異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

最高のシチュエーション


 バイキン族は、地球でいうところのノルウェー辺りに本拠地がある。

 そしてホワイティア攻略のための前線基地として真っ先に侵略されたのが、ショタランド連合王国。

 七つの島からなる連合国だが、すべて合わせても人口が万に届かない小国だ。突然襲い掛かったバイキン族の脅威にわずか数時間でなすすべもなく敗北を喫した。

 国民は王をはじめすべて囚われの身となり、明日をも知れぬ境遇となる。たまたま趣味の釣りをするため沖に出ていた王女を除いて。

 バイキン族の侵攻を知った護衛たちは、自ら囮となって敵を引き付け、その隙に小舟で王女を逃がすことに成功する。

 王女と侍女の二人が乗った小舟は丸二日波に揺られて、3日目に偶然遭遇した貨物船に救助されることとなる。

 そして最終的に二人が辿り着いたのは、ケルトニアの港町フェアリーであった。


***


「困ったわねキラ、これからどうすればいいのか……」

 幸い脱出用の小舟には最低限のお金が積んであったのだが、救助してくれた貨物船の船主にお礼としてかなり渡してしまった。

 今後のことを考えれば、完全に判断ミスではあるものの、王族として命の恩人に対して礼を尽くさないなどありえない。誇りを失ってしまっては、もはや死んだも同じなのだから。

「……ノルン殿下があんなに気前よく渡さなければ良かったんですがね……」

 くっ、キラのやつ、侍女の分際で痛いところを的確に突いてくる。さすがは幼馴染ね。

 キラは立場上は侍女ではあるものの、幼いころから姉妹のように育ってきた私にとっては、頼りになるお姉さんでもある。もし、私ひとりだったら、この状況にとても耐えられなかっただろう。

「でも、私たち運がいいわ。縁のあるケルトニアに上陸できるなんて」

 国交があるわけではないけれど、私たちのご先祖様は、もともとはケルトニア出身だと伝わっている。きっとご先祖様が加護を授けて下さったのだろう。

「それはそれとして、まずは、今夜の宿と……出来れば仕事を見つけないと早晩干上がってしまいます」

 キラのいう通り、残りのお金ではそう長くは持たない。お金をためて、いつか必ず祖国へ帰るのだ。たとえ待つ人がいなかったとしても。

 でも今は生き残らなければ……私たちを命がけで逃がしてくれた者たちのためにも。それが、今の私にできる最低限のこと。先を見過ぎて、足元の小石に躓くことがあってはならないのだ。

 ここまで運んでくれた船長さんによれば、ここフェアリーの町で必要なものはすべて町役場で揃うらしい。宿探しも、職探しもだ。

「まずは町役場に行ってみましょう、キラ」
「そうですね、それがよろしいかと思います」

 フェアリーは、活気のある港町で、あまりの人の多さに圧倒されてしまう。なにせ、この町だけで、我が国の数倍の人口が住んでいるのだ。これは早急に慣れる必要があるかもしれない。

「ねえ、キラは何のお仕事探すの?」

 役場への道すがら、ふと疑問に思ってたずねてみる。

「そうですね、私は、家事全般、料理、裁縫、算術、学問、魔法、特に苦手なものはございませんので、条件の良い仕事を探そうと思います」

 くっ、この万能超人め……キラは本当に何でもできる。しかもどれも達人級だ。彼女が持つユニークスキル『才色兼備』のおかげで、王女以上に美人だし……非の打ちどころがないとはこのことだろう。

 それに比べて、私のスキル『一石二釣』は、例えば、釣った魚が必ず倍になる微妙な能力だ。まあ、すべての成果におまけが付くと考えれば悪いスキルではないのだけれど、戦闘にも使えないし、キラみたいに綺麗になるわけでもない。比べてしまうとショボい印象しかない。っていうか、なんで王女なのに狩猟特化スキルなのよ!!

「私は……漁師にでもなろうかしら? それならスキルも生かせるし、趣味と実益を兼ねてるわね……」

「殿下は無理に働かなくて良いのですよ。趣味程度でしたら止めませんが」

 優しいキラはそう言うけれど、私もいずれは働くべきだろう。国を失った以上、今の私は王女でも何でもない、ただのノルンなのだから。

「それよりも、殿下にはそのスキルを使って、早く素敵な殿方を見つけていただかないと」

 そう、キラは人一倍結婚願望が強いのだが、理想が高すぎて相手が見つからないのだ。本人は妥協するぐらいなら生涯独身で構わないと豪語しているので、勝手にしろと言いたいが。


 無駄話をしている間に役場に到着するが、あまりの大きさにビビる。これ、うちの王宮より大きいんじゃないの?

 求人や依頼などは、飲食スペースがある大広間に張り出してあるらしいので、まずはそちらに向かう。

 熱心に求人を見ていると、柄の悪い男たちに声をかけられる。

「へいへい、可愛い子犬ちゃんたち。仕事探してるんなら、俺たちと遊ぼうぜ。遊んで稼げる美味しい仕事紹介してやるからさ、うへへへ」

 くっ、こいつらただ者じゃない……見た目はあれだけど、実力は本物。だけど残念だったわね、キラはもっと強いんだから。さあ、やっておしまいなさい!! ってあれ?

 私の隣で文字通り子犬のように震えるキラ。

(ち、ちょっとキラ、なにやってんのよ!?)
(殿下、チャンスです。颯爽と王子さまが助けに来る最高のシチュエーションですよ! ふふふ)

 こ、こいつ、怖くて震えているんじゃなくて、笑いをこらえてやがった。まったく、子どもの頃から、英雄物語ばかり読んでいたせいか、キラは完全に拗らせているからな……。って感慨にふけっている場合じゃなかった!?

「ふへへ……震えちゃってかわいいね。さあ行こうか」

 周りは完全に見て見ぬ振り。現実はそんなに甘くないのよ、目を覚ましなさい、キラ!!

 6人の男たちに囲まれてもはや逃げ場はない。返事をしない私たちに焦れたのか、男たちは強引に腕を掴んで――――

「ぎゃあああああああ!?」

「……へ?」

 突然男たちが地べたに這いつくばった。何が起こったのだろうか? 隣を見れば、キラもまた、何が起きたかわからないようだった。彼女のあんな表情初めて見たかもしれない。


「大丈夫か? 俺はカケル、異世界から来た英雄だ」 

 ほ、本当に王子さまが助けにキタあああああああ!? 

 吸い込まれそうな黒い瞳、その凛々しく甘いマスクと、とろけそうな優しいお声に、私の中で時が止まる。頭が真っ白になって何も考えられなくなってしまうのであった。

 

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品