異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
竜騎士団長エレイン
「団長、大変です! 空の結界を破って侵入して来た者がいるとのことです。このアヴァロンに向けて真っ直ぐ飛行中、このままですと、20分もかからずここまでやって来ます!」
副官のカルラが、血相を変えて飛び込んでくる。
馬鹿な……ワイバーンですら破れない結界だぞ?
「数は?」
「飛行体は1です」
「よし、出るぞ! 目的、正体ともに不明だが、このまま見過ごす訳にもいかない」
「はっ、すでに準備出来ております」
愛騎であるワイバーンに飛び乗り、アヴァロンの街へ向けて飛び降りる。
「すまんなドーラ。休ませてやりたかったんだが」
最近、私の騎獣である、シルバーワイバーンのドーラの具合があまり良くない。労るように首筋を擦る。
風を巧みに捉えたワイバーンは、グライダーのように滑空しながら、高度を上げ大空へ舞い上がる。
ワイバーンは、地上から飛び立つのがあまり得意ではないので、竜騎士団の本拠地は、この浮遊庭園にあるのだ。
エリート部隊である竜騎士団は、国の守りを担い、その圧倒的な機動力を活かして、脅威にいち早く対処することが求められている。
「しかし……あっさりと結界を破るとは……竜種かもしれんな、カルラ」
「うえっ!? それは勘弁願いたいですね」
もし単なるはぐれならば対処可能だが、果たして……
「対象飛行体が停止しました!」
「分かった。総員準戦闘態勢だ」
こちらの動きに気付いたか。他国の使者かもしれない。とりあえず様子をみた方が良さそうだな。
「あ、あれは……」
副官のカルラが絶句する。
空中に鎮座するその巨大な異形。100メートル近い大きさにワイバーンたちも本能的に恐れをなし震えている。
無理もない……暗黒竜など私も初めてみるが、あの黒い鱗、燃えたぎるような紅い眼、間違いない。竜種の中でも最悪最凶の暗黒竜だ。
しかも、人が乗っているだと? 信じられん。竜種はワイバーンのような亜竜とは違い、人に馴れることは決してない。ましてや背中に乗せるなど。
いや……ひとつだけ可能性があるか。
あまり考えたくない可能性だが、乗っている人間が竜よりも圧倒的に強い場合、竜種は従うこともある。
例が無い訳ではない。歴史上、竜を騎獣とした英雄もいたと聞く。
(……そうか、異世界人か!!)
よく見れば、黒髪の人間がいる。ならば、無用な争いは避けなければ。
単に旅行に来ただけかもしれない、というより、そうであって欲しい。侵略者であれば、我らはここで命を散らすことになるだろうから。
嫌な汗が背筋を冷やす。
「キャメロニア竜騎士団長のエレインだ。我が国に何用か?」
努めて冷静に問いかける。相手が理智的な人間であることを願って。
「これはご丁寧な出迎え感謝する。俺は異世界人の英雄カケルだ。貴国と交渉がしたい。国王陛下との面会は可能か?」
良かった……一応話が通じる相手のようだ。
しかし……くっ、格好良い……目が離せない。鋼鉄の女傑と言われるこの私の殿方耐性をあっさり突破するとは……これが……英雄の力だと言うのか?
「分かった、カケル殿。英雄の訪問を歓迎する。付いてきてくれ」
ふぅ……甲冑を着ていて良かった。多分、顔が赤い。見られなくて助かったな。
私たち竜騎士団が先導する形で英雄殿が乗る暗黒竜が少し離れて付いてくる。
「あの……団長?」
「何だ、カルラ」
「英雄さま、格好良くないですか!!」
「…………そうだな、悪くない」
「ですよね!! うはあ、もう駄目ドキドキで死にそう」
カルラよ、気持ちはわかるが、しっかりしてくれ。お前までそんな風でどうする?
使い物にならない副官に呆れながらも、視線は黒髪の青年を追ってしまう。
くっ、何だこれは!? 乙女か! ま、まさか……これが伝説の一目惚れという奴か? それとも、憧れの運命の人? はうう……
いかん、しっかりしろエレイン! 英雄殿は交渉といっておられた。ということは、何か懸案があるのかもしれない。当然なんらかの見返りも必要になるだろう。英雄は色を好むと聞くしな。
だが、我が国に、妙齢の王女はいない。そうなれば、公爵令嬢であるこの私が犠牲になるしかない。仕方ない……国のために喜んでこの身を捧げようではないか! くふっ、くふふふ。
「……団長? どうしたんですか、さっきから黙りこんで?」
「……なんでもない。国の安寧を考えていたのだ」
本拠地である浮遊庭園に到着する。あらかじめ伝令を飛ばしていたので、大きな混乱も無く、受け入れは無事完了する。
「エレインさん、ちょっといいかな?」
「ふえっ!? な、なんだろうか?」
到着するなり、カケル殿に話しかけられる。ま、待って、心の準備が……
「貴女のワイバーン、病気にかかってるな」
「!? や、やはりそうか……神官にも診てもらったんだが、原因がわからずにいたのだ」
「……セキカ病だな。このままだといずれ全身が石のように硬化して死ぬ」
「せ、セキカ病……だと……?」
目の前が真っ暗になる。
治療法が確立されていない、亜竜種特有の奇病だ。末期になると、筆舌に尽くしがたい痛みに苦しみぬいて死ぬのだ。かかったら最後、出来ることは、安楽死させてやるぐらいしかない。
物心ついた時から、家族として過ごしてきたドーラ。
私に出来るのか? 知らず身体が震える。なんと情けないことだ。これで騎士団長がつとまるのか。
「エレインさん、大丈夫だ。俺が治せる。心配しなくていい」
そういって微笑む彼の笑顔が優しくて、温かくて。
私は泣きながら頷くことしか出来なかった。
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