異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
聖剣との契約と救われた魂と
「それでは、英雄さまを私の本体のところまで案内致しますわ」
エロースの案内で、聖剣本体があるという場所へ向かう。その場所は、国家最大の秘密であり、同行が許されたのは、すでに場所を知っているヴァーミリオン陛下とアーサー王子、ルーザー王子、俺と勇者美琴だけだ。
エレベーターを使い一気に下まで降りてゆく。一番下まで到着すると、降りる方向と反対側に隠し扉があり、そのまま階段を下りてゆく。ほのかに水の匂いが鼻腔をくすぐることから、水源が近くにあるのだろう。
「……ここよ。入ってちょうだい」
エロースに連れられて辿り着いたのは、光輝く小さな泉と、その畔に突き刺さった一本の剣。見紛う事なきエロスカリバー本体で間違いない。
「私を手に入れたくば、見事引き抜いてご覧なさい。これまで誰も成し遂げられなかったけれどね」
「我らも何度も挑戦してみたが、抜くどころか微動だにしないのである。一体どうなっているのやら」
なるほど、抜けばいいのか。ふふふ、ここは久し振りに全力を出すのも悪くない。抑えていた力を開放し、パワー系スキルを発動する。
「な、何これ……空間が歪んで……世界が悲鳴を上げている……!?」
エロースが驚きで目を見開く。
「!? ち、ちょっと先輩、ヤバいって。力が漏れてるよ!?」
「じゃあ、一気に引き抜くからな? せーの!」
剣の柄を握って力を込めた瞬間――――
「ん? あれ……ここはどこだ?」
いつの間にか周りには誰も居なくなっていて、ただ光り輝く泉だけが、変わらず澄んだ水を湛えている。
「……英雄さま、私を殺すおつもりですか?」
不意に声を掛けられ振り返ると、ジト目でにらむエロースが腕を組んで立っている。
「いや……俺はただ剣を抜こうとしただけなんだが」
「あのまま引き抜いていたら、私の体は千切れてしまっていましたわ。まったくどれだけ規格外の力をお持ちなんですか」
心底呆れた様子でプリプリ怒るエロース。それはヤバかったな。凄惨なスプラッタになるところだったよ。
実は、剣を引き抜くうんぬんは、あくまで剣を握らせるための方便であって、実際には刺さっているように見える地面も含めて聖剣の一部であり、抜けないようになっているらしい。
「それは悪かったな。それで、ここはどこなんだ? 異空間ともちょっと違う感じだが……」
どちらかというと、前にリリスと夢の回廊の中に入った時に近い感覚だ。
「ここは、エロスカリバーの意識の中、記憶の世界ですわ、英雄さま」
声が聞こえると同時に、ふたたびエロースが姿が消える。それと同時に、たくさんの悲鳴と怒号が聞こえてくる。これは……過去の記憶か? 白髪の異民族に蹂躙される赤髪の人々。その中に一人だけ白髪の女性がいる。エロースに雰囲気がよく似た女性だ。
(彼女がラウラ。英雄ガリオンたちキャメロニア人と敵対する異民族の姫よ。二人は愛し合っていたのだけれど、結局、戦争は止められなかったの)
エロースが悲しそうに教えてくれる。
「ラウラさま、奴ならもう死にました。どうかお戻りを」
「……ガリオンさまが亡くなられたのでしたら、私が生きている意味などもはやありません」
兵士たちの制止もむなしく、世界に絶望し、自ら泉に身を投げてガリオンの後を追うラウラ。
(この時ガリオンは生きていたのだけれど、死んだという言葉を信じて後を追ったのよ)
「ラウラああああ!」
駆け込んでくる赤髪の青年。彼がガリオンだろうか?
「き、貴様はガリオン!? 生きていたのか……ぎゃああああ!!」
満身創痍ではあったものの、最後の気力を振り絞って異民族の兵を切り伏せるガリオン。
「おい、ラウラは? 彼女はどこだ!!」
「……ラウラさまなら……貴様が死んだと知って……泉に身を投げて……ごふっ!?」
「お、おい、死ぬな、嘘だって言えよ! そんなの嘘だって言えよ……」
動かなくなった兵士をそっと地面に寝かせて這いずるように泉に向かうガリオン。
「安心しろ、ラウラ。俺もすぐに……そばに行くからな……」
全身に矢を受けて、出血も酷い。おそらく長くはない。せめて彼女のそばで逝きたいと願ったのだろう。
(この時、一部始終を見ていた水の精霊は、彼らを不憫に思ったのでしょう。泉の底に沈んだラウラの亡骸をガリオンの隣に引き上げ、こう言ったのです)
『ガリオン……ラウラとお腹の子の魂は、いまだここに留まっています。もし、どんな形でもいいと貴方が望むのなら、繋ぎとめることもできますよ』
「精霊様……お願いします。どんな形でもいい、私が死ぬまででいい。どうか一緒に……」
(ガリオンは、自分の命が長くないことを悟っていましたから、精霊の言葉にせめてもと飛びつきました……でも、精霊との言葉のやり取りが契約となることを彼は理解していなかったのですね)
『……わかりました。では、二人の魂は、貴方の剣となり、貴方を子々孫々まで守る力となるでしょう』
(こうしてラウラと二人の子の魂を依代に誕生したのが、聖剣エロスカリバー。そう……私です)
瀕死だったガリオンは聖剣の力で一命をとりとめ、この地方を統一する英雄となります。そして私は、英雄を支える妻として、娘として彼の力になり続けていったのですわ。
「でも、ガリオンは自分が死ぬまでって言ったのに、なんで子々孫々まで守ることになっているんだ?」
(精霊には死の概念がありませんから、人間の場合も、子孫がいる限り生き続けていると考えたのでしょうね)
「じゃあ……エロースはずっと一人で?」
(ふふっ、ひとりじゃないですよ? あの人の子孫は私の子供達でもあるのですから。でも……そろそろ終わりにしたい気持ちもあるのです。だからヴァーミリオンが終わりにしたいっていった時、実はとても嬉しかったんです。ようやくこの時が来たかと。でも、それには彼を殺さなければならない。もうどうすればいいのかわからないのですよ)
エロースの声は、深い悲しみと困惑の色に染まっていて、疲れた老婆のようでもあり、助けを求める少女のようでもあった。
「エロース。俺、言ったよな? 契約の上書きしてやるって。救ってやるってさ。当然お前のことも入っているんだぜ?」
(英雄さま……)
薄いピンク色の髪に淡い桃色の瞳のエロースが姿を現す。その揺れる瞳から涙があふれて零れ落ちる。
「おいでエロース。俺が注いでやる。800年を超えてみせる」
『あああああああ!? すごい、濃いいいいい!? あ……超えちゃう、ああああああああああ!?」
***
『……ありがとうございました、英雄さま。これでようやくあの人の下へ行けます』
そういって頭を下げるエロースの姿は、すっかり白髪に変わっていた。
「長い間、お疲れさまでした……ラウラさん」
ラウラさんは天使のようににこりと微笑むと空に溶けるように消えていった。今度こそガリオンと一緒に暮らせるといいですね。
聖剣は無くなってしまったけど、きっとこれで良かったんだと俺は思う。陛下には、俺が何か代わりを作ってあげてもいいしな。
「はい、それでいいと思いますわ。英雄さま」
「うわああああ!? え? なんで? 消えたんじゃないの?」
「ふふっ、消えたのはラウラお母様の魂だけですわ。あんなことされてしまったのですから、一生面倒見てくださいね? ご主人さま」
抱き着いてくるエロースをそっと優しく抱きしめる。その刃で怪我をしないように気を付けながら。
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