあああああああああ!? 可愛い可愛い可愛い!!
思わずカケルくんを抱きしめてしまう。
「お、お母さま!? だ、駄目です! 英雄さまが困っていますよ?」
慌ててハクアが引き剥がそうとする。
「何を言っているのハクア。カケルくんは、むしろ喜んでいるわよ?」
小さく頷くカケルくんが可愛い。
「リーニャばかりずるいわ!」
「そうだね、ボクもそう思うな」
ハクアに続いてレーニャ姉さまとフェリル兄さまが、何故か抱きついてくる。
「やれやれ、毎回このパターンだから、もう慣れたよ」
そう言って最後にハクシも加わり大変なことになる。
ふふっ、こんなに笑ったのはいつ以来かしら。
ありがとうカケルくん。これからも娘ともどもよろしくね。
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