異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

守備隊長アクア


「わかりました。すぐにクラーケンを排除して、『三又の矛』を安定させて見せましょう」

 自信満々に言い放つ。

「陛下、一月にも満たない王女の保護の対価にしては、いくら何でも条件が厳し過ぎます」

 それまで黙ってやり取りを聞いていた宰相のサバンさんがたまらず陛下に進言する。

「黙れサバン、せっかく英雄殿がやってくれると言っているのに、余計なことを申すでないわ!」
「しかし、それでは誇り高きアビスの名が泣きまする!」

 涙ながらに陛下に訴えかけるサバンさん。

「むむっ、確かに一理ある。そうじゃな……見事成功の暁には、我が娘を嫁にやろう。うむ、それが良い!」

 ――――と、ここまで棒読み。

 なるほど、最初からこの展開は規定路線だったわけだな。それはそれとして。

 娘をやるとか言われても困るんですが!?

 陛下の娘だから、サメ娘? くっ、深海魚よりはマシな気がするが……いや、そうじゃない! やはり当人同士が納得しなければ、幸せにはなれないからな。


「陛下、お気持ちは嬉しいのですが、やはり当人同士の気持ちが大事かと」
「む、それは違いない。だが、娘は幼い頃から英雄に憧れているのでな、嫌とは言うまいよ。それに、娘は我がアビス一可憐と評判じゃ。きっと英雄殿も気に入るはずじゃ」

 とりあえず、あまり強く断るのも失礼だし、結論は先送りにする。万が一美少女だったら、とか考えた訳ではない。ないったらない。


***


 結局、シェーラ殿下には会えなかったが、とにかく今はクラーケンを排除するのが先だ。

 一旦、アビスを出て、三叉の矛が祀られているという祠を目指す。


「なあリーヴァ、三叉の矛ってどんなものなんだ?」
『……知らん』
「は? だってお前からもらったって言ってたじゃないか?」
『うーむ、少なくとも千年以上前の話だからな……』
「まあ、現物見れば思い出すんじゃないか?」
『ふふっ、それもそうだな』

 俺にぴったりくっついて離れないリーヴァ。くっ、甘やかしたい。庇護欲をそそられるが、こう見えて世界最強の一角。

「でも、先輩大丈夫? アビスの王女さま、深海魚だったらどうするの?」
「うっ、それな。まあ、声が女性なら何とかなる気はする」
「……さすが先輩、尊敬するわ」

 戦慄の表情を浮かべる美琴。

「噂では余りに個性的過ぎて嫁ぎ先が無いとか何とか」
「あ、それ聞いたことありますよ! 表には出せないから、深海の令嬢とか言われているんですよね」

 キトラ、フローネ、あまり怖いこと言わないで欲しいんだけど?


「イヤあああ!? 誰か助けてえええぇっ!」

「先輩、テンプレ来たよ!」 
「美琴、テンプレじゃない、助けを求める声だ。リーヴァ、シードラ、みんなを頼む」

『任せておけ主』
『分かりました主様』

 水中での移動は本来大変だが、俺たちには短距離転移がある。

 待ってろよ、テンプレ。いや助けを求める人!


***

 
「くそっ、団長が捕まってしまった!」
「お前たちだけでも逃げろ! 私はもう助からない。ならば、犠牲は最小限で良い。急いで国民を避難させるんだ!」

 くっ、何たることだ、クラーケンが増えただけではなく、アビスへ襲いかかってくるとは……やはり結界が緩んでいるのか? 何とか避難が間に合ってくれると良いのだが。

 クラーケンの触手が伸びてくる。

 ああ、私もクラーケンに喰われてお終いか……悔いは無いが、お嫁さんになりたかったな。ふふっ、私らしくも無いが。

 クラーケンが、私の手足を拘束してゆく、奴らは、身体中の骨を粉々に砕いてから、ゆっくり喰らうらしい。
  
 おぞましいことだが、最初に打ち込まれた麻酔針のおかげで、あまり痛みを感じないのが、せめてもの救いか……

 ん? 何だ、様子がおかしい……骨を砕く訳でもなく、服を破いているのか? なるほど、確かに服は喰えないからな。まったくデカイ図体のくせにグルメなことだ。

 くっ、おかしい……身体が熱い? うはっ、触手が触れると……全身が敏感になって……な、何だこれは……や、やめろ!? そこは駄目だ! お嫁さんに行けなくなってしまう。


「イヤあああ!? 誰か助けてえええぇっ!」

 たまらず叫んでしまう。馬鹿なことをした。助けなど来るはずが無いと、自分が1番分かっているはずなのにな。


 でも――――


「大丈夫か? 俺はカケル。異世界の英雄だ」
「大丈夫? 私は美琴、異世界から来た勇者だよ!」

 夢でも見ているのだろうか? 

 現実感がまるで無い。私は助かったのか? 何で? どうして? 様々な想いが溢れ出して交差する。

 でも……今言えることは――――

「あの、大変申し訳ないんですが、そろそろ助けていただいても?」

「くっ、すまない、さっきから助けようとはしているんだが、中々隙が見つからなくてな」
「本当にごめんね、もう少しで攻略法が見つかりそうだから、あと少しだけ耐えて!」

 そ、そうだった……こいつは海の魔物の中でも最強クラスのクラーケン。しかも明らかに普通とは違う変異種だ。そう簡単にいくはずもないではないか。

 だが……くっ、私の身体も限界が近い、あ、ああああああ!? も、もう無理いいいいい!

「先輩!」
「分かってる、出でよデスサイズ、頼むぞシグレ!」

 ザシュッ!!!

『GRRRRRRRRRRRRRAAAAA!?』

 言葉にならない絶叫を上げて、クラーケンが絶命した。す、すごい……一撃で?

「……はぁ、はぁ……な、何とか倒せたみたいだな」

 私を助けてくれた英雄殿が力尽きたように片膝を付く。あれほどの一撃だ。おそらく全ての力を使い果たしたのだろう。ありがたくて涙が出る。

「私はアクア、アビス王国の守備隊長だ……英雄殿、せめて貴方を癒すことを許して欲しい。この私のユニークスキル『癒しの浮き袋』で!」

 我々魚人族は、海中での移動をスムーズにおこなうため、浮き袋という器官がある。私はこの浮き袋を圧迫することで、癒し効果のある液体を分泌することができる。身体にかけるだけでも効果はあるが、やはり直接体内に取り込むのが一番効果が高いのだ。

「くっ、助かるよアクア……直接飲んで大丈夫なのか?」
「もちろんだ。それが一番効果が高い。さあ遠慮など要らない、飲んでくれ。浮き袋を揉むように圧迫するのがコツだ」
「……分かった。やってみよう」

「くっ、そ、そうだ……上手いな……あ、ちょっと待ってくれ、クラーケンの毒がまだ残って……ああああああああ!?」

「おおっ、すごい効果だ! ありがとうアクア、すっかり回復したよ」
「そ、そうか……それは良かった」

 す、すごかった……もう足腰が立たないくらいにすごかった。

「じゃあ、次は私ね」
「ふえっ!? ち、ちょっと待って、まだ出したばかりで……ああああああああ!?」


 すっかり元気になった二人の異世界人と疲労困憊のアクアであった。


   

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