異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

王都レガリア


 俺たちは今、橋無き大河を渡っている。

 無数のまな板妖精たちが道となり、対岸まで無事渡り切ることが出来た。まるで因幡の白ウサギの伝説のようではないか。

 小さな体で懸命に役目を果たそうと頑張る姿に、もはや涙を隠すことなどできない。

 俺と美琴の涙は、この大河の1滴となり、新たなまな板妖精を生む源になるのだという。

 感謝の想いから生まれる妖精が新たな感謝の連鎖を作ってゆくのだ。

 この善良な妖精に祝福を。

『英雄の加護を付与しました』
『勇者の加護を付与しました』


***


 大河を渡れば、王都レガリアは目と鼻の先だ。話題は当然、あの異様に高い壁になる。

『巨人族と戦った時代の名残り』
『妖精たちの最後の砦がレガリアだった』

 なるほど、平和に暮らしていた妖精たちが、侵略者である巨人族に勝利した証なんだな。

『違う、侵略者は私たち』
『邪魔だから駆逐した』

 なんか色々台無しだな。

「カケルさま、でも、共存しようと努力したのは事実です。協定を破って襲ってきたのは向こうが先です」

 アリエスが捕捉してくれる。なるほどルクスとラクスは言葉が足りないからな。


 その昔、妖精族と巨人族は、この地で共存しようと協定を結んだのだという。

 その内容は、だいぶ巨人族に有利かつ都合の良いものだったが、妖精たちの細かいことは気にしない気質もあって、しばらくの間は上手く共存出来ていたそうだ。

 だが、聡明な巨人族の王を殺して成り上がった邪王バロールは、協定を破り妖精たちを虐殺。追い詰められた妖精たちは、ここレガリアに逃げ込み抵抗を続けた。


「でも、どうやって巨人族に勝ったんだ?」

『ククク、酒に毒を混ぜた……』
『エロい妖精送り込んで骨抜きにした……』

 あの……エロい妖精について詳しく。

『エロい妖精はもうケルトニアにはいない……』
『巨人族が逃げる時に連れて行ったから……』

 畜生……巨人族許せねえ……

「先輩……もしかしてギガン島にいる巨人って……」
「ああ、おそらく巨人族の生き残りだろうな」

『お願い英雄、エロい妖精を助けて』
『エロい妖精を手に入れるチャンス』

 妖精たちが生き残るために、犠牲となった彼女たちを救いだす。それが俺の使命。俺たちがここにやってきた運命に他ならない。下心などほとんど無い。

「任せておけ、奴らには、キツイお灸をすえる必要がありそうだな」

『でも気をつける、やつら反則並みに強い……』
『男からの攻撃無効の種族スキルに加えて、女からの攻撃を快感に変換する変態スキルを持ってる』   
  
 くっ、何というえげつないスキル構成だ。ほぼ無敵じゃないか!?

 これじゃあ婚約者たちに攻撃させる訳にもいかない。ご褒美になってしまう。

 なるほど……だから毒殺するしかなかったのか。まあ、その気になればいくらでも方法はある。今は早く王都に行って、ハクアの母親を助けるのが先決だ。

 気持ちを入れ替えて王都へ向かおう。

 
 王都レガリアに入ると、変わった形の住居や様々な妖精たちの姿が目に入ってくる。 

 ケルトニアに来て、様々な妖精に出会ったが、妖精とは精霊が人の強い想いに交わって産みだす存在だと、以前ミヅハに聞いた。 
 
 であれば、結局、良い妖精、悪い妖精も、人の価値観によって分けられているだけなんだよな。

 人を騙すから、人を襲うから、悪い妖精。人に害を及ぼさない、利益を与えるから良い妖精。

 魔物や動物だってそうだ。人に害を為すか、利益を与えるかで善悪が決められ、レッテルを貼られてしまう。人なんて仲間内ですら騙し合い、殺し合うのにな。

 人が暮らす社会の中ではそれで良いんだと思うし、当然必要なことなんだけど、最近は人の枠を超えつつあるせいか、人にとっての善悪関係なく、すべてが愛おしく感じるようになってきた。

 ただ存在してくれてありがとう。この世界にいてくれてありがとうって思う。

 まあ、あくまで全体的な話で、俺の家族に害をなすなら、もちろん躊躇なく排除する。

 だって俺は神さまじゃない。善と悪が同居する、矛盾に満ちた傲慢な人間だ。

 だからきっとこれからも、善でも悪でもなく、俺の価値観でやらせてもらう。結局それしかないんだから。


***


 その頃、レガリアの中心部に位置する妖精宮では、妖精王フェリルが、再び手紙を書くべきか悩んでいた。

 順調ならば、とっくにハクシとハクアが到着していてもおかしくないにもかかわらず、何の連絡もないことに不安と苛立ちが募っていたのだ。

「いくらなんでも遅い……、ひょっとして、ホワイティアに何かあったのかな? ねぇディズリー、手紙は間違いなく出したんだよね?」

「はい、間違いなくフェリス殿下に手渡しましてございます」

 汗をかきながら、質問に答える宰相のディズリー。危急の用件だったので、一番早く、実力のある第一王女に手紙を託したのだ。その判断に間違いはなかったはず。

「ねえ、ディズリー……」
「は、はい……」

「おかしいなあ? フェリスなら、何度か妖精宮内で見かけたんだけど?」
「へ!? そ、そんな……では、一体誰が手紙を?」

「ボクに聞かれても困るんだけど?」

 声色に怒気がにじむフェリル。

「す、すぐにフェリス殿下に確認してまいります」


***


「なんだって!? よりにもよってリッタに手紙を渡したの!?」

 疲れたようにこめかみを押さえるフェリル。彼女の方向音痴は誰もが知る筋金入りだ。

「申し訳ございません、フェリス殿下の性格を考慮に入れるべきでした」 

 宰相自身口には出せないが、自由奔放で気分屋のフェリスは、父であるフェリルにそっくりなことで有名だ。普段有能である分、じつにたちが悪い。

「仕方ない……書き直そう」

 あのリッタが期限内に手紙を届けられる確率など奇跡に近い。なにせ、自分の実家へ行くのすら毎回迷うのだ。おそらく今頃、違う国に辿り着いていることだろう。

「ディズリー、あとでフェリスを呼んで。それからリッタの捜索隊を至急編成するように」

 手紙を書きながらも、迷子になっているであろう愛娘を心配するフェリルであった。

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