異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

北の街ヴァイス


 ホワイティア北岸に位置する中規模の街ヴァイス。

 北方交易の拠点都市でもあり、港には多くの船が出港を今かと待ちわびているが、一向に船が出る様子はない。

 ここ数日、隣接する町や村がバイキン族に襲撃され、甚大な被害が出ているため、安全が確保できるまで出航できないのだ。

 普段は穏やかなこの港町も、近隣から避難してきた人々や、街を守るために派遣されてきた戦士団、騎士団によって人口が膨れ上がり、あまり健全とは言えない活況を呈している。

 ちなみに、この国では男性兵士を戦士、女性兵士を騎士と呼ぶ。


「忙しそうだね、ヴァニラちゃん」
 両手いっぱいに荷物を抱えた市場からの帰り道、なじみのおばちゃんから声を掛けられる。
「はい、御守りのネックレスが飛ぶように売れていて、在庫を切らしてしまいまして……材料を集めて来たのです」
「ハハッ、ヴァニラちゃんの御守りは良く効くからな。商売繁盛で何よりだよ」
「本当は、あまり売れない方が良いのですけれどね……」

 そう、御守りが売れるのは、それだけみんなが不安を感じているから。

 私がこの国に来てから5年、そしてこの街で店を構えて3年、こんなに街が不安に満ちているのは初めてのこと。

 人はそういう空気を敏感に感じ取り、それが行動に影響する。ましてや魔族である私には、それが手に取るように分かるのだ。

(女神さま、どうか私たちを、大好きなこの街を御守り下さい)

 材料を抱えたまま、店に入る。小さいけれど自慢の魔道具店だ。早速、工房で作業を始める。本当に必要とする人が来た時に、品切れしていたら申し訳ないから。

(ふぅ、とりあえずは大丈夫そうですね)

 出来上がった大量のネックレスを店頭に並べ終えて一息つく。

 私の作るネックレスには、呪いや状態異常を防ぐ効果が付与してある。あと、少しだけ運が上がるおまじないも。これは私の故郷の一族に伝わる秘術なのだが、今や私しか使える者は居ない。

 私が幼い頃、犯罪組織に襲われた私の故郷はもう無い。ただ独り生き残った私だけが使えるおまじない。

 天涯孤独になったと思っていた私に、思いがけない情報が入ったのは7年前、姉が生きていて北方の国へ奴隷として売られたと言うのだ。

 その瞬間、私の人生は決まった。姉に会いたい。絶対に見つけ出して助けるのだと。情報の真偽などどうでも良かった。生きる目的を失っていた私には必要なことだったから飛び付いた。ただそれだけだった。

 ツテもなく、お金も無い私だったが、幸い豊富な魔力量と、魔道具生成というスキル――――一度作ったものは、材料さえあれば複製出来る――――によって、有名な錬金術師の元で修行しながら、お金を貯めることが出来たのだ。

(でも、結局……いまだに見つけることは出来ていない)

 苦労して、この国にやって来たが、手がかりすら見つかっていない。けれど、後悔はしていない。この国の人々は、とても誇り高く、外国人である私を受け入れてくれたし、親友も出来たのだから。

「ヴァニラ、居るか?」

 店に入って来たのは、まさにその親友であるネージュ。北方騎士団長であり、この街を治めるヴァイス伯爵家の令嬢でもある自慢の友だ。この店を出すにあたって尽力してくれた恩人でもある。

「ネージュ!? 今大変なんじゃないの?」
「ああ、死ぬほど忙しいな。まだ生きてはいるが」
 ここしばらく顔を合わせていなかったので、心配していたが、冗談を言う余裕はあるようで安心した。とはいえ、疲労の色は隠しようもなく、忙しいのは間違いないのだろう。

「はい、これ飲んで。そんな忙しい中、わざわざ騎士団長殿がこんなお店に何のご用でしょうか?」
 私が調合した疲労回復薬を渡しながらたずねる。
「おお、これこれ、これは危険だな。飲めばいくらでも働けてしまう。中央に知られないようにしないと、馬車馬のように働かされてしまうだろう。すでに手遅れではあるが……用件は、ネックレスを全て騎士団で買い取らせてもらいたいのだが、構わないか?」

 私の御守りは、バイキン族の使う弱体化の効果を防ぐこともあって、とても重宝されているらしい。だからそのこと自体は不思議じゃないのだけれど……。

「ネージュ? そんなことのために、わざわざ貴女が来る訳ないでしょう? 本当の目的は何?」
 親友だからこそわかる。今日の彼女は少し様子がおかしい。

「……お前には敵わないな。そうだな、伝えたいことが二つある。良い知らせと、悪い知らせ、どちらから聞きたい?」
 くっ、また古典的な……
「そうね……じゃあ良い方からお願い」
「わかった、まず良い方だが、お前の探している姉について、もしかするとキャメロニアにいるかもしれない」
 まったく予想もしていなかった情報に、不意打ちを食らい頭が真っ白になる。

「若くしてキャメロニアの筆頭宮廷魔導師になった女性がいるんだが、容姿は不明ながら、名前がお前の探している姉と同じだったので、もしやと思ってな。ホワイティアやキャメロニアには居ない珍しい名前でもあるし」

 知らず涙が零れて止まらない。もちろんあくまで可能性がある程度の話だってことぐらいわかっている。

 でも、この7年間、それらしい情報も無く、諦めかけていた私にとって、どれほど欲しかった情報だろう。どんなに勇気がもらえることだろう。

「ヴァニラ……あくまで可能性だから、ぬか喜びさせてしまったらすまない」
「ううん……ありがとう、ネージュ、私にとっては生きる希望になるもの。感謝してます」

 これで次の目標が決まった。問題はキャメロニアとホワイティアに国交がないことぐらいだ。いや、ぐらいというほど小さい問題ではないが、その気になれば、方法などいくらでもあるのだから。
 
「それで、悪い方の情報だが……」
 舞い上がっていて、すっかり忘れていた。ああ失敗したな。先に悪い方を聞くべきだったかもしれない。



「ヴァニラ、荷物をまとめて今すぐこの街を出るんだ。あまり時間は残っていないかもしれない」

 親友の口から告げられた言葉は、天まで舞い上がった私の心を瞬時に引きずり下ろしてしまうほど、重く真剣なものだった。 

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