異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

ラストダンスはあなたと


「もし良かったら、一曲踊ってくれませんか?」

 一瞬、頭が真っ白になる。

 この男はいったい何を言っているのか? この国の者ならば私を知らないはずはない。はっ!? まさか、これが噂に聞く男色家というやつなのか? 

 頭がパニックで反応できずに固まってしまう。

「ククッ、ごめん、ランスロット、俺だよ、俺」

 この話し方、悪戯っぽい笑顔……

「も、もしや英雄殿……なのですか?」
「ふふふ、正解」
「へ? それじゃあ、あそこで踊っているのは……偽物ってことですか?」
「いいや、あれも本物。分裂ぐらいできないと、英雄なんてやってられないからな」

 奇想天外なことを、さも当たり前のように語る英雄殿。

「……そういうものですかね?」
「ああ、そういうものだ」

 なんだか可笑しくなって、思わず笑ってしまう。こんな風に笑ったのは一体何時振りだろうか? もしかして初めてかもしれない。

「ふふっ、そんなに可笑しかったか? それより、早くしないと次が最後の曲だぞ?」
「ふえっ!? で、ででですが、私は男ですし、服だって……」
「それはどうにでもなる。お前が踊りたいかどうかだけ聞かせてくれ」

 すべてを見通すような英雄殿の澄んだ瞳から目が離せない。姿形は変わっていても、瞳だけは変わらない。貴方の前では嘘をつけない。

「……踊りたいです」
「……そうか。じゃあ、ちょっと失礼」

 突然身体が浮いたかと思うと、周囲は見知らぬ空間に変わっていた。これは……マーリンの空間魔法?

「ふふふ、ここは空間魔法と時空魔法を組み合わせた特殊空間だ。この中ではほとんど時間が経過しない。しばらくゆっくりしていっても、周囲からは気づかれないから心配するな」

 いつの間にか椅子やテーブル、ソファーなどが揃った豪華な部屋になっていて、英雄殿が座るように促す。あの……隣に座らないとダメなんですか? い、いや、嫌ではないんですけど、恥ずかしいといいますか……えっ? 隣じゃなくてこっちの椅子? で、ですよね……うわあ、勘違い恥ずかしい……死にたい。

「まずは、これを飲んで欲しい」

 英雄殿が、透明な器に入った黄金色の液体を差し出す。

「……これは?」
「世界樹の実のエキスだ。これを飲めば元の姿に戻れるぞ、ランスロット……いや、シャルロット」

 元に戻れる? 私が? また女性に戻れるの?

「ん? どうした? 戻りたくなかったのか?」
「い、いえ……そういう訳では、あの……どうして私に?」

 どう考えても英雄殿がわざわざ私のためにここまでしてくれる理由が見つからない。

「……アーシェに頼まれたからだよ。お前を助けて欲しいってな」

「……殿下が……そう……ですか」

 視界がぼやける、涙があふれて止まらない。私なんかのために……嬉しくて……もったいなくて。

「アーシェがこれまで頑張ってこれたのは、全部お前のおかげだって言ってたぞ、もっと自分を誇れ、シャルロット」
「うわあああああ……英雄殿……私、戻りたいです」

 誰もいないからだろうか、普段なら絶対にそんなことをしないけれど、思わず英雄殿の胸に飛び込んでしまった。貴方は本当に優しい人ですね。男の私を優しく抱きとめてくださるのですから。ごめんなさい、ありがとう。 

「さあ、一気に飲み干すんだ」

 本当は口移しでなんて妄想してしまったけれど、それをすると、英雄殿まで女の子になってしまう。あれは本当に危険です。私も命が惜しいですから、泣く泣く諦めるしかないのです。


 体が徐々に縮んで、体が女性らしく変化してゆく。

 服がぶかぶかになって、恥ずかしいけれど、すかさず英雄殿がローブをかけてくださる。その気遣いがとてもうれしいのですが、本音を言えば、別に英雄殿になら見られても構わないのですけれどね。

「でも、私ドレスなんて持ってませんけれど……」

 そう、身体は女性に戻っても、ドレスはもちろん、下着だって持っていない。

「大丈夫、ドレスも下着も俺が持ってるから。それぐらい持ってないと、英雄なんてやってられないからな」

 普通の殿方が言えば、この変態野郎となるところですが、英雄殿が言えば、ああ、そうなんだなぐらいにしか思わない不思議。だいぶ私も慣れてきたのでしょうか?

「……そういうものですかね?」
「ああ、そういうものだ。でも、さすがに着付けは俺がやるわけにもいかないからな」

『はい、お兄様、私にお任せください』
「ふわっ!?」

 突然現れた英雄殿の妹君に変な声が漏れる。

 あれよあれよという間に、私はすっかり着替えさせられてしまった。

「こ、これが……私?」

 もともと、わが家は、公爵家の影として存在している家柄。長きにわたる血縁もあって、姿かたちが似ているものも多く、私はアーシェ殿下に似ているという理由で、お世話係に抜擢されたのだ。

 そのことを今、姿見の前で思い出した。だって、そこに映る私の姿は、あまりにも殿下に似すぎていたから。

「綺麗だぞシャルロット。さあ行こうか?」
「……はい、英雄殿」


***


 会場に戻ると、英雄殿のいう通り、ほとんど時間は経過していなかった。そしてまもなく最後の曲が始まる。

「踊っていただけますか、英雄殿。ラストダンスはぜひあなたと」
「喜んでプリンセス。会場中の視線を集めてしまうのは許してほしい。美しすぎる貴女の魅力を隠すなんてさすがの俺にも難しいからな」

 
 会場中の視線が私たちに集まるのがわかる。だって本当にすごいのよ。まるで飛んでいるかのように体が軽い。私が私じゃないみたい。お願い……まだ終わらないで。もう少しだけ夢を見させてください。


「ありがとうございました。本当に楽しかったです。良い思い出になりました」

 本心からの言葉だ。英雄殿には感謝しかない。それに一時とはいえ、恋人気分も味わえたのだから、これ以上望むことなどなにもない。

「そうか。それなら良かった。これからも円卓の騎士を続けるのか?」
「はい、私の居場所はここにしかありませんから。この国を守り、アーシェ殿下を支えて行こうと思っています。英雄殿はどうされるのですか?」

「ああ、明日の早朝出発する予定だ。世話になったなシャルロット」

 英雄殿は明日出発してしまう。淋しいが仕方がないことだ。

「そうですか、無用の心配かと思いますが、どうぞお気をつけて。またお逢いできる日を楽しみにしております」
「ありがとう。決して油断をしない、それも英雄たる条件だからな、でも、またすぐ会えると思うぞ」

 笑いながら手を振り去ってゆく英雄殿の姿を焼き付ける。目に、記憶に、心にしっかり刻み付ける。

 ありがとう、そしてさようなら。私の愛しい初恋の人。

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