異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

アーサー王子と王家の事情


『カケルさま、お客様です』
 ヒルデガルドが再び来客を告げる。

「分かった、お通ししてくれ」
 マーリンたちとは入れ違いに今度はアーサー殿下がやって来た。

「英雄殿、突然の訪問を許して欲しい。キャメロニア王国第1王子アーサーだ」
「円卓の騎士筆頭ランスロットです」
 
 綺麗な礼をするアーサー王子と騎士ランスロット。王族なのに気取ったところが一切ない。なるほど、これは人気が出る訳だ。おまけに二人ともとんでもない美形だしな。

「異世界人の英雄カケルです。こちらこそ、お会いしたかったので、嬉しいですよ」
「そ、そうか、そう言ってもらえると助かる」
 ようやく緊張が少し解れたようで、小さく息を吐くアーサー王子。

「実は、アーサー王子には、色々と伺いたいことがあったのですが……」
「え? 英雄殿が私に?」
 一体何を聞かれるのかと、再び緊張の面持ちになる王子。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。悪いようにはしませんから。



「なぜ……男のフリをしているんですか?」
 俺の言葉に一瞬部屋の中の時間が止まる。ヒルデガルド以外の婚約者たちも、いきなり何を言い出すのかと、きょとんとしている。


「な!? なぜ……それを……」
 絶句するアーサー王子と辺りを気にするランスロット。
「大丈夫です。この部屋全体を周りの空間と切り離してありますから、聞かれる心配はないですよ」
 別に結界でも良かったんだけど、マーリンから記憶した空間魔法を早速使ってみたかったんだよね。ふふふ。

「確かに普通の鑑定では見抜けないでしょうね。身体も男になってますし。もしかして世界樹の実を使いましたか?」
「驚いたな……そこまで分かるものなのか……その通りだ。私の本当の名は、アーシェ、王弟の娘、本来であれば、公爵令嬢だったはずの元女性だ」
「あ、アーサー殿下、それ以上は――――」
「構わん、むしろ、ここまで知られている以上、すべてを話し、協力を仰いだ方が良いだろう」
 頭の回転が良い方だ。こちらから言おうと思っていたが、どうやらその必要はなさそうだな。


「英雄殿は、聖剣エロスカリバーのことをどこまでご存知かな?」
「おそらく、一般国民と大差ないレベルのことしか知らないと思う」
「では、王位継承の儀についても同様と考えていいだろうか?」
 黙って首肯する。

「まず、大前提として、エロスカリバーは意思を持った剣だ。そして、自ら所有者を決めるのだが、その選定が王位継承の儀として、広く知られている。表向きは」
「実態は違うのか? 聖剣が主を選ぶのはよくある話だと思うが? 私の剣、イルシオンもそのタイプだ。なあ、イルシオン?」
 セレスティーナの言葉に反応してぶるぶると応える魔剣イルシオン。

「うむ、似ているようで厳密には違う。古の英雄ガリオンは、聖剣とある契約を結んだ。力を借りる代わりに、自分の子を一人捧げると。そしてその契約は子孫にも受け継がれ、今なおその古い契約に縛られているのだ……」
 辛そうに顔を歪めるアーサー王子。
「ち、ちょっと待ってください。それじゃあ生贄じゃないですか? そんな酷い話――――」
「ああ、すまん。捧げるとはいっても、別に命を取られるわけではないのだ」
「へ? じゃあ一体何を?」
「そ、それはだな……その……」
「子種です、英雄殿。選ばれたものは、死ぬまで毎晩、聖剣に搾り取られるのです」
 言いよどむアーサー王子に代わってランスロットがフォローする。

「……マジで?」
「……マジです」
 くっ、反応に困る。もし聖剣が夜な夜なシグレみたいな美少女になって……というのなら、むしろ羨ましいまであるが。剣のままとか、老婆の姿とかだったら、まさに生き地獄。

「ヴァーミリオン陛下は、男子に恵まれず、仕方なく公爵家から養子を受け入れ、代わりに公爵家には王女が養子に行ったのです」
「それじゃあ、エレインは……」
「はい、エレインさまこそ、陛下の本当の娘。だからこそ、陛下はエレインさまを溺愛されているのですよ」
 なるほどな。道理で姪っ子に対する態度じゃないと思ったんだよな。あれ? でも変だな。

「だったら、何でアーシェはアーサーになったんだ? ルーザーがいれば十分だろ?」
「……あれでも、ルーザーは、私の可愛い弟なんだ。私が身代わりになれればと思ったんだ」
 そうか……アーシェは、ルーザーを守るために……
「ああ、聖剣はまな板なんだ。弟は生粋の巨乳好きなのに可哀想だろ?」
「…………そうですね」
 そうか……アーシェは、残念なルーザーを守るために……しかし聖剣はまな板。弟くんは人生の楽しみの半分を失っていることに気付くべきだな。実に愚かだ。いやまてよ……もしかして、ルーザーが王になろうとしているのは、姉のアーシェの為なのか?

 ふとそのことに思い当たる。だとすれば美しい姉弟愛が周りの思惑に利用されているわけか。悲しいことだな。

「だが、一番の問題は、ここにきて父上が、継承の議を自分の代で終わらせると言い出したことなのだ」
 なるほど、たしかにヴァーミリオン陛下ならば、この呪縛を終わらせようと考えても不思議ではないな。
「……そうなると何か問題でもあるのか?」
 たしかに聖剣の加護は無くなるかもしれないが、アーサーたちにとっては良いことのような気もする。国としてもよほど健全だろう。

「……父上は聖剣によって命を奪われ、正統性を失った王家は、おそらく宰相たちによって簒奪されることになるだろう。私は王位に執着などないが、その結果、国民が苦しむことは避けなければならない。残念ながら、ルーザーは完全に宰相の操り人形と化している。私が王になるしかないのだ」

「……なるほど、それで、聖剣に代わるものとして、聖杯を必死に探していたんだな?」
 黙って頷くアーサー王子とランスロット。

「話はわかった。大丈夫、俺に任せてくれ。絶対に何とかして見せるから」

 二人を元気づけるように力強く宣言する。

 やめてくれアーサー王子。そんなにきらきらした瞳で見つめられると変な気持ちになる。元女性だとわかってはいるけど、今の貴方は男性なんだからね!  

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