異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

幸せのポテトサラダ


 
「エレインさん、大丈夫だ。俺が治せる。心配しなくていい」

 燃えるような赤い髪が風に揺れて、ルビーのような瞳が涙に濡れている。

 わずかな時間だけど、彼女はとても優しい女性だと感じた。

 とても高潔で強い人。決して他人には弱みを見せない人。それでも、他人のためなら涙を流せる人だ。弱さを見せることが出来る女性だ。力になってあげたいと、心からそう思った。


『いいか、ドーラ、この水を飲めばお前の病気は治る。エレインを悲しませなくて済むんだよ』

 ドーラの頭を撫でて安心させる。ワイバーンは人見知りらしいからな。

『……はい、分かりました。エレインを悲しませるなんて嫌ですから……』

 目を潤ませながら、頷くドーラ。

 やはり言葉が通じるのは大きい。ドーラはちゃんと神水を飲んでくれた。


「嘘……私以外の人間は、触れることすら出来ないのに。頭を撫でて、薬を飲ませるなんて……」

 いまだ信じられない様子のエレインさん。

 身体が、淡く輝きだして、すっかり元気な様子のドーラ。

『キュルルルルル!』

 嬉しそうに鳴き声を上げる。良かったなドーラ。見違えたように鱗も輝いている。

(……やべえ、ドーラに俺の保護ついちゃったよ。おまけに進化してめっちゃ強くなってるんだが。ま、まあ黙ってればわからないだろ)

「ああ、ドーラ、こんなに元気になって……古傷まで無くなっているじゃないか!!」

 泣きながらドーラに抱きつくエレインさん。他の騎士団員たちも、嬉しそうに、その輪に加わってゆく。素晴らしく美しいワンシーンだ。


「先輩……聖剣、使わなくてよかったね」
「せやな」

 うん、本当に血迷って使わないで良かったよ。使ってみたいとは思うが、今じゃない。あーあ、遠慮なく剣を振るえる女盗賊とか、悪の女騎士とかいないかな~

 無い物ねだりとはわかっているが、無いと思うと欲しくなるのが人情。女神さまに祈りを捧げておこう。ご利益があるかもしれないからな。


***


「本当にありがとうございました。この恩は、この身をもって必ずお返しいたします」

 綺麗な騎士の礼をするエレイン竜騎士団長。なんか独特の言い回しが気になるけど、感謝されて悪い気はしない。

「お役に立てて良かった。それで……早速なんだけど、国王陛下との謁見の件、頼めるかな?」
「もちろんです。嫌だといっても無理やり引っ張りだしますから、ご安心を」

 溺愛している姪っ子であるエレインさんには、国王陛下も逆らえないらしいから笑えないですよ。

「ははは……無理しないでいいからね?」

 なにやら、やる気十二分のエレインさんに若干気押されながら、とりあえず控室へ移動する。


「……ところで、カケル殿、先ほどから気になっていたのだが、なぜベルトナー男爵がカケル殿と一緒にいるのです? 彼は新大陸を目指して航海中だったはずだが……」

 ベルトナーくん影薄いし、このまま気付かれないかもと思っていたけど、さすがに気付くか。まあ、当然そう思うよな。

「実は、貴国、キャメロニアの兵たちが、いきなり略奪行為をしてきて、さらには俺の家族をさらったり、奴隷にしようとしたんだよ」

「なっ!? それは……本当ですか? そ、それで……兵士たちは?」

 驚愕の表情を浮かべるエレインさん。ん? 何に驚いているんだ?

「ご心配なく。全員無力化して鉱山で働いてもらっているよ。今回は、その兵士たちの返還交渉に来たんだ。ベルトナーくんは、同じ異世界出身のよしみで、案内役を頼んだだけだよ」

「そ、それは……かたじけない。くっ、だが、なんて事を……キャメロニアの恥晒しめ……だからガウェインを派遣するのは反対だったんだ……」

 悔しそうにギリッと歯を食いしばるエレインさん。なるほど、略奪はあくまで現地の判断で、国からの命令ではないということか。まあ、遠い海の上、監視のしようがないからな。国としては、報告をそのまま信じるしかないだろう。
  
「ああ、たしかにガウェインは中々のクズだったな。そちらの都合もわからなくはないから、なるべく殺さないようにはしたけど、いつまでもこのままって訳にもいかないからな」
「そ、それはそうですね。兵士たちを見捨てる訳にはまいりません。ご厚情感謝いたします」

「まあ、仕方ない部分もあるさ。長い航海だ。士気を保つ為には、必要なことだったんだと思うぞ? 降りかかってきたから火の粉は払ったけどな。交渉次第だけど、悪いようにはしないから安心して」
「ありがとうございます……陛下にはきちんと報告するので安心して下さい。急いで謁見の準備をさせますから、少しだけお待ちを」

 急いで出ていこうとするエレインさんを呼び止める。

「あ、そうだ、ここだけの話なんだけど、エレインさんは、アーサー殿下とルーザー殿下、どちら派なんだ?」
「む……立場上、はっきり口には出せないが、ルーザー殿下のやり方には賛同できない部分が多いとは思っています」

 竜騎士団長という立場上、ぎりぎりの発言ではあるけれど、少なくともアーサー殿下寄りってことだよな。

「わかった、ありがとう」

 うーん、それにしてもルーザー殿下どんだけ人気ないんだよ。これで、ルーザー殿下が長男だっていうなら、まだわかるんだけど、アーサー殿下が危機感を抱く理由がいまいちわからないな。

 何かルーザー殿下に切り札があるのか、それともやはり、王位継承の儀に何かあるのかもしれない。



「先輩、これ、見てよ」
「ん? おおっ、それはまさか……」
「んふふ~、ポテチ発見なり!!」

 なんと控室に運ばれてきた軽食の中に、ポテチがあったのだ。

「どれどれ……おおっ、確かにポテチっぽい」
「だよね? ああ……幸せえええ……」

「あれ? ひょっとしてポテチないの? 他の国?」
「……ない。というかジャガイモがない」

 そうなんだ。ジャガイモに近い作物がなくて困っていたんだったよ。

「おお、それなら、キャロイモは、この国の主要農産物だから、輸出できるんじゃないかな」
「でかしたベルトナーくん。これでまたピースが埋まったよ」

 ふふふ、これでやっとポテトサラダが作れる。マヨネーズもあるしな。

「ナイトさま、これとても美味しいです」
「うん、たしかに止まらないクセになる旨さですね」

 ノスタルジアや、ミヤビも気に入ったようだ。だが、俺からすれば、このポテチもどきは、未完成もいいところだ。もっともっと美味しくできるはず。

 新たな食材との出会いに心躍らせるカケル。

 頭の中は、新しいレシピのことで一杯になっているのだった。
 


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